歴史と伝統ある陰陽師の末裔が霊能力ゼロ。
でも喰ってくためにインチキ除霊の日々。
というお話です。
ですが。
帯等々に「お仕事コメディ」とキャッチ付けた奴、出てこいや!
中身見ずに書いたか、それともあえてのミスリードか。
はっきり言います。
良質の映画を観終えた。
そんな読後感です。
それほどに一冊できっちり見事に完結している。
巷では続編希望の声も見受けられますが。それは褒め言葉になっていません。
なぜなら、過不足無く完璧な構成で完結しているからです。続編なんてやったら蛇足ですよ。
コメディ要素は、あくまでも薬味程度。
実のところ、そこそこ深くて重たいお話です。
つまり、悪質霊感商法や強欲新興宗教について真剣に(そしてド派手に♪)描かれているのです。
全七話構成で、それぞれでちゃんと締めていながら。
一冊の本として綺麗に起承転結が成立しています。
しかも、それぞれのパーツでしっかり序破急があり、大ゴマの配置、間の取りかた、などなどとにかく無駄が一切ありません。
絵もパワーが伝わってきますし(クライマックスの見開きとか圧巻)。
すばらです。
以下はネタバレの危険性がありますので、畳んで反転。
第一話のあの人が最後に重要人物になったり、第三話のあの台詞が大きな鍵になったり。
と、布石・伏線にも隙がない。
ホント、一本の映画だわ。
個人的に気に入ったのは。
主人公・玲子さんを、主人公であるにも関わらず美キャラにしなかったことですね。
モブ♀のほうが、はるかに美人なんですよ。
誤解されると困るのですが、玲子さんはたいへんに魅力的です。まあ要は普通の人なんですけどね。猫好きでお調子者でチョロくて平均的良心回路を持ってるただのアラサー(笑)。
対して、従者(つかマネージャーから変じて黒幕だな最早)の葛西は正真正銘のクズ詐欺師です。
ですが、それでも憎めない。
たぶん葛西の本意は、あまりにも警戒心が無く頼りなくて危なっかしい玲子さんを放っておけなかったのでしょう。葛西の思い出話に、それが覗えます。
ただ、玲子さんを支える方法が極限まで黒に近いグレーだったというだけで……(汗々)。
「蘆屋道満の末裔」という主張によって、玲子さんは論外として(笑)、本物の霊能者(FBIにも捜査協力・事件解決したとのこと)であった蘆屋彌生(玲子さんの亡き祖母)を含む蘆屋家そのものが胡散臭く見えてしまうあたりも、巧みな仕込みですね。
歴史上、蘆屋道満の実在については半々なのです。故に、玲子さんの実家が「蘆屋道満の末裔」であるという触れ込みも怪しく見えざるを得ない罠。
回想シーンに、蘆屋彌生が偽祈祷師という解釈もできる箇所がありますし。
一方で逆に、ひょっとすると玲子さんは能力者? と無理すれば思えなくもない箇所もあり、ズルくも上手いなあ、とも(笑)。
そんなこんなの境遇を経て、それでも前に進むしかない小市民な善人・玲子さんの「自分探し」物語とも言えますねこれ。古臭い表現ですが(汗)。
本編で描かれたのは半年ほどの物語(エピローグを除く)ですが、玲子さんは大きく成長しました。
それを示すべく、カバー絵と巻末の大ゴマとで対比にしているのです。ここも上手いなあ。
続編を希望するのではなく。
作者さんの新作を期待する。
と言うほうが、遙かに褒め言葉だと思います。
良い物を読ませていただきました。