一粒万倍日 (旧暦 師走廿四日)

 社会科の教員免許を持っているとて、別に日本史のマニアでも専門家でもない。
 ましてや、あばれる君は芸人さん。何事についても現場Dの指示に従い口を噤むのは、某無人島脱出でも証明されたわけで。

 なので、あの専門家氏の言いなりなのは当然であって、あばれる君がどうこうというつもりは皆無です。
 まずは、そこをはっきりさせておきます。

 そのうえで。
 京の都を夜な夜な練り歩いた鬼どもの正体が疫病という説は頷けます。
 当時の都は治安ばかりか衛生も最悪でしたからね。おまけに医学も未発達なので死体ゴロゴロも当然のこと。例えば妖怪「帷子が辻」などは、それを具体的に顕したものです。

 ただ。
 酒呑童子も同様に疫病だとする考えには同意できません。論理が飛躍しすぎです。

 源頼光と四天王が酒呑童子に酒を振る舞ったのを「アルコール消毒」などとは、戯言も大概にしてほしい。
 いや、確かに酒には邪気を払う効果があるとされますが。
 でもね。酒をそう使うのは、あくまでも心霊系の専門家。霊能者つまりは僧侶や神職、そして何より当時なら陰陽師。番組で紹介されたのとは別の偉い人が夜道で鬼と出くわしかけたとき、早期警戒機のごとくに敵を認識して主に知らせたのは、かの安倍晴明ですし。
 余談ですが、さらに別の偉い人のときは着衣に「佛頂尊勝陀羅尼」が縫い込まれてあったおかげで難を逃れた、とあります。

 何より、源頼光と四天王は酒呑童子の他に、同じく都を脅かしていた土蜘蛛の一派も退治しています。こっちをどう説明しますかね?
 源頼光と四天王は姿形を持った敵の討伐隊であり、刀や槍などを扱う実戦部隊ですよ。断じてゴーストバスターズでも医療チームでもない。
 強い敵を旨い酒で酔い潰してから退治するのは、素戔嗚尊以来の日本伝統の必勝法であるだけでなく、オデュッセウスも使った手です。つまり教科書どおりの定番戦略。
 そもそも「酒呑童子」の名の由来が「当人が大の酒好き」という話もあるのです。なのに、油断させるための酒盛りを「消毒」などとまあ、よくも言えたものだ。こじつけにも程がありますね。

 そもそも酒呑童子首塚が残されていること自体、酒呑童子が目に見える存在だったことの証明となります。
 有名な将門伝説が最も知られた実例でしょう。平将門も実在した武将です。それが死後に祟り神みたく扱われている。
 いや、日本三大悪霊すべて、そう。
 都から太宰府に左遷されたことを終生恨んでいただろうと推測されたが故に悪鬼扱いされた菅原道真も同じく。
 天皇家からは政権闘争の犠牲となった崇徳院がエントリーしておられますし。
 お三方ともに今は神として祀られているわけで。
 ですから酒呑童子首塚が社にあるのは、むしろ自然です。で、酒呑童子は偉い人でなく賊なので、あのような淋しい社になっただけのこと。

 ちなみに祇園祭が疫病対策の祈願祭を元とした説は正しくも不十分です。
 その疫病の原因こそ、無念のまま亡くなった政権の重鎮たちが転じた怨霊である。という事情を無視しているのが減点対象。
 つまり祇園祭は疫病対策であると同時に、その原因となった怨霊たちを鎮める意味もあり、むしろこっちのほうが重要。怒れる道真公を鎮めるべく天満宮を建立したのと同じ意味があるのです。

 妖之佑のごときド素人にツッコミされるような穴だらけの説をドヤ顔で出してんじゃねーよ、『何だコレ ミステリー』のスタッフさんよぉ。

 いや、面白いっちゃ面白い説ではありますけどね「酒呑童子=疫病」。
 でもその面白さは「JFK暗殺の黒幕は MJ12 で目的はUFO情報の隠蔽だった。実行犯は実は大統領車の運転手だった」ってェ“矢追級”の面白さです。
 件の学者さんは、あえて異端の説を唱えることで学会での存在感を維持しておられるのかもなぁ。