不成就日 (旧暦 葉月十日)

 ということで陰陽師について少し無駄話なぞ。


 玲子さんの御先祖となっている、かの有名な蘆屋道満は、ほぼ架空の人物です。
 モデルとなった道摩法師は実在の人物だそうですが。
 お狐様を母に持ち霊能力を発揮した超人としての安倍晴明が作り話であるのと同様、少なくとも安倍晴明のライバルである悪の陰陽師蘆屋道満はフィクションです。

 現実の話。
 そもそも、陰陽師の家系なんてのが現代では残ってるかどうか怪しいんです。
 つか安倍家と賀茂家は途絶えてて、土御門家が残るのみのはず。そして、土御門家の子孫のかたがたは陰陽師ではなく、陰陽道と無関係。

 もっと言うと、本来の陰陽道というのは天文を根拠にした暦作りをメインにしたものです。悪霊祓いなんて、やらない。星と暦による占術くらいのもの。
 その占術からの流れで宗教的となった陰陽道も既に途絶えており、その系譜に繋がるのは「天社土御門神道」と「いざなぎ流」のみ。ですが、ともに陰陽道を名乗ってはおらず。
 天社土御門神道は土御門家による創始で、いざなぎ流は土御門家から免許を受けた、という話。でも両者とも陰陽道そのものではない。
 令和の現代に「陰陽師」を名乗る者がいるなら、それは例外なく「自称」です。

 も一つ言うと。陰陽師の使う「喼急如律令」という呪文は、実は呪文ではなく、漢(中国)の公文書つまり役所の書類に記される「以上のとおり速やかに実行せよ」という意味の定型文です。それが道教にも流用されて、海を渡って陰陽道に伝わり、さらには雑密や修験道でも使われた。
 ついでに、玲子さんや玲子さんの婆様が「ソワカ」と言ってますが、これは真言の末尾に使われる言葉です。薬師如來の「オンコロコロセンダリマトウギソワカ」や、孔雀明王の「オンマユラキランテイソワカ」などが、よく知られています。つまり基本的には東密および、最澄空海から学んで取り込んだ台密で用いられる語尾。意味的には「喼急如律令」と同じと言ってしまっていいと思います。
 ともに、英語において祈りや呪文の末尾に付く「so be it」みたいなものでしょうね(占術師・アレキサンドリア木星王さんが立ち上げた出版社・魔女の家BOOKS では「so be it」を「かくあれかし」と邦訳してたっけ)。
 まあ、神佛習合ゴチャ混ぜがデフォの日本ですから、「ソワカ」を陰陽道で使っても不自然じゃないかもしれません。古神道、雑密、純密、修験道、そして陰陽道と、それぞれが適度に交錯して曖昧になってたりするあたりが、日本らしいっちゃらしいんですよね。
 伊勢志摩の海女さんの魔除けにもなっている俗称「セーマンドーマン」の「ドーマン」つまりは早九字も、古神道、雑密、純密、修験道陰陽道みんなで使ってますし。


 以上、無意味な戯れ言でした。