大暑、土用丑 (旧暦 水無月廿五日)

 
 『百億の昼と千億の夜 | 完全版 |』
  萩尾望都光瀬龍/河出書房新社


 自分はチャンピオンコミックス(全二巻)、秋田漫画文庫(全二巻)、秋田文庫(全一巻)しか触れていないので、萩尾望都作品集(全二巻)と愛蔵版(全一巻)の出来を知らないのですが。
 まさかまさかの河出書房から出たこれが、たぶん最も完璧なのでしょうね。「完全版」と謳ってますし。

 巷には様々なタイトルのコミカライズ作品がありますが。たいていは単に小説形態から漫画形態への変換作業にすぎません。
 ゆえに個人的には、この作品こそ最強のコミカライズだと思っています。
 そもそも光瀬さんの原作が光瀬さん自ら言っておられるとおり、絵にしにくい。
 つか、読み解くのも難解なこのSF小説を咀嚼・消化・吸収して、そして漫画の形で、しかもご自分なりの解釈でアウトプット。
 台詞のみならず、登場人物、舞台、さらにはストーリまで改変して、それでも全体としての物語は何ら変わっていない。
 この萩尾さんの力量たるやもう……バケモン級ですな。

 この本を手にして、あらためて実感しました。
 この作品は二巻に分割しちゃダメですね。分厚くても一巻にまとめないと。

 頁構成を雑誌掲載時に戻したというのも好印象です。
 雑誌は広告が付くので、どうしても単行本化の際に厄介なのですが。
 解決策として、例えばページの半分なら、単行本用にコマを描き足す。これはコマの構成が水で薄めたようにスカスカになるのと、掲載と単行本化とのタイムラグで絵柄が変化しているのとで、読者視点でもモロ出しな箇所となり、ぶっちゃけ見苦しい方法だと思います。
 で、『百億千億』では全頁広告だったため広告を抜いた分は順送りに詰めて、そのせいでこれまでの単行本では見開きの左右が入れ替わっていたとのこと。そりゃダメだろ。著者の意図が崩壊しかねない。
 それをきっちり元に戻した。なるほど確かに完全版だ。

 原作小説については 2018年11月の日記に書いてますから、ここでは触れないでおきますが。
 トーキョー以降のオリオナエの台詞表記、惑星開発委員会の地理的設定、この二つはコミカライズの勝ちだと思います。いや別に勝ち負けじゃないですけどね。(;^_^A
 惑星開発委員会の地理的設定のことは 2018年の日記に書きましたので、オリオナエの台詞表記について。
 原作でのオリオナエは、トーキョー以降では台詞がカタカナ表記になっています。これの演出意図が何度読み返しても判らない。ただただ読み辛いとしか。
 それに対してコミカライズのオリオナエの台詞は終始、普通の表記で普通に読める。これが正解だと思います。
 ホント、光瀬さんは何を意図して、あんな演出を……?

 あれこれ収録されたイラスト集。
 巻末にある萩尾さんへの“百の質問”。
 カバー絵の裏表紙側は、ほっこり。
 などなど、本編以外でも楽しめる内容で♪
 いやいや、それにしても連載当時の小学生からのファンレター(?)が辛辣で……あれは泣く。

 これを買って読んだら、もちろんカバーも外してみるんですよね。
 ええ、外さないとダメですよ。