月遅れ地蔵盆 (旧暦 文月十七日)

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 『河童の三平』全三巻
  水木しげる/角川文庫


 ちくま文庫の“少年サンデー版”に対して、こちらは貸本時代の、つまり最初の『三平』です。
 ちなみに、貸本版『三平』の「平」の字は“干+ソ”でなく“干+ハ”が正式(ネットで使えないんだよな、この旧字)。

 内容としては、ちくま文庫版から「ストトントノス七つの秘宝」と「屁道」を除外したものと、ほぼ同一です。
 具体的には、三平が横浜の国体に出場した後、ちくま文庫では帰宅したのに対して、貸本版では、そのまま魔女花子と一緒に東京に行って母親と再会、「猫町」のストーリへと続きます。道理で、小学校にあがる前の花子があんな超山奥ド田舎に独りで来られるのが変だと思ってましたよ。元々は、三平の家には来なかったんですね花子。
 ストーリに変わりない範囲でも、ちくま文庫版には無いシーンや台詞、さらには相違点が、いくつかあります。ちくま文庫版を読んでいて、ときどき引っかかる印象を受けていたのですが、その原因がこれでした。いろいろと細かくカットや変更されてたんですね。コマの順序が入れ替わってたのもありますよ。
 ついでに、冒頭あたりの三平の顔が尖りすぎ。これじゃあ河童呼ばわりされても仕方ないかもしれません(汗)。
 興味深かったのは、魔女花子一家の扱いです。ちくま文庫では「姓が魔女」で済ませてましたが、貸本版では本物の魔女一家というほのめかしがあります。推測ですが、出版社の倒産が無ければ、猫町に囚われた三平は花子の助けで脱出したんじゃないかと思います。その際、花子は魔女の力を発揮するのでしょう。
 倒産による打ち切りのため、水木サンは物語途中で主人公・三平を死神の手に与えてしまうわけですが。
 義理堅いからか自分に厳しいからか、その後のリメイク作品でも、この結末を変えることがなかったのは、読者としてはむしろ残念ですね。当時はまだパラレルの概念がなかったからでしょうか。『悪魔くん』のように、別人の三平にでもしない限りは、違う展開にできなかったのかもしれません。
 今だったら、三平が死ぬ世界線と三平が生き続ける世界線の両方を描いても、誰にも怒られません。かえって喜ばれます。
 何事にも革新的だった水木翁なんですから、ぼくらやサンデーでリメイクする際に変えちまえばよかったのに。そんなトコだけ保守的なんだから……。



墓場鬼太郎』や『悪魔くん』ともども、角川文庫から出ている水木作品の貸本版は「復刻」という立場なので、当時の表紙、目次、扉、カラー頁などすべてが収録されており、文庫本という小さなサイズながら資料的価値を持っています。
 水木作品群の原点として、一度は読まれることをお薦めするものであります。