『ダリア・ミッチェル博士の発見と異変 世界から数十億人が消えた日』
キース・トーマス/竹書房文庫
邦題が盛大にネタバレしてるよなー。何せ原題は『DAHLIA BLACK』ですから。
とは言え、ストレートに『ダリア・ブラック』だけでは本が売れるか怪しい……。
(原題が“Black Dahlia”事件や映画『The Black Dahlia』を意識してのものかどうかは不明だが、英語圏なら注目されそうなタイトルではある)
2023年10月に、とある天文学者が地球外からの知性体による信号をキャッチ。それをきっかけに全地球規模で「上昇」なる現象が起こり、信号の発見からたった二ヶ月で人類は総人口の三十%を失う事態に。
この未曾有の大事件の真相について、2025~2026年にかけて取材したジャーナリストが 2028年に上梓したノンフィクション本。
という体で書かれたSF小説です。
「モキュメンタリー」と呼ぶんだそうですね、この手法のことを。知らんかったー。
ですのでメインとなるのは、「上昇」と名付けられた現象そのものではなく、「上昇」に翻弄される人類社会の右往左往七転八倒です。
関係者へのインタビュー、事情聴取の録音、政府関連の書類、事件の中心に近い位置にいた人物の手記、などなどの記録のみで構成されており。
巻末には、取材協力者への謝辞と、参考文献のリスト。
さらには、事件当時に現職だった前大統領の寄稿文を序章として据える。
という徹底ぶり。
この本を百年後くらいに、歴史に疎い人物が手にしたなら、本当の事件だと勘違いするかもしれませんね(笑)。
「上昇」は、SFでわりと知られるアレに近いです。
アレが何かはネタバレになるので伏せますけどね。
読者サービスを意識したっぽいパーツも少しありますが、派手さの少ない硬派なSFだと思います。