四万六千日 (旧暦 皐月廿日)

『SAO アリシゼーション WoU』


 四月開始予定だった最終章が延期になって、今月から開始とのことで。
 その前章に当たる1クール分を録ったまま放置してたのを一気観しました。ようやくです。先月まで、延期の穴埋め再放送もしてましたけどね。それも観てないから。(;^_^A

 でまあ。一言で言うなら。
『SAO』の悪役は眼鏡か変質者しかいないのか?
 です(笑)。
 あの変態……つーかサイコパス、クライアントの依頼を破棄するだろうね。アリスの魂を喰う気、満々だから。OPにも、そんなシーンあるし。

 前の『アリシゼーション』で菊岡たちが説明していたことによると。
 アンダーワールドの住人は無垢な新生児の魂をコピーしたもので、それがゲーム世界で揉まれて成長することで、兵器として使えるAIになるのを待っている。ところが、なぜか彼らは一向に悪事を働かない。揃いも揃って善人ばかり。
 それに対する解答が、最高司祭であるマッパ姐さんが公理教会を使って管理していた禁忌目録と、民の心に鍵をかけた「コード871」。
 で、ステイシア様ならぬアスナの推理によると。わざわざ封印してまで禁忌目録を厳守させるなら、そもそも実験の意味がない。すなわち、コード871 はラースに潜む内通者による妨害工作であろう。
 さて。『アリシゼーション』最終話で最高司祭が「また会いましょう。今度はおまえの世界で」とキリトに言った。“外”のことも知っていそうな、その言動。となれば、最高司祭は内通者の傀儡でしょう。

 と、ここまできて。
 要するに、アンダーワールドが善人揃いなのは、内通者のせい。その内通者が最終章に出てくるのかどうかは、ともかく。
 そもそも菊岡たちが欲しているのは「人を殺せるAI」ですよね。で、それが発生しないから困ってる。
 いやいや、ちょっと待ってよ。殺しまで行かなくとも、悪人はけっこういたぞ。キリトとユージオに斬られた学院生のゲス二人とか、『WoU』でなら村の、あのチョビ髭とか。どう考えても善人とは思えない。車椅子のキリトから剣を奪った連中も悪党の素質ありでしょう。
 さらにです。視野を広げれば、ダークテリトリー。あっちの面々は人殺しに躊躇ない。しかも彼らも、アリスや変態ボスの感じた印象からすると、その魂は人と同じ。なら、例えばゴブリンあたりの魂を回収すれば、事足りるんじゃね?
 ということで、両陣営がアリスにこだわる理由が、どうしても弱いと感じました。いちおう、アリスがザ・シードの集大成ってことを言ってはいるけど。でも弱いですね。
 最終章で、ちゃんと辻褄合わせてくれるんでしょうね。

 回想シーンに頻繁に出てきた最高司祭を観ていると、さほど悪党には見えませんね。
 民に禁忌目録を守らせて平和な人界を実現していた点、そして禁忌目録を犯した罪人を処刑せずに洗脳したうえで整合騎士にし戦力を充実させてダークテリトリーからの侵攻に備えていた点についても、優秀な統治者だったと言えるでしょう。人々を素材にして刃物のバケモンを作ろうとさえ考えなければね。
 おじさまとの差し向かいの酒宴とか見ると、良い人にしか思えないんだよな(苦笑)。

 にしても。
 脳波を吸い取ってゲーム世界に送ると同時に身体の動きを封ずるナーヴギアにも、びっくりさせられたものですが。
 魂をコピペする技術というのも相当にブッ飛んでて……。社会のインフラとか見ても現代と、さほど変わらず(つか、設定が 2026年だもんな)。なのに、電脳系の技術のみが異常に突出しすぎてるんですよね、『SAO』の世界って。いや、ぶっちゃけ、潜入してきたテロが金属実弾で攻撃するかな? もっと他の制圧方法あるんじゃね? とか思ってしまうんですよね。
 SFじゃなくラノベだと思えば、それでいいんですが。でも、『SAO』は堂々とSFのフリしてるからなぁ。
 ガチガチのSFである『攻殻機動隊』では全身サイボーグ用の体が普通に市販される世界ですが、それですら魂については解明されていない。違法コピーはあるものの、コピー元が死ぬような怪しい代物。
『SAO』のストーリはもちろん面白いのですが、とにかくバランス面で納得いかないんですよね。
 まだ最終章前ですが、『アリシゼーション』と『WoU』は、大胆に例えてしまえば『百億の昼と千億の夜』を「シ」あるいは「MIROKU」の視点で描いたようなもの、と言えるんですよね。なので、どうしたってSF色からは逃れられないし、SF考証を蔑ろにはできない。なのに、設定がストーリに都合の良いようにだけ組まれている感が強い。
 電脳系技術のみ異常進化しているなら、そうなるきっかけの社会現象や大事件や大災害とかを過去に設置すればいいだけのことなんですがね。例えば、スチームパンクの世界では石炭はあっても石油が無い、みたいな。例えば、巨人と闘える人型可変戦闘機は 1999年に墜落した謎の宇宙戦艦の技術を応用した、みたいな。『オーバーロード』や『Ready Player One』の異様なゲーム進化の裏には、地球環境が極悪化してディストピアになったため庶民が現実世界に絶望して逃避したがっている、という社会的原因が存在する。『SAO』には、そういう下地が見られないんですよね(アニメに限る。原作は未読)。そこが、どうしても物足りない。
 まあ、読者・視聴者の大半が問題視しないのだから、問題ないんでしょうけど。けどオイラは、そこが引っかかってしまうのですよ。
 そーゆーこと考えると、例えば『電脳コイル』なんかは実に丁寧で巧みだった気がします。