『かっこいいスキヤキ 新装版』
泉昌之/扶桑社
ゲッ
これは夜行じゃない
夜港だっ!
なんてこった!!
今まで俺は……
こんな本買った俺がバカだったんだ
文庫本でガマンすればよかったんだ
いや、どこかで立ち読みしてくりゃあ……
うう、通販になんて
通販になんて頼らなけりゃよかった
原作・久住昌之、作画・泉晴紀のコンビ名である泉昌之。
このユニットによる迷作短編集『かっこいいスキヤキ』には、いくつか ver. があります。
最新であるこの新装版。二十年チョイ前に出た文庫版。そして初出の青林堂版が何と四十年近く前。
妖之佑は青林堂の本だけ知りません。たまたま『夜行』を知り、載っている本を探したものの作者名も判らず、その頃はネットもないので探しようもなく見つからなかった。『夜行』が『夜行』というタイトルであると知ったのすら文庫を手に入れたときです。
まして、青林堂版が大騒動の元になったことなど知りもしませんでした。ウルトラマンを無許可で使ったため円谷を激怒させたそうで。あー、道理で短編連作『THE APARTMENT HOUSE』の vol.1 にてアパートの4号室(?)にウルトラっぽい人影があるにも関わらず、スルーだったわけだ。あれ、割愛されたんだな。青林堂版には修正版もあるそうなので、その時点で元々全六話だったものが一話分消されたんだろうね。これ読んでみたいけど、初版本はそれこそプレミア価格なんだろうな。となると国会図書館しかない? 扶桑社が今からでも円谷に許諾を取って新装版に収録したら、それこそ「かっこいい」ことになってたのにな。残念。
まそれはさておき。
奥付に「文庫版を加筆・再編集」とあります。
実際には加筆と割愛です。
文庫版にあった『プロレスの鬼』全六話、『ズミラマ館』、そして『すももたろう』が新装版には収録されていません。
対して新装版用に描き下ろされた『夜港』は二十四ページ。かなりのページ数削減です。
それだけに新作『夜港』への期待は大きかった。
この短編のためだけに、文庫を持っていながら、わざわざ買ったのです。
その結果は……↑のとおり。後悔してますよ。
誤解を招くと困るのでフォローしておきますが。
面白いんですよ。確かに面白い。
主人公が店に入って圧倒されたローカル局のTVCMも、別の店の日本酒担当の大森山さんも、良い味出してますし。
でも、何か違うんだよな。赤坂でグラタン喰うくらいに空しいもの足りない。やっぱり男はキンピラゴボウよ!
この『夜港』はタイトルからも判るとおり、新装版刊行に際して明言もされているとおり、『夜行』のセルフパロがコンセプトです。
にも関わらず、『夜行』の空気感がない。ないんですよ。
あるのは…………『孤独のグルメ』ドラマ版の世界観。
旨い晩飯を喰うために港町を彷徨う主人公が五郎さんに被ります(主人公、バイヤーっぽいし♪)。そして気の毒な目に逢うのも、シーズン何だったかな、立ち喰い中華の店で大失敗した五郎さんに被るんですよ。
『夜行』→『孤独のグルメ』原作漫画版→『孤独のグルメ』ドラマ版→『夜港』
というルートになっているわけです。つまり、グルリと一周しそこなった、みたいな? 久住さん、意識をドラマに引っ張られちまったかな?
これはこれで面白いんだけど、でも自分的にはちょっと違う。欲しいのはこれじゃない。
そこが残念でした。
この新装版を人様に薦めるか?
と問われるなら。
文庫版を持っていないなら是非にも買いでしょう。
文庫版を持っているなら無理に買わなくても大丈夫。
そんな感じですね。