(旧暦 文月十七日)

 で、P08 。


※ 例によって、モデルガンおよび雑誌、専門誌からの知識のみを元に語ります。


 一般的に「ルガーP08」と呼ばれますが、この名称の中に正式名の部分が一ヶ所もないという事実、意外と知られてませんね。
 DWM(独逸武器弾薬製造社)の製品としての正式な名称は「パラベラム・ピストーレ」、つまり「パラベラム弾用拳銃」という名前です(味も素っ気もねーな)。
「ルガー」というのは設計者であるゲオルグ・ルーゲルの英語読み「ジョージ・ルガー」から。「P08」は独逸軍の制式採用ナンバーであり軍用銃としての呼びかたですね(P38 も同様)。で、こっちの組み合わせが本名よりも有名になっちまった。
 ちなみに、U.S.A. にあるスターム・ルガー(以下、SR社)という銃器メーカー(ドーベルマン刑事の愛用銃であるニュー・モデル・スーパー・ブラックホークなどで有名)は、P08 系列とは何ら関係ありません。ジョージ・ルガーは「Luger」、SR社は「Ruger」ですから、まったく別の存在なんです。SR社が出していた競技向け廉価版自動拳銃「MkI」(マーク1)のシルエットが P08 に似ていたことが、名前の類似と相まって世間で混同された原因らしく。実際のところ、MkI は南部式を参考にしたそうで、その南部はと言うと構造上むしろ C96 に似ているという事実(松本零士さんは、ここをちゃんと理解しておられて『ヤマト』のコスモガンをデザインなさったと思われます)も、わりと見過ごされますね。知識のない不届き者は、南部式や十四年式のことを「P08 の粗悪コピー」などと見当違いをほざいては悦に入っていますよ。日本のそれらは尺取り虫してないのに、ホント笑っちゃいますね。
 P08 系統の元ネタに相当するボルヒャルト自動拳銃の権利を引き継いだDWMが技師のルーゲルにトグル・アクション機構を軸に実用性を重視して再設計させたものが M1900 。手動セフティの他にグリップ・セフティが付き、口径は .30ルガー(7.65mmパラベラム)。厄介なことに、ボルヒャルト用の 7.65mm とも、C96 用の .30マウザーとも、さらにはトカレフ弾とも違うという……なのに全部がほぼ同サイズのボトル・ネックなんだぜ、あーややこしい!
 続いて、9mmルガー(9mmパラベラム)化した M1902 や、独逸海軍に採用された M1906(通称「マリーネ」)などでの改良を経て、グリップ・セフティを廃止したものが 1908年に制式採用され「ピルトーレ08」の名を頂くに至るわけですね。
 標準の4インチ銃身の他に、海軍仕様の6インチ銃身+切り替え式リア・サイトの「マリーネ」、陸軍向けの8インチ銃身+タンジェント・サイト+着脱式ストックの「ランゲ・ラウフ」というバリエーションがあるのは多くの人が知るところ。
 さらに、マウザー製やSIG製などなどの社外バリエーションも多岐に渡り、定型文である「ルガーのことを書いたら、おそろしく分厚い本になってしまう」と言われる由縁です。
カリオストロの城』で峰不二子が使っていたルガーが P08 なのか何なのか、長らく議論されてきているようですが。設定書や公開当時の雑誌記事には「モーゼルパラベラム」と書かれていたと記憶しています。なので制作側としてはマウザー・パラベラムなのでしょう。ただ、つたない妖之佑の知識と記憶では、マウザー・パラベラムに9ミリがあったのかどうかが曖昧で(汗)。いえ、あのときの不二子はウジをメインに使ってましたからね。メインとサブで口径を合わせるのは基本ゆえ、あの拳銃も9ミリなのは、まちがいありません。劇中の絵でグリップ・セフティは見えたっけかなあ?(あっても 04 や 06 なら9ミリで問題ないが、マウザー・パラベラムという話がややこしくなる……)


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 P08 の金属製モデルガン、三種。
 銃身の短い順に「マルシン P08 ヘルマン・ゲーリング」「マルシン P08 マリーネ」「MGC P08 アーティラリー」、そしてMGCの P08 用ウッド・ストック、マルシンのダミー・カートリッジ。
 P08 ヘルマン・ゲーリングは最初、マルシンの高級ブランドであるACGから出ていたが、写真のは後にマルシン本家から発売された組み立てキット。調整要らずで簡単に組み上がる。流石マルシン!