(旧暦 文月廿七日)

 さてさての、南部式といかせていただきます。


※ モデルガンや専門誌などからの知識を元にしてますというのは、お約束ということで。
  きっと、勘違い記憶違いもあることでしょうが。どうぞ、よしなに。m(_ _)m


 歴史的に有名な拳銃の設計技師と言うと、サミュエル・コルト、ゲオルグ・ルーゲル、ジョン・M・ブラウニング……くらいでしょうか。
 完璧なシステムとも謳われたS&Wのダブルアクション・リボルバーや、ワルサーの名オート銃の数々とかは、設計者についてよく判らないんですよね。全部、会社の功績って感じになってしまってて。あるいは実際、一人の技師でなくチーム全体で設計したのかもしれませんね。

 で、我が日本にも拳銃の名エンジニアがいました。
 南部麒次郎。言わずと知れた南部式自動拳銃の生みの親です。
 帝国陸軍の技術将校として南部式を設計開発、その功績によって東京砲兵工廠のトップに就任、そして南部銃製造所を創業して開発と経営の両方で手腕を振るうという、絵に描いたような出世物語。世の中の技術者が憧れる理想的な展開でしょうね。
 当時から日本では銃器を設計・製造できる人や工房が少なかったという事情はあるでしょうが、国外に視野を広げても、拳銃を設計した技師が拳銃のメーカーを興し大成功するというのは、コルトくらいしか思い浮かびません。S&Wの場合、ホーレス・スミスもダニエル・ウェッソンも技術屋というよりビジネスマンですし、S&Wを辞めてダン・ウェッソンを興したダニエル・ウェッソン二世(S&W創業者ダニエルの曾孫)が技術者かどうかは知らないもので(汗)。
 ともかく、日本における知名度で言えば、小銃の有坂、拳銃の南部ということで、まちがいないと思います。

 その南部が手がけた南部式は三種類あります。
 南部式自動拳銃(甲)、南部式自動拳銃(乙)、そして南部式自動拳銃(小型)。
 甲と乙は8mm南部弾を使う大型拳銃で南部式大型自動拳銃とも言いますね。どれが正式な呼び名なのか、よく知りません(汗々)。U.S.A. のマニアは甲を「グランパ・ナンブ」、乙を「パパ・ナンブ」と呼んで親しんでいるそうな。
 甲には、参考にしたと思われる マウザーC96 に倣ってなのか、タンジェント・サイトが付いており、取り外し式のウッド・ストックも用意されていました。
 乙は甲を簡略化、要するにストック取り付け用のミゾを廃止したもの。こちらが海軍に採用され「陸式拳銃」と名付けられた。……て言うか海軍なのに「陸式」とか、ややこしいな。ストック付かないならサイトも固定にすりゃコストダウンできるのに、意味不明なことを。
 解説本などで「トリガー・ガードが小さいのが甲、大きいのが乙」という記述がありますが、一方でトリガー・ガードの大小は型ではなく製造ラインや時期による違いに過ぎないという説もあり、どちらが本当なのか、よく判りません。品が現存する北米市場では、中には無神経なパーツの付け替えもあるでしょうし。
 そして小型だけ、別の7mm南部弾を使います。U.S.A. では「ベビー・ナンブ」と呼ばれ、マニア垂涎の品となっています。「中に宝石が詰まっている」という賛辞は有名ですね。
 7mm弾は仕方ないとしても、8mm南部弾は、その見た目に反して、.30マウザー弾には遠く及ばず、中型拳銃程度の威力だそうです。せっかくのボトルネックが生かされていないのは、なぜなんでしょうね。その非力さゆえ、欧米人に比べて小柄な日本兵にとっては扱いやすかったと言われますが、それは結果論であり、最初から日本人の体格や腕力に合わせて弾を設計したわけでもないと思いますが、どうなんでしょ。
 ボトルネックの薬莢、タンジェント・サイト、取り外し式の銃床と、C96 の真似っこが並ぶ南部式ですが、実は中身もそう。撃発こそ、外装ハンマー式の C96 に対して、南部式は内蔵ストライカー式と違っていますが、発射ごとに後方に突き出るボルトは似ていますし、何よりショート・リコイルさせるためのロッキング・ブロックがね、よく似ているのですよ、形も位置も動作も(プロップ・アップ式とも言われる)。
 反面、ストライカー式にしたことにより C96 のセフティ機構は真似できなかったということでしょうか、安全装置は貧弱なことにグリップ・セフティ一つだけ。しかも、一般的なグリップ・セフティがトリガーからファイアリング・ピンまでの伝達経路のどこかをロックあるいはカットするのに対して、南部式のそれは、引き金そのものをロックするというもの。それも単に引き金の後ろにチロッと飛び出て噛ませるだけ。噛ませてるから引き金が動かない。ただ、それだけ。ストライカー式で、この構造は、はっきり言って怖すぎます。おまけに、グリップ・セフティはグリップ後方がセオリーなのに前方に付けてますからね。いやー、これを最前線で携行しろと言われたら、私なら全力をあげて見逃してもらうな(笑)。護身用としても問題ありすぎですよ。

 あれこれある南部式ですが。
 乙を海軍が採用しただけで、制式銃とはならなかったようです。
 小型は陸軍大学校の優秀な生徒への御褒美になりましたけどね(例の「恩賜」刻印ね)。

 で、晴れて制式となったのが十四年式拳銃。
「南部十四年式」とか「14年式」とかありますが、正しくは「十四年式」。開発に南部が直接に関わっていないため「南部」が付かなかったのかもしれません。
 でも構造としては、乙の改良型と言っていい。
 曲線美だった外観を直線的にリ・デザイン。細かなチェッカリングが施されていたグリップはシンプルな横溝だけに。リア・サイトは固定式に変更。グリップ・セフティを廃止し、手動の安全栓を装備(これが拳銃としては使い勝手最悪)。
 さらに。寒冷地での手袋使用を考慮した、トリガー・ガードの大型化(『宇宙戦艦ヤマト』のコスモガンは、このデザインを元にしている)。衝撃などで落ちやすかったマガジンを抑えるための板バネを追加(おかげでマガジン交換がメッチャ固くなったそうな)。コストダウン目的でグリップの横溝を廃止。といった改良(?)の数々を重ね終戦を迎える。
 外見的には“南部一族”の中で一番カッコいい銃ですが、実戦での武器としては、あえて比較すれば最も使えない拳銃だったんじゃないかと。なにせ改良がすべて改悪でしたからね。制式採用されたのは、単に南部式に比べて低コストだったからだと思うのですよ。もしも妖之佑が実用性で、この中から一つ強制的に選ばされるなら小型にします(小さい分、それなりに護身用になりそうだから)。でも、本音では独逸銃に比べて全然、実用品じゃないよ、どの南部も(苦笑)。
 闘うためではなく単に撃ったり愛でたり飾ったりして「楽しむアイテム」としてなら十二分に魅力ある個性的な拳銃だと思います、どの南部も。

 そして、悪名高き“自殺拳銃”こと九四式拳銃。
 大日本帝国軍が分裂症にでもかかっていたかのようなチグハグな兵器の一つと言えるのではないかと(大和や武蔵、そして戦車もそうだな)。
 将校用の小型拳銃が必要だったというのは理解できる。十四年式はデカすぎるからね。でも、その構造が……ねぇ。
 この銃に関しては、南部はデスクワークだけだったんじゃないのかな。開発の現場にいなかったんじゃないのかな。でなきゃ、気づいたはずですよ、例の欠陥に。
 周知でしょうが、いちおう簡単に。引き金から撃針に至る伝達過程の一部が外側に露出しており、そこに外圧がかかると(要は不用意に押したりすると)引き金の位置に関係なく暴発してしまうという構造上の大欠陥ですよ。実は P08 も同様の露出構造をしているのですが、あちらはトリガーを引くと露出部分が外側に膨らむため、外圧による暴発は起こりえないということなのです(とは言え、P08 最大の問題点ではある。おかげでセフティ機構も力ずくだし)。
 外見的にも、スライドに比較してグリップが異常に小さくアンバランス。これでちゃんと8mm南部弾を撃てるのか疑問になります(まあ、撃ててたんでしょうが)。面白いことに、『ウルトラマン』の科学特捜隊が標準装備するスーパーガンという光線銃のシルエットと言うか見た目のバランスが、これとよく似てたりします(偶然でしょうけどね)。光線銃なら反動ないから大丈夫だよね♪
 南部が開発責任者というのは、どうにも信じられません。

 南部と無関係の日野式は、どうしようかな。少しだけ語るかな。
 世界唯一のブロー・フォワード方式という点で、世界中の銃器専門家やマニアから注目される拳銃です。
 ただし、ブロー・フォワード方式で撃てる、というだけがウリの銃であり、実用性その他を考える段階にまでは至りませんでした。この意味で、トグル・アクションを実現した(だけがウリの)ボルヒャルト自動拳銃と立ち位置が似ています。違うのは、ボルヒャルトにとっての P08 に相当する後継発展機種が日野式には、なかったという不運。まあ、試行錯誤の中の一つ、ということなのでしょう。それこそ新人が一人デビューする裏で桁違いに多くの脱落者があるようなものかもしれませんね。
 先日にも申しました。この日野式、戦後ずーっと「世界でも、ほんのわずかしか現存しない」とされていたのですが、90年代に日本の民家から大量に(と言っても十七丁ですが)発見されたことで話題になりました。あれを北米のマニアとかに売ることができていたら、そこの家は、そこそこ豊かになったかもしれませんね(笑)。残念ながら法律的に不可能でしたが。

 拳銃ではありませんが。
 南部銃製造所が中央工業に改名したあたりで開発されていたサブ・マシンガンが「一〇〇式機関短銃」の名で軍に制式採用されました。十四年式と同じ8mm南部を使うという点で、日本軍にしては珍しく口径を統一した“長物”です。
 知ってる人は知ってますが、有名な小銃の三八式と九九式は口径が違いますからね。松本零士さんが戦場まんがシリーズの劇中で兵士に「隣にいる戦友の弾をもらうこともできんのか」と嘆かせてましたよね。ちなみに松本さんは、このシリーズにて一〇〇式機関短銃も登場させてます。当時、この機関短銃の存在を知っているだけでも相当な漫画家さんだと思いますよ。

 中央工業は敗戦を受けて、しばしの開店休業状態を経て新中央工業として再起動。警察向けのお仕事が主となります。
 最も有名な製品が、現行の M360サクラの先輩に当たる「ニュー・ナンブM60」ですね。創業者の名を採用するあたり、メーカーとしてのこだわりを感じます。
 が、その後、ミネベアに吸収されて今はサクラや自衛隊の 9mm拳銃などを製造中。もはや南部の「な」の字もありません。
 草葉の陰で南部麒次郎は何を思うことでしょう…………。


 f:id:mitaayanosuke:20190828025536j:plain
 南部のモデルガン二種。
 上は「ACG 南部式小型」、下は「ハドソン 南部十四年式」。
 小型は何と桐箱入り!

















 え? 何? まだ何か?

 ああ、箱の中身が見たいと? 贅沢なことを(笑)。
 仕方ありませんね。



 f:id:mitaayanosuke:20190828025615j:plain

 妖之佑の知る限り、量販された南部系の金属製モデルガンは、この小型と十四年式の二種だけです。正確には、ハドソンが十四年式を三度に渡って製品化してますけどね。つまり二度のフルモデルチェンジをしたと。写真のは二型。
 ACGとは「アメリカン・コレクターズ・グルーブ」の略で、マルシンの高級ブランド。セイコーで言うGSみたいなものです。そこから出ていた南部式小型は非発火モデル(ダミー・カートリッジ仕様)で、実物に倣って「恩賜」刻印と「TGE(東京瓦斯電気)」刻印の二種類がありました(写真のは「恩賜」)。その後、本家マルシンから桐箱でない廉価版が発売、さらにキャップ火薬を使うタイプも発売されるに至ります。
 数年前に、南部式大型の樹脂製モデルガンが登場しました。プラなのに高価すぎて手が出せませんでしたよ、もう。熱意が足りないと言われれば反論できませんが、でも個人的にプラであの値段はなぁ……。(;^_^A