百鬼夜行

 以前の日記で「チョンマゲ時代の日本には休日の概念がない」と申しました。
 これ、正確に言うと、今のような「日祝」や「バカンス休暇」という考えかたがない、ということなのですよね。例えば商家では月に一、二度のお休みがあれば、かなりのホワイト企業。さすがに元日は商売も休みますが、旦那さんとなるとお得意先への年始廻りで一日つぶれます。なお、年末は大晦日まで商いますから。
 そんな昔の日本でも、年に二回、奉公人に正式なお休みを出していました。それが「藪入り」。一月十六日と七月十六日の二度、この藪入りがあり、奉公人たちは帰省することができるのです。つまり小正月盂蘭盆のタイミングですね。未だに盆暮れ正月に日本民族が大移動するのは、この頃の名残なのでしょう♪
 ただし、この藪入りには、いささか罠がありまして。出来の悪い奉公人、つまりは使えない者は藪入りしたまま「暇を出されてしまう」こともあるそうで……。逆に里心が付いてしまい“出社拒否”になる者もいたでしょうね。

 さてさて。
 藪入りの日は奉公人たちだけでなく、あの世の住人たちも里帰り。
 上に挙げた年二回の「十六日」は「閻魔賽日」とも言いまして「地獄の釜の蓋が開く日」とされています。つまり地獄の獄卒ですら休みを取る。ために亡者たちも解放されるということ。ご先祖様は極楽からだけでなく地獄からも帰省なさるわけですね(ご先祖が牛に乗ってあの世にお戻りになる送り火も十六日ということで日付の辻褄が合いませんが、まあ細けぇこたぁ気にすんなって)。
 そんな地獄からの帰省ツアーに、もしも“見える”人が出くわせば、それはもう百鬼夜行と見間違えるかもしれませんね。