ウエスタンアームズのニュースーパーブラックホークが約六万円か。
いえ、某オクでの落札価格ですがね。
予想は五万円だったのが一万ほど上を行ったかー。
高騰するのは判ってたので参加せず傍観に徹してましたが、無責任な外野としては、熾烈な争いが面白かったです。
これが十年ほど前なら半額で買えたかもな、中古店で。
そう言えば、ウエスタンアームズのモデルガンは一丁も持ってないな。
買う機会がなかった。
と言うか、WAの金属モデルガンと言えば、ブラックホークくらいしかなかったですからねー。
しかも、ブラックホークそのものが、妖之佑の中では優先順位と言うか低評価の銃ですからね、独断と偏見によって。
だってそうでしょ。
しょせんは、SAAのコピーですよ。それをマグナム弾用にしただけの。
そんなんが、なんでそんな人気銃に? と言えば加納刑事が戦犯ですがね(笑)。
なので順番が後回しになり、けっきょくは買わぬままにブラックホークのモデルガンは生産終了。しかもWA自体がガスガンだけのメーカーになっちまった。
縁がなかったということですよ。
ついで話に、ブラックホークについてあれこれとダベります。
畳んでおきますので、わざわざ開いた人は文句を言わないよーに。
まずは基礎から。
ブラックホークのメーカーであるスターム・ルガーは U.S.A. の企業。
独逸の銘銃の一つである「ルガーP08」(正式名「パラベラム・ピストーレ」)のルガーとは、まったくの別物。
P08 のほうは、設計者であるゲオルグ・ルーゲー(英語読みでジョージ・ルガー)のお名前。
「Sturm Ruger」と「Georg Luger」なので、書籍などの記載ではまちがいが起こりにくいものの、会話のやりとりだけだとアメリカ人でも勘違いしている人が少なくないらしい。
試験に出るかどうかは知らんけど、重要な基礎だよワトソンくん。
MkI(マーク1)と呼ばれる競技用自動拳銃でメジャーになった会社。
この MkI は低コスト高性能をウリに大成功した銃。パーツの製造にプレスや打ち出しを多用することで、高級銃ではできない低価格を実現。にも関わらず命中率も稼いでいる。これがなかったら、後発であるスターム・ルガーは米国の銃器市場に割り込めなかったと思われ。
ちなみに、この MkI のシルエットが P08 に似ていることも、ゲオルグ・ルーゲーとの混同の一因となった。
内部構造は P08 とは似ても似つかず、実は南部式を参考にしている。その南部はモーゼルC96 を参考にしているため、ルーツとしては P08 ではなく、C96 の遠縁と言える。
ついでに言うと、南部式も、知識のない層から「P08 の粗悪コピー」と悪態をつかれていた。
で、そんなコスパ最強の競技銃で成功した会社が次に世に送り出したのが、銘銃コルトSAA(シングル・アクション・アーミー)のコピー銃。
廉価品の次はコピーかよっ!
と怒るなかれ。
設計のパテントが切れた銘銃を後発組がコピーするのは米国市場の普通。今だとガバメントの合法コピーが山ほどある。あのS&Wでさえガバのコピーを出してるくらいだし。
日本でも大人気のSAAは本場 U.S.A. でも当然の&安定の人気ぶり。だが 19世紀の銃のため気軽に撃って遊べない。新品もあるが、そこは一流処のコルト。お値段も、それはまあそれなりに。
そこで新品でなおかつお値頃で手に入るコピー銃の需要があったワケ。
スターム・ルガーより前にも多種のSAAコピーがあるのだから、スターム・ルガーを責めるのは筋違い。
ただ。
スターム・ルガーは他社とは違う。単にコピーに留まらなかった。
それがブラックホーク。
一番の特徴は、SAAの弾より強力な .357マグナムや .30カービンを採用したこと。
SAAで使う .45ロング・コルトは、しょせん 19世紀の、黒色火薬時代に開発された規格。第二次大戦も終わった時代の人々には物足りない。
そこで、もっと威力のある“SAA”を作ったろかい、と考えた(んだろうね)。
実際、世間は「マグナムを撃てるSAA」という認識で注目したそうな。SAAと違いリア・サイトが調整式なので、ハンティングにも使い勝手が良かったという話。
調子こいて、さらに強力な「スーパー・ブラックホーク」も出してきた。そう。.44マグナムのヤツ。もちろんこれも大人気だった(と思う)。
スターム・ルガーは他にキット・ガン(子供用銃)として、ブラックホークとほぼ同じ構造をした .22口径のシングル・シックスも出している。いや、正確にはシングル・シックスのほうが先で、ブラックホークがこれに続いた形。
と、ここまでは良かった。
だが世の中、そう甘くはない。
スターム・ルガーに試練が訪れるのであった。
とあるウエスタン趣味の御仁がブラックホーク(シングル・シックスだったかもしれん)に実弾を装填、腰に吊ったガンベルトに挿し、そのまま乗馬して西部劇のカウボーイを気取ってたと思いねえ。
その御仁がうっかり落馬。その落下の衝撃が、銃のハンマーに伝わり暴発。御仁は足に大怪我をした。
そして、製造者責任に厳しい米国の司法なので、スターム・ルガーは多額の賠償金を支払うハメに(例のドライブスルーの熱々コーヒーこぼして火傷事件と同じ構図)。
補足すると。
そもそもSAAが古い古い設計なので、暴発防止の機構を持っていなかったという残念な事実がある。
六連発のシリンダーに入った弾のうち必ず一つは当然のことハンマーが叩く位置にあり、しかもハンマーをロックする構造が無いという。ぶっちゃけ、ハンマーを戻した状態だとハンマー・ノーズは雷管に触れている。
いちおう安全状態としてハンマーを軽く少しだけ後退させるレスト・ポジションというのがあるにはあるが、現行のリボルバー銃のような安全機構とは程遠い。19世紀当時の米軍が兵士たちにどう指導していたかは知らないが、銃器に詳しい人々の間ではSAAには五発しか装填しないという“常識”もあったとか。
かつて月刊『Gun』誌のリポーターだったイチロー・ナガタ氏の恩師と言えるテッド・イマイ氏も少年時代、この危険な構造を知らずにSAA(のコピーだったかも)を西部劇よろしく指でクルクル回していたところ落として暴発、死にかけた経験があると、和智香氏のリポートで紹介されていたと記憶している。
で、ブラックホークおよびシングル・シックスはSAAのコピーだから、その欠点もそのまま持ち合わせていたという。
これを教訓に改良がなされることに。
具体的には、ハンマー・ノーズを廃止。ノーズの無いハンマーとファイアリング・ピンとで別にし、その間にトランスファー・バーを入れる。
つまり。
ハンマーが叩くのはトランスファー・バーで、その衝撃がバーに隣接したファイアリング・ピンに伝わり、ピンが薬莢の尻を打つ。
という間接的プロセスに変更。トランスファー・バーが定位置にいないときは、万一ハンマーが落ちてもピンには届かず空を切るばかり、というわけ(たしかパイソンでも採用されている構造だし、復活したコンバット・マグナムもこの構造になったはず)。
これで安全に六発フル装填できるように。
ニューモデル・スーパー・ブラックホークの誕生である。
同様に、ブラックホークもシングル・シックスもニューモデルとなった。
しかし、スターム・ルガーは、これだけでは安心できなかったらしく。
当時の製品すべてに、あるささやかな仕掛けを施した。
スターム・ルガー製の実銃写真や、その外見を正確に再現したトイガンで、銃身を見ると、何やら細かな刻印がズラリと並んでいる。
普通なら、銃身に刻まれるのはメーカー名や工場地名、口径、あるいはモデル名くらいなもの。
ところがスターム・ルガーの銃は、とにかく銃身の刻印がゴチャゴチャしているのだ。書き込みと言っていいレベル。
それもそのはずで実は、ここに刻まれているのはロゴやナンバーなどではなく文面なのである。
曰く「この銃を使う前に取説をきちんと読め」と。
もちろん取説には正しい使用方法が記載されているが、それだけでは馬鹿が読まないかもしれないので、銃本体にまで注意書きをしたということ。
ここまでしないと万が一にも事故が起きたときの訴訟が怖かったのだろう、当時のスターム・ルガーは。徹底的な免責対策だね。さぞかし、あの事故がトラウマだったんだろうねぇ。
ブラックホークのもう一つの特徴が、ローディング・ゲート。
SAAはシリンダーがスイング・アウトしないし、中折れでもないので、弾を一つひとつチマチマと装填して、撃った後は空薬莢を一つひとつチマチマと取り出す。そのための穴がローディング・ゲート。
この穴にシリンダーの位置を一発ごとに合わせるため、シリンダーが空回りする必要がある。
SAAでは、ハンマーをハーフ・コックすることでシリンダーをフリーにできるのだが。
ブラックホークはローディング・ゲートの蓋を開くだけで、シリンダーがフリーになるという便利な構造を採用した。ここは利便性の面でSAAに圧倒的差を付けた部分。
で、モデルガンに話を戻すと。
このローディング・ゲートの構造を採用したのがウエスタンアームズの金属モデルガン。
ブラックホークは他にコクサイとマルシンとハドソンも金属モデルガン化したが、このゲート構造はスルーしていた。コストダウン目的かもしれないし、モデルガン故の耐久性を意識したのかもしれない。
そこが、ウエスタンアームズ製のブラックホークが人気だった、そして今でもオクで取り合いになる理由。
ああ、やっぱり買っときゃよかったかー当時。
でも、ブラックホーク自体が、そんなに好きじゃないんだよなー。
同じスターム・ルガーなら、レッドホークがいい。なんであれをモデルガンにしてくれないんだよ(ガスガンは出てるんだけどね)。
ちなみに、.44マグナムを撃てるまともな量産リボルバーは、スーパー・ブラックホークとレッドホークの他には、コルトのアナコンダくらいなもの。
『ダーティハリー』で有名になったS&Wの M29 は、.44マグナムに対しては脆弱。メーカーも、普段は .44スペシャルを使うよう推奨していたほど。
なお、デザートイーグルは興味ないので知らん。とは言え、オートでリボルバー用の弾を撃つこと自体に無理があると思う。デザートイーグルなら素直に .50AE 使えばええやろ。
さらについで話に。
スーパー・ブラックホークを越えるSAAコピーとして。
.454カスールを使うフリーダム・アームスの M83 がある。これは耐久性を考えてシリンダーを肉厚にした結果、五連発。
それに負けたくないのか、S&Wは近年になって M500 という銃キチ向けのハンドキャノンを出しやがった。ホント、今のS&Wは、大口径ライフル弾のウェザビー同様に、知性というものが感じられない。
でかきゃいいってもんじゃないんだよ。
(でも、もしも M500 の金属モデルガンが出たりしたら、お値段によっては、きっと買うんだろーなーオイラ)