朔 (旧暦 如月朔日)

 マツコさんの番組だったかな。
ショートスリーパー」ってのが取り上げられてて。一日に三十分しか寝ない人。そのおかげで時間を有効に使え生活が充実しているんだとか。

 まあ、そこまでなら「ふーん、そーゆー人もいるのか」で済ませてたんですけどね。
 その人が、ショートスリーパーになるためのノウハウを伝授する会社だか団体だかをやってて、受講料? か何かの名目で、お安くないお金を取っていると聞いて。

 んー。何だかな~。

 と感じたわけなのです。
 本人が睡眠時間を長く取ろうと短くしようと、それは個人の自由。削った結果、たとえ体調を崩しても自己責任。
 でも他人に勧めるのは、ましてお金を取るのは、勧めた相手に対する責任が生ずるわけで。

 この人物、別に医学を学んだわけでもない素人さんのはず。にも関わらず、専門家の言う、つまりは一般的に言われている「一日七、八時間の睡眠が必要」という説を「嘘」と断じてます。
 何と言いますか、医師の提示する治療を否定して科学的根拠の一切ない民間療法や迷信を勧める人たちと同類にしか見えないんですよね、失礼ながら。

 聞くところによると、何十年まったく寝ていない人、というのも存在するそうですね。
 つまり、ある種の異常体質者は実在する。件の人物も、そういった体質あるいは才能の持ち主なのかもしれません。でも、特殊能力者が一般人にも同じことを求めるのは筋違いでしょう。特技を物差しの基準にしてはダメでしょう。孫くんがミスター・サタンにカメハメ波を伝授するようなものです。
 それに、当人はショートスリーパーになって体調が良くなったと言ってますが、こういうのって十年、二十年といった長期スパンで見ないと、断定的なことは言えないんじゃないのかな。
 なので推奨する本人の意識はともかくとして、安易に信じて大金支払う側が、ちょいと考え浅くないかな? と。

 少し調べたところ、件の人物は以前に、速読で有名になったそうで。
 んーー、何だかな~~。

 妖之佑は、速読にも懐疑的です。て言うか、そんなの無理だと思ってます。
 仮に本当に速読で本の内容をきちんと把握できたとしたら、そもそもその本がスッカスカなのでしょう。
 だいたい、新聞の見出しだけ見て読んだ気になっても記事本文の内容とは、まったく違ったりしますからね。まして、本の中から単語だけ拾って内容をきちんと把握なんて、どう考えても超能力のレベルでしょ。
 やっぱり、読んだ気になってるだけか、あるいは内容の薄っぺらな本だけ読んでるんじゃないのかな。もしくは百万歩譲っても写真的記憶能力者とか。

 まあ、すべての本が、内容の詰まった真面目に書かれたものとまでは言いませんが。
 少なくとも、真摯に執筆された本を速読で「だいたい判った」とするのは、ふるまわれた料理を丸呑みするような下品な行為だと考えます。つまり速読自慢は品がない。個人で、ひっそりやっててくれ。他人に勧めるな。
 あ……いや、速読するような人は文芸になんて興味ないから無問題かな(笑)。

 奇しくも、一人の人物が速読とショートスリープという、妖之佑が個人的に胡散臭く感じている二つの推奨者であるというのは、ある意味、面白いですよ。
 で、妖之佑としての考えは。

 しっかり寝て東大に受かり、そして今の立場を築いておられる林先生のほうが信用できる。
 水木しげるさんは睡眠時間をたっぷり取って長生きをされた。比べて、寝る時間を削って仕事をしてこられた手塚、石ノ森ご両名はともに六十という若さで他界された。

 これ以上、何も言うことなかろ。