彼岸明け (旧暦 葉月九日)

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 『ちょっとだけ変な世界でアルバイト』
  山北東/ガンガンコミックスpixiv


 絵柄に何か絵本っぽさを感じて衝動買いしました。
 完全に予備知識ゼロ。もちろん作者さんのことも存じ上げません。
 何も知らぬままの、カバー絵買いです(超久々だな、これやったの)。



 正常な日常に少しだけ「変な」ものを入れて。
 その小さなギャップを楽しむ作品。

 というタイプとは違いますね。

 これは大仰に言うなら、異文化同士の交流を描いているのだと思います。
 主人公のフリーター、鴨川さんこそ人間ですが。いろいろなバイト先で彼女が出会う“人々”は人外。
 けど、そこで起こるのはホラーな展開やギスギスした対立などではなく、互いに相手を思いやる優しいやりとり。
 つまり、ハートフルなお話なのです。
 例えば、レンタルビデオ店でバイトする鴨川さんに声をかける男子二人組。二人が「死んでる」人だったため鴨川さんは卒倒しかけますが、それを見た二人は「お客を怖がるなんて失礼な店員だ」とか怒ったりしません。むしろ、不意に声をかけたことを必死に詫びます。そのうえで、借りたいビデオの相談へと話が進みます。
 万事がこんな調子で、とにかく優しい。自分と相手は違ってあたりまえ、十人いれば十通りの“普通”がある、くらいのスタンスなんですね。それを「ちょっとだけ変な」と表現したのでしょう。なので、これは異文化同士の交流だと思ったわけです。
 この互いに思いやる姿は、後ろのほうに収録されている、作品群の元となった全四ページの習作(たぶん)『らーめん』に端的に顕れていると思います。互いに少し歩み寄るだけで丸く収まる。それを判りやすくシンプルに描いています。

 多くを語るのも野暮ですが。
 全十話+二話と、おまけが少々のこの本。
 各話同士のささやかで丁寧なリンクもあって、一粒で二度美味しい形になってます。
 回収しないとストーリが成立しないミステリーやどんでん返しの布石とか伏線でもない限り、リンクは、このくらいの軽さが丁度いいですね。気づかなくても支障なく、でも気づけば楽しい、その匙加減が心地よいのです。

 以下、少しネタバレに触れますので。


 もちろん読者それぞれの解釈のしようで変わってはくるのですが。
 妖之佑は二度目に読み返したとき、巻末の描き下ろしで「ハッ」とさせられました。全部が繋がった感じがして、少しだけ鳥肌立ちました(大袈裟な)。
 そんなに難しくないので、ぜひ見つけてほしいと思います。

 いちおう、課題として出しておきます(笑)。
 逆に、これがヒントにもなりかねないので反転しときますね。

 ペットショップの魔女さんは、ペットショップを辞めた鴨川さんのその後を、なぜ知っていたのか?

 本当に、受け取りかたによって変わってきますから、妖之佑の考えが正解だなどと言うつもりは一切ありません。
 ただ、妖之佑の中では、あの話とあの話とあの話が、最後の描き下ろしとで綺麗にリンクしていると思うのです。
 作者さんは鴨川さん同様に丁寧な仕事をする人だな、と感じたわけなのです。