節分 (旧暦 師走廿九日)

「一旗揚げるには鬼退治や」と言ったのは『うる星やつら』の金太郎でした。
 それほどに日本の昔話において、鬼退治はヒーローの責務であり出世への登竜門でした。

 某ケータイCMでも盛り上がっている三太郎。この中で浦ちゃんのみ異質、あるいは別ものであることに、お気づきでしょうか。
 そう、浦ちゃんは鬼退治してないのですよ。つーか、そもそも浦ちゃんはヒーローではありません。物語の主人公ではありますが、その役割はアブダクションの被害者であり、あくまでも一般人、凡人、無能。だから彼は老人となってしまった(一説には老衰死したとも、そのまま天に昇ったとも)。この意味で、浦ちゃんは隠れ里や迷い家の被害者主人公たちと何ら変わるところがありません。
 三太郎CMで言うなら、他の乙ちゃん、かぐちゃん、織ちゃん、彦ちゃん、一寸などなど、実は浦ちゃん以外の全員が常人離れした存在なのですよ。昔話の著名主人公では浦ちゃんが例外中の例外ケースである、ということ(迷い家や隠れ里の主人公なんて誰も名前憶えてないやろ? オイラも憶えてねーし)。

 さて、では常人離れしたかたがたについて触れてみましょう。
 織姫と彦星は語るまでもありませんね。お二方とも天界の住人ですから。
 かぐや姫も地上人でなく、月世界人ですし。
 乙姫も同様。こちらは海底の竜宮城に住まうおかたですから、要するに龍神の娘さん。
 金太郎は人間です。て言うか実在の人物。それがなぜ? と言えば、昔話においては山姥に育てられ山姥の乳を飲んだ、それが常人離れした能力を得た理由とされていますね。まあ『もののけ姫』のサンに近いのかな。彼は熊と相撲を取っただけでなく成人してから、ちゃんと酒呑童子という鬼の軍勢を討伐しています。

 で、ここからが本題。
 桃から生まれたにせよ、桃を食べて若返った老婆から生まれたにせよ、桃太郎は桃の力を得た異質な存在であることに変わりありません。なぜ桃なのかと言えば。昔々、伊邪那岐が黄泉国で亡者と成り果てた伊邪那美から命からがら逃げたときに追っ手に投げつけ撃退した重要アイテムの一つが桃の実であったことから、桃は破邪の力を備えた植物とされています。そもそも川を流れてきた桃の実自体、異界(桃源郷?)からの漂着物に違いありません。なので桃太郎は元々が神秘の力を持って生まれたわけで、ゆえに犬猿雉なる使い魔を従えて鬼退治することができた。
 一寸法師は住吉神の力によって懐妊した老婆から生まれたそうですが、これもまた要するに一寸法師が人間とは異質な存在である証拠。真の意味で“神からの授かりもの”なのですね。よって、その小さな身体にも関わらず、恐ろしい鬼を退治することができた。打出の小槌で人間サイズになったのは、活躍に対する神からの褒美だと思われます。「はやく人間になりたい」ということだね(笑)。
 また、一寸法師は、そのサイズだけでなく、椀の舟で川を流れるくだりからも、漂着神である少彦名神との共通性が見られます。なので、神からの授かりものではなく、どストレートに神の子なのかもしれません。そりゃ鬼も退治できるわー。
 少しマイナーとなりますが、力太郎は垢の塊が命を宿すという珍しい誕生ではあるものの、異質な存在という意味では桃ちゃんや一寸のお仲間と言えるでしょう。ホムンクルスと言えば、理解されやすいかな?
 道場法師は雷神が農家への礼として授けた子宝とされ、出産時の異様な姿形からも人間でないのは明らかでした。その子が育って入門した元興寺で鐘楼に巣くう人喰い鬼を退治した顛末が、元興寺を「がごぜ」と読ませ妖怪の代名詞となった理由であるというのは、水木しげるさんもご著書の中で紹介されています。

 などなど。
 つまるところ、鬼を退治して一旗揚げるのは神の子、あるいは神や異形の力を授かった子だからこそ可能なのであり、純粋な人間には無理なんです。
 カカロットがいるから、みんな助かった。いくら修行を積んでもヤムチャでは地球を守れないってことですね(つーことは、クリリンも人間じゃなかったりして。あいつ鼻の穴が無いしなー……)。



 福はー内ー♪
 鬼もー内ー♪