庚申、入谷朝顔市 (旧暦 水無月八日)

 そろそろ閑古鳥が鳴く頃だろうと、ようやく観てきました『シン・ウルトラマン』。
 ま、あれだけ空いてりゃ、少なくともスクリーン内での感染はないやろ。ゲーセンと繋がっとる外では知らんけど。





 大企業を巻き込んで大金注ぎ込んだ趣味バリバリ全開スケールMAXの二次創作。

 これは、あえての褒め言葉です。
 それほどに、ウルトラマン愛が大きい大きすぎる。
 そう感じました。
 いや庵野監督、本当にお好きなんでしょうね。総監督と脚本だけでなく、モーションアクションにまで関わっておられるとは。こだわり度がハンパない。こりゃきっと、禍威獣・外星人のデザインにも口出ししてるぞー。

 ああ、誤解のないように言っておきますが。
 別に旧作を観てなくても、初見の人が普通に娯楽作品として観られますから、ご安心を。特撮モノにアレルギーが無ければですけどね(苦笑)。
 あれこれ難しく行間を深読みしたがるのは旧作ファンの習性なのです。はい。

 邦画のキャスティングについては言っても詮無きこと。
 とは言え、神永新二のアップになるたびに「ラジオインディード」とか、ドリンク手にして「チャージした?」とか言い出すんじゃないか、などと頭の切り替えが下手な私は、ついつい思ってしまいます。
 TVに出ずっぱりの人、少なくともCMで売れまくってる人を映画のメインに据えるのは、イメージ面での弊害が大きいと個人的には思います。できたら主役は演技力のある無名の新人が理想的だろうと。

 にしても時代を感じますね。
 旧作でムラマツ・キャップを演じられた小林昭二さんが当時、三十六歳。
 で、『シン』で田村班長を演じられた西島秀俊さんが五十一歳。
 でも、田村班長よりキャップのほうが、どうしたって老けて見える……時代だ。
 ちなみに、ランバ・ラルが三十五歳だぞ(笑)。昭和こえぇ(爆)。

 二時間弱という尺に複数の禍威獣と外星人を登場させたための詰め込み感、駆け足感は否めません。総集編映画と言ってもいいくらいの薄さではあるでしょうね。
 なら、外星人単体の陰謀に絞って二時間……ってのも、どうなんだろ。
 エンタメと考えれば、そこまで批判しなくても、と自分は思います。怪獣宇宙人てんこ盛りでもええじゃないか。

シン・ゴジラ』に比べて人間側のリアルさが無い。
 という意見もあるようですが。
 そもそも、身長六十メートルの銀色巨人が巨大怪獣とプロレスする作品に、そこまでリアル求めんでも?

 まあ、庵野監督自身がヲタですし、ヲタ向けに作られた作品でしょうから。
 旧ウルトラ好きでない層からの駄作認定があっても当然ではあると思います。
 そこはほら、感想など人それぞれ、ということで。お互いに相手の意見を否定することはないかと。

 そんな私でも、誉めるばかりではないです。
 一つだけ個人的に妥協できない不満がありまして。
 ED曲がミスマッチしすぎです。
 あれは勘弁してください。あれなら、平成ライダーの劇場版で仮面ライダーガールズが歌った気の抜けたヘナチョコED曲のほうがナンボもマシです。
 誤解のないように補足しますが。曲単体での出来を言っているのではありません。本編とのマッチングが成立していないと言っています。
ウルトラマンの歌』のインストルメンタルを鷺巣さんに編曲してもらえば大丈夫だったろうに。あるいは『科特隊マーチ』とか、旧作最終回のウルトラマンが帰っていくシーンに流れたBGMとか。
 いやー、さすがに米津さんの曲調は合わなさすぎでしょ。ここだけは、庵野監督の考えが反映されずに、例えばPが無理矢理に押し込んできたのかもしれないな。
「玉に瑕」と言えば聞こえはいいけど……観た側としては残念無念です。エンドロール観ずに出て行きたくなったの、かなり久方ぶりですよ。
 できたら円盤にする際に差し替えてほしいくらいです。



 以下、容赦なくネタバレしてます。
 畳んで反転もしておきますので、よしなに。




 旧作『ウルトラQ』から『ウルトラマン』への経緯をほぼ忠実になぞる。
 CGにも関わらず、ウルトラマンの姿には、旧作でスーツ・アクターを務められた古谷敏さんの体型をベースに採用。
 そのウルトラマンの顔が、ちゃんと変化している(旧作では単純にスーツの劣化・不具合を受けての新調が理由)。
 でも、ウルトラマンにカラータイマーは無いという、本編でなく成田デザインに忠実な仕様。
 劇中BGMも『Q』および『マン』の宮内國郎さんのそれを採用。
 初戦での回転キックに、まさかのあのSE!
 神永新二とウルトラマンとの関係は、ハヤタよりむしろ薩摩次郎とモロボシ・ダンウルトラセブン)の関係に近い。
 メフィラスと神永(ウルトラマン)が呑み屋で語らうのも、たぶん『セブン』の卓袱台からと思われ。
 メフィラスの使ったβシステムの光は、郷秀樹が帰マンに変身する時のヤツ。
 途中で神永がウルトラマンだとバレてえらいことになるのは『ウルトラマンメビウス』へのリスペクトか。
 宇宙に浮かぶ巨大なゼットンは、モロに使徒で(地上からのうっすらした見えかたは、建造中の地球帝国宇宙軍エルトリウム級一番艦っぽくもある)。
 旧作ゼットンの一兆度も、『シン』のゼットンなら納得せざるを得ない。
 最終決戦は、ほぼ「果てし無き、流れのはてに…」。
 趣味全開やな庵野監督。

「禍威獣特設対策室」略して「禍特対」とし純粋な背広組にしたのは、旧作で大人の事情にあらがえなかった部分を徹底改善したと解釈できますね。
 旧『ウルトラマン』の「科学特別捜査隊」略して「科学特捜隊」あるいは「科特隊」は、パリに本部を置く国際警察機構(おそらく I.C.P.O. を元ネタにしたものと思われ)の下部組織であり、『ウルトラQ』にて超常現象事件が多発するようになったことを受けて専門の捜査組織を求められた結果です。つまり科特隊は、それ以降のシリーズ作品に登場するウルトラ警備隊やMATなどの戦闘組織・軍組織ではなく、あくまでも警察組織の一つなのです。科特隊隊員は普段はスーツ姿で勤務しており、危険な現場に出動するときに、あのオレンジ色の制服&放射線も防げるヘルメットを始めとした標準装備に替えます。武装は小型光線銃の「スーパーガン」および流星マークを模った手裏剣のみ(アラシ隊員のスパイダーショットや後に追加されたマルス133、戦闘機レベルの性能を持つジェットビートルなどは、あくまでも怪獣出現率が高い日本支部独自の物)。対怪獣用とも言えるオレンジの制服ですらネクタイ着用ですからね。あくまでも兵士ではなく警官なんです。なのに科特隊の戦闘力が高い(実はシリーズ歴代チームの中、自力での怪獣討伐数がトップだったりする♪)のは、あれです。南部博士の常套句である「科学忍者隊は戦闘のための組織ではない」と同じことです(笑)。
 で、禍特対も専門チームとして特化、禍威獣の分析と対策の立案および指示を担当し、ドンパチそのものは自衛隊に任せる。実に合理的な分業です。これが警察の指示なら自衛隊が言うこと聞くわけありませんが、省庁直属の組織ですからね。わりと穏便に連携が進んでいるようで何よりです。

 禍威獣のデザインは、いささか『ウルトラマンパワード』っぽい感じもします。
 が、派手好き北米向けの『パワード』と違い、禍威獣は旧作を貶めるものではないと感じます。むしろリスペクト。

 外星人は外星人で。
 ザラブのズルさ汚さ。
 メフィラスの知性と、ウルトラマンを凌駕する戦闘力。
 旧作の静かなる設定も、ちゃんと継承している。
 特にザラブの外見。これは成田さんがご存命だったら、どうお感じになるか知りたいですね。イタコさんに頼めんかな? 何せ、成田さんは凹凸から錯覚を起こさせるようなデザイン・造形が大好きでしたからね。
 判ってらっしゃるなあ庵野監督。
 外星人の間で秩序と取り決めが、つまり外星人社会が確立されていると明確に描かれたのも好印象です。旧作では、第一話でウルトラマンベムラーが同型色違いの乗り物で追いかけっこしていた、くらいですからね社会体系が存在してそうな描写って。宇宙警備隊については、光の国が一方的にやっている、悪く言えば「世界の警察アメリカ合衆国」みたいな独善の印象すらありました……いや、『シン』の光の星も似たようなものか。

 ウルトラ・シリーズそのものを未見の人や平成以降の作品しか観ていない人には理解困難な箇所もあります。もちろん、そこはスルーしてもOK。
 が、そこは無印『ウルトラマン』を観た人にとり、よおーく判る、そして楽しくなる部分でもあるのです。

 ぐにゃありと蠢いているマーブル模様が、やがて『シン・ゴジラ』のタイトルになり、それをブチ破って真っ赤な背景に白文字抜きの『シン・ウルトラマン』になるのは、元祖『ウルトラマン』のタイトル手法そのものです。ちなみに元祖でブチ破られるのは『ウルトラQ』で、これは『Q』から『マン』へと時系列が続いた連続物語であることを示しています。であれば『シン・ウルトラマン』は『シン・ゴジラ』の続編であると解釈できますし、ならば『シン・ウルトラマン』に登場した竹之内豊さん演ずる「政府の男」は『シン・ゴジラ』の赤坂秀樹に他ならないでしょう。
 また、『シン・ゴジラ』ではゴジラのことを「巨大不明生物」と呼称しており、『シン・ウルトラマン』においても禍特対設立までの三体は「禍威獣」ではなく「巨大不明生物」と呼称しています。
『Q』で怪獣や宇宙人による事件が多発したため『マン』では科特隊が結成されていた、という旧作の経緯をそのまま『シン・ウルトラマン』冒頭でトレスしたと言っていいでしょう。ちなみに、ウルトラマン飛来以前の巨大不明生物第1~3号および禍威獣第4~6号はすべて旧作『Q』の怪獣を元にしています。言うまでもなく、ウルトラマンと関わった禍威獣第7、8号と外星人たちは旧作『マン』のキャラが元です。
 もう一つ状況証拠を。巨大不明生物第1号であるゴメスは、旧作では東宝が使い古したゴジラの着ぐるみをトゲトゲに改造したものです。
 ほのめかしレベルではありますが、あからさまに『シン・ゴジラ』との連作を意図していると思いますよ。

 パゴスとネロンガガボラを同属亜種の禍威獣としたのは、この三体が旧作において着ぐるみの使い回しをしたコスト・カット対策であった事実を逆手に取ったものです。
 ちなみに旧作では、バラゴン→パゴス→ネロンガ→マグラ→ガボラ、と改造しまくられてます♪ この流れは他の怪獣でもあれこれありました。ホント予算無かったそうですね当時。そんな中で別々の怪獣をデザイン・造形なさっていた成田さん、さぞかし大変だったことでしょう。

 おそらく、もっとも理解されにくい部分は、これでしょうね。
 ウルトラマンを連れ戻しに来た光の星の使者が、巷でよく知られた「ゾフィー」でなく「ゾーフィ」だったこと。
 そして、そのゾーフィが、よりにもよってウルトラマンの天敵であるゼットンを召喚して地球を滅ぼそうとしたこと。
 これは旧作を観ていても理解に苦しむ脚本です。
 て言うか、旧作を観た人のほうが理解できません。旧作を観ただけでは判らないんです。
 実はこれ、大伴昌司氏の『怪獣ウルトラ図鑑』(秋田書店)におけるゼットンの解説文を元にしていると考えられます。
 この解説では「ゼットンはゾーフィが地球侵略のために連れてきた」となっているのです。つまり、後々に円谷プロが後付け公式設定した「ゼットン星人」であり放送当時は名無しさんだった、ケムール人似の侵略宇宙人のことを、この本は「ゾーフィ」と誤解していたわけです。大伴氏がいいかげんだったのか、編集のポカなのか、ともかくウルトラマンを助けたゾフィーのことを忘れていたんですね。酷い話です。そして、いかにも昭和のなせる雑な技です(苦笑)。
 でも、そのいい加減な解説をうそんことしてスルーするでなく、あえて脚本に取り入れるのが庵野監督の超マニアック変態さ♪ ゾーフィにゼットンを召喚させ、なおかつウルトラマンをゾーフィに助けさせる。ついでにウルトラマンにはゾーフィのことを「ゾフィー」と呼ばせる。徹底してます。すばらなリスペクトでございます。
 ちなみに旧作本編の音声では伸ばさず「ゾフィ」と、あるいはエコーのせいで「ドピ」とも聞こえますです。はい。

 それにしても。
 庵野監督の解釈でも、初代ウルトラマンの地球滞在は違反行為だったんだな、やっぱり。

 面白かったです。
 発売されたら円盤も買って、じっくり観なおしたいと思ってます。