年越し、男鹿なまはげ (旧暦 霜月十七日)

 江戸の町方での年越しは、ある意味、ゲームみたいなんですよね。
 ルールは簡単。除夜の鐘が鳴り始めるまで逃げ切ったら勝ち。

 そうです。
 掛け取りの話です。つまり、借金取りから逃げろ逃げろゲーム。

 井原西鶴の『世間胸算用』とか、古典落語の『睨み返し』や『掛け取り』などで、よく判るのですが。
 ツケで買った代金、溜まった家賃、その他の借金諸々は大晦日が一つの区切りで、ここをクリアすると、少なくとも厳しい取り立ては、お盆までされずに済むという優しくて不思議なルールがありまして。
 と言うかむしろ、年の瀬になると取り立てが普段とは桁違いにメッチャ厳しくなる、と言うほうが正しいかな。どこでも年内に貸し付けを回収するために必死になるんですよね。書き入れどきだからなんでしょうか。違うんでしょうか。
 ともかく、年内に取り立てると貸した側の勝ち、年内を逃げきったら借りた側の暫定勝利(借金がチャラになるわけではないから)ということで、外野からすると面白いものです。
 なので、特にお金のない庶民は、年末をどうやり過ごすか逃げきるかに、無い知恵を絞るわけです。それを面白おかしく描いたのが『世間胸算用』であり『睨み返し』であり『掛け取り』なんですね。

 借りたものは返すのが道理であり人の道。
 でも、宵越しの銭は持たねえ、無い袖は振れねえ、というのが江戸っ子の粋(?)。
 江戸の町には、そういった連中の生存をも許すだけの懐の深さがあった。ということに尽きるんだと思います。

 比べると今は世知辛いですね。飽食社会なのに餓死する人が後を絶たない。
 お隣さんと米や醤油の貸し借りをしていた古き良き人情の日本は、どこにいった?