春分、彼岸中日、八せん始め (旧暦 如月五日)

 前回の続き。
 例えば、銃器。

 こちらは、まあね。
『シティー・ハンター』などでの超絶技巧は演出として皆が理解したうえで楽しんでいると思います。まさか冴羽や海坊主の銃さばきが現実に可能だと信じてる人は、いないよね?
 問題なのは、こういう作品の中に、ときどき出てくる蘊蓄めいた台詞やシーン。ここに罠がある。



 一つめ。
 かつてメッチャ巷に跋扈していた都市伝説である筒内破裂。

 現象を正確に表現する言葉としては「筒身破裂」と書くのが正しかろ。
 無論、こんなこと起こらないけどね。

 松本零士さんが戦場まんがシリーズで描いておられました。
 金属の塊である通常弾では「筒内破裂」など起こらない。ただ詰まるだけ。
 問題なのは榴弾という、弾の中に火薬を仕込んで爆発させる系の代物で。筒身内に異物が詰まったまま、この弾が発射されると最悪、筒内で爆発が起こる、と(「腔発」と呼ぶそうな)。
『999』などで、斜め上のトンデモ理論を展開するイカレた人なのに、この件については理路整然と「筒内破裂」の迷信を否定しておられて、感心させられたものです。
 余談ですが、松本さんは『ガンフロンティア』では、敵の殺し屋が筒内破裂で自滅、トチローとハーロックが助かるという展開を描いてますけどねー(苦笑)。

 かつて『月刊Gun』でも、この問題への解答となりそうな記事がいくつもあり。銃身に何か詰まっても余程の不良品・欠陥品でもない限り裂けるには至らない、という結論が導き出せます。妖之佑が読んだ記憶から引っ張り出しますと。
 小銃の銃口へ弾頭をハンマーで強引に叩き込み、それから普通に弾を装填して射撃したところ、銃身の先っぽだけがちぎれて飛んでいった。
 トンプソンで、たまたま火薬不足の不良弾一発が詰まって、そのまま次以降の弾が発射され続け(サブマシン・ガンだからね)、銃身を真っ二つに斬ったところ見事に弾頭が整列していた♪ 銃身は少し膨れた程度。
 M1917 とガバメントを水中で撃ったところ、まったくの無問題。
 わざと火薬を増やしたオーバー・ロード弾での実射にて、倍掛けでは問題なく、三倍掛けでようやく M1917 のシリンダが破裂、ガバメントのスライドとフレームが歪む。銃身に大きな影響はなかった。
 無知でアバウトなアメリカ人が大日本帝国軍の小銃(三八式だったか九九式だったか)を北米で流通している弾向けに改造したものの、銃身を替えてないため結果としてオーバー・サイズの弾を撃っていた。でも銃身は裂けず歪まず、反動だけが異常に強くなった(この反動に困って専門家に相談、無茶な改造が発覚した流れ)。

 つまり、「筒内破裂によって射手が顔や手に大怪我を負う」という小説や漫画は、すべて嘘。これは演出というより、作者が無知なのだと、あえて断定します。
 犬神明もバビル二世も、とんだハッタリ野郎でした。つか、それに引っかかったプロのはずのCIAが阿呆揃いだった(爆)。次元とルパンも、この迷信に騙されてたっけ。



 二つめ。
 ワン・オブ・サウザンド。いわゆる「千挺に一挺」。

 この名称と、この名称を頂く銃器は実在します。
 ただ、創作におけるワン・オブ・サウザンドは、誇張と誤解だけで成り立っている。『シティー・ハンター』とか特に酷かった。

 この名称を広く世に、特に日本に知らしめたのは『Winchester '73』という西部劇映画だと思われます。「One of One Thousand」と呼ばれる名銃を巡っての争奪物語。
 この映画に出てくる「One of One Thousand」は、西部劇ではおなじみのウィンチェスターM73 、いわゆるレバー・アクションのライフル銃です。コルトSAA(ピースメーカー)とともに、西部劇カウボーイの必需品でした。工場量産品ではあるのですが、時代が時代ですから、その精度は現代と比べれば……ねぇ。製品のバラツキは、かなりあったはずです。

 で、ここからは、どれが本当か確認が取れていないのですが。
 一つめの説は、それこそ都市伝説と同じく、大量生産する中で、偶然ごくまれに精度の優れた物が出来ることがある。これが市場に流れて「One of One Thousand」と呼びならわされ、珍重された。
 二つめの説は。偶然出来るまでは↑と同じだが。これがメーカー検品で見つかると別扱いにして「One of One Thousand」の銘を付けたうえで高値で卸した。
 三つめの説は。最初っからウィンチェスター社が「One of One Thousand」という製品を展開していた。工員の中から腕の良い人たちだけを集めて「One of One Thousand」専門のチームを編成。つまり、今で言う「リミテッド仕様」とか「特別限定バージョン」ね。
 この三つめは、実は実際に行われていました。西部開拓の時代からだいぶ後になりますが、M70 というボルト・アクションのライフル銃にて、ウィンチェスター社は「One of One Thousand」という商品企画を定期的にやっていたそうです。まさに特別限定生産という触れ込みで売っていたワケ。ただ、レバー・アクションでもやっていたのかどうかは、ネットで探しても資料っぽいものに出逢えません。

 それらを踏まえて。
 笑えるのは冴羽の蘊蓄でしたね。
 S&W M58 .41マグナム(だったかな?)を取り出して「量産品の中に偶然、どんな名工でも作れないほどの高精度の銃が生まれる。それがワン・オブ・サウザンドだ」と(意味的に、こんなとこでしたよね)。
 そも「One of One Thousand」はウィンチェスター銃に付けられた冠です。S&Wの、しかも 20世紀になってからの現代リボルバーに、その名は、ありえない。
 だいたい、名工の実力をバカにしすぎ。工業製品については、偶然の産物より、名工の手作業によるほうが良質に決まってます。カスタム専門の職人さんはパーツ選びから始めますからね。その厳選したパーツ群一つひとつに手をかけて調整する。工場で偶然に良パーツが集合するより、ずっと確実で精度も上がります。
 もっと言うと、命中精度に限っては冴羽が愛用しているパイソンのほうがS&Wよりも上。なので、「S&Wのワン・オブ・サウザンド」などと称する怪しいレア・アイテムを探すより、名工にパイソンのカスタマイズを依頼するほうが早くて安いよ。それもあって実際、「スマイソン」なる、お手軽カスタム銃も世に出たくらいですから♪



 冴羽ついでに、もう一つ(笑)。
 店内で、道に面した窓を背にした悪党を、冴羽が自分の手を減速に使い、弾を貫通させず悪党の体に盲管で済ませ、通行人に被害を及ぼさなかったアレ。
 そもそも新宿を拠点にする冴羽が普段からFMJ弾を入れているのが無茶苦茶。街なかでの撃ち合いでは流れ弾による二次被害を防ぐため軟性弾頭にするのが基本で、先進国の警察装備はこれに準じている。冴羽も本当ならシルバーチップでも入れておくべき。で、「生憎だが、俺は街ではホローポイントしか使わないんだ」とでも言わせれば、それだけでも格好良いと思う。手のひら撃ち抜く必要なんてゼロ。
 でもって、例えばユニオンのアジトに殴り込かけるときにFMJでもKTWでも、あるいは逆の発想で残酷なGSSあたりでも装填して、敵に「ホローポイントじゃないのかよ」と絶句させたらいい。次元の「今度のは、ただの弾じゃねえぞ」ですよ♪
 実際、リボルバー全盛の頃は、戦闘の段取りを想定してシリンダーに複数種の弾を入れておくテクもあったそうです。判りやすいところでは、初弾と二発目に牽制用のショット・シェル(散弾)を入れて、残りを命中目的の弾にする、とか。



 ディスってばかりもアレなので。
 冴羽がよく使う、物陰に隠れた敵を、弾を鉄柱にでもバウンドさせて倒すテクニック。
 あのレベルはさすがに創作ですが。現実に、跳弾を積極的に利用する研究は、なされていたと聞きます。実用に至ったかどうかまでは、知りませんが。



 筒内破裂は、ほぼ絶滅したようですが。
 ワン・オブ・サウザンドの超絶都市伝説も、そろそろ是正されてほしいところですね。
 どなたか、詳しいかたが研究結果とか出してくださることを期待します。いや、英語のできない妖之佑は、所詮は素人が二次情報あたりでウロウロしてる程度の愚かな小者ですから。はひ。

 蘊蓄と演出は別物。混ぜるな危険。
 創作者も読者も、ここは要注意。