入谷朝顔市 (旧暦 水無月三日)

 不謹慎と誤解されるかもしれませんが。

 例のダッカにおける無差別テロ事件。
 不幸にして被害に遭った日本人のかたが、「日本人だから撃たないで」とテロリストに言ったと報道されています。
 これが事実だとすると、あまりにも不勉強だったと言わざるを得ないのです(無論、ダメ元を承知で試した可能性もありますが)。

 昭和の、20世紀の頃ならともかく。今の国際社会における日本人の評価は、かなり落ちています。
 お金持ちとしての評価は中国人に劣り、経済界への発言力も中国人に劣り、結果として国際政治への影響力が中国人に劣る。
 アラブのテロリストが日本人だけ特別扱いしてくれる時代は、とうに終わっています。て言うか、日本国内ですら、アラブ系テロの危険性があるとまで言われているのですよ。なのに「日本人だから撃たないで」という言葉が出たということに、虚しさを感じたのです(もっとはっきり言うと、失礼ながら呆れました)。日本人ジャーナリストがテロリストに生首を斬られた事件だって、あれだけ衝撃的に報道されたのに、どうしてそんな発想が出ますかねえ……。

 かつて、テロリストは報道関係者にだけは一目置く、という状況がありました。
 それは、テロリストにはテロリストなりの主張、つまりは“正義”があるため、それを伝えてくれるジャーナリストは利用価値がある、ゆえに危害を加えず生かして還す、という図式です(サリンを撒いた某テロ集団も、一部ではあるものの報道や宗教学者に対して、ものすごく好意的だっただろ?)。逆に、報道関係者を敵に回せばクソミソに書かれるのですから、少なくとも表立って手出しをしないのは当然のことでした。

 しかし、今は違う。テロリストは報道者に対しても一切の容赦をしません。
 言わずともお判りのとおり、インターネットがあるからです。
 連中は自分たちの主張を直接に全世界へ発信する手段を手に入れました。ために、テロにとり報道関係者の利用価値はゼロになっているわけです。
 それを知ってか知らずしてか、生首を斬られたあのジャーナリスト氏は、何を思っていたことか。

 もう一つ言うと、そこが親日な国かどうかは関係ありません。
 と言いますか、親日国家であれば、そこの反政権勢力は反日になりませんか? つまり攻撃対象になるのが道理。
 あと、テロ以前に、イスラム圏では常にスンニ派シーア派の激しい対立がありますからね。日本人を認めてくれる側があれば必ず敵視する側も同じ場所にいるのです。

 外務省に対して、「危険性を国民にきちんと知らせなかった」という非難の声もあるようですが。ネットを使えば情報など手に入ります。その情報を元に渡航するかどうか決めるのは外務省ではなく本人です。自分の命を危険にさらすかどうか決めるのは、けっきょくは本人なのですよ。
「業務命令で仕方なく」って人もおられるでしょうが、それとて「命と仕事、どっちが大事?」というシンプルな設問に回答することに他なりません。判ってるはずなんですけどね。
「正常化バイアス」という専門用語が、今回の件を含めて説明してくれるのかどうか。
 少なくとも「日本人だけは大丈夫」なんて時代は遠い過去のことという事実だけは肝に銘じておくべきでしょう。残念ではありますが、それが現実。
 自分の身は自分で守るしかないのですよ(「守る」と言うと大袈裟ですが、要は「君子危うきに近寄らず」というコト)。
 ええ。怖い世の中ですねぇ…………。