甲子、一粒万倍日 (旧暦 弥生廿二日)

 そう言えば、アッテネーターのことを書く、とか言ってた気がする。
 随分と経っちまったな。





 音量調節、つまりボリュームなどのつまみ。
 あれが、どうやって調整しているのかと言いますと、可変抵抗器というパーツを使います。
 その構造は回路図に使われる記号を見ると一目瞭然。

 ─WWW─

 抵抗(直流抵抗)を意味する記号は、抵抗器の最も基本形と言える巻線抵抗器からデザインが作られています。

   ↓
 ─WWW─

 その巻線の上を、接点「↓」を任意の位置に動かすことで実質的な巻線の長さを調整、結果として抵抗値を任意に変えられる。これが可変抵抗器。
 兵隊さんが手作りした所謂「塹壕ラジオ」で、余ってる針金を手巻きしたコイルの上を拾ってきた鉄棒とかを滑らせて選局する、あの形も広い意味では可変抵抗器と言えると思います。
 なお、現在は巻線ではなく、抵抗体の上を動かしているそうです。

 で、この可変抵抗器を「ボリューム」と呼んでラジオなどなどの音量調節や音質調節に使っている。照明の明るさ調整も電球時代は可変抵抗器だったと思いますし、電気あんかの暖かさ調節もたぶんこれ。
 照明や暖房はともかく。
 音を聴くにも普通は、これで良かった。これで充分。

 しかし変態……もとい、こだわり派の多いオーディオ界においては、可変抵抗器は鬼門の一つなのですね。
 いろいろ技術的な理由はありますが、ぶっちゃけ妖之佑も理解してません。
 妖之佑でも判るのは。
 一つ。接点を擦る構造のため、摩耗とか錆びとかの劣化のリスクを持つ。代表的な現象が、少し年季の入ったラジオやラジオカセットのボリュームを回したときや、新品でも安物によくある「ガリ」つまりガリガリバリバリ鳴る雑音ですね。
 一つ。可変抵抗器は直流抵抗はコントロールできるが、交流抵抗を制御できないどころか下手すりゃ乱す。ただでさえ周波数ごとに違う交流抵抗が可変抵抗器のせいでグチャグチャになりかねない。オーディオ人は、とにかくインピーダンスに五月蠅いですからね。
 要するに、音声信号を可変抵抗器に通すと音質が劣化する、ということだそうな。
 ならボリュームを外してしまえ、というのは駄目ですよね。爆音を止められなくなります。

 で、変質者……もとい、こだわり派の技術者たちは考えました。リスクの少ない可変抵抗器を使おう、と。
 その結果、登場したのが、オーディオ用(?)のアッテネーターです。
 いや、アッテネーターって可変抵抗器を意味する言葉なんですけどね。少なくともオーディオ界では、通常のボリュームと区別する意味で、「アッテネーター」の名称を使ってます。
 通常の可変抵抗器より構成パーツは多いですが、原理としてはアッテネーターのほうがむしろ単純。

 例えば、プラス側の接点が四つあるロータリー・スイッチを用意します。

 ◇

 この四つの接点に四種の固定抵抗器を、値の大きい順に右回りに接続します(以下の数値はテキトーです)。

    100kΩ
     │
 500kΩ─◇─10Ω
     │
    1MΩ

 はい、これで4ポジションの“ボリューム”が出来上がりました。
 つまみを右に回せば抵抗値が減る、つまり音量が大きくなる。左に回せば抵抗値が増えて音量が小さくなる。
 もちろん接点が四つ程度では実用になりませんから、もっともっと多端子のロータリー・スイッチと多数値の固定抵抗器が実際には必要です。

 メリットとしては。
 接点が摩擦でなくスイッチなので、劣化しにくい。
 固定抵抗器を使うことで、各ポジションでの交流抵抗が普通の可変抵抗器よりは安定する。

 一方のデメリットとしては。
 何よりもコスト高。ロータリー・スイッチの接点が低品質だと、すぐ劣化します。よって、高品質品を使わないと本末転倒になる。
 それと、アッテネーター内部の回路が複雑化すること。たくさんの接点に、たくさんの固定抵抗器をハンダ付けしますからねー。

 以上のことから、多くのオーディオ製品では、ボリューム等々には普通の可変抵抗器を採用してます。とあるブランドなど、わざわざ「アッテネーター」と称し、パネルの目盛りも仰々しく「dB」表示しながら、その実、普通の可変抵抗器を使ってる有様だったり……(いや、止まるポイントが無く無段階に回るんだから、触れば判るって)。

 妖之佑の知る範囲で、本当の意味でのアッテネーターを音量調整に採用しているアンプは、ソフトンさんのだけです。
 他方、超高級ブランドなら大丈夫だとは思います。思いたい。たぶん大丈夫……かな? 触ったことないので知らん。
 まあ、そんなお高いブランドには縁がありませんので、はひ。


 ただ。
 ここまで述べて何なんですが。

 そもそも、パワー・アンプに音量調節なんて要るか?
 と思うのですよ。

 パワー・アンプとは文字通りパワー用アンプ。つまりは音声信号の増幅が仕事です。それ以外は、やらんでええ。
 ならばシンブル・イズ・ベスト、ボリュームつまみなんて無いほうがよくね?

 通常「プリ・アンプ」と呼ばれるコントロール・アンプは、こちらも文字通り、コントロール用アンプ。
 そうです。音量調整も「コントロール」なのですから、こっちに丸投げしてパワー・アンプは増幅だけに専念すればいいのです。
 で、コントロール・アンプに安易な可変抵抗器ではなく、お高いアッテネーターを使えばいい。

 ↑で、ソフトンさんのパワー・アンプにアッテネーターが採用されていることを評価しましたが。
 本音では、ボリューム無しで作ってほしかった。実際、ソフトンさんでも Model7 には無いですからね、ボリュームつまみ。これでいいのだ。
 ソフトンさんは別に、単体でのセレクター兼アッテネーターも出しておられますから、これをパワー・アンプに繋げばいい。他のブランドにも、同様の品がありますし(中身がアッテネーターか可変抵抗器かは判らんけどね)。

 もっと言えば、不器用でなければ、アッテネーターは自作できます。ちゃんとしたパーツ選びをして、ちゃんとハンダ付けできれば、実用品が出来上がります。電源回路が無いので、アンプなどと違って自作品でも危険性が少ないですし。
 これと、信頼できるブランドのセレクター(器用な人なら、これも充分に自作可)をパワー・アンプに繋いでやれば、かなり理想的。


 ちょっと話の軸がズレましたけどね。
 これも、まともなコントロール・アンプが(超ド級価格帯を除き)市場に無くなったことから出てくる愚痴なんですよ。
 現状、パワー・アンプは石でも球でもデジタルでも、まあまあ選び放題ですが。
 その前段階に繋ぐのは、今や品数の激減したコントロール・アンプではなく、セレクターとアッテネーター。そしてレコード盤も聴きたいなら、ちょっとお高く付くけどフォノ・アンプを追加(そこまで音質にこだわらないなら、フォノ・アンプ内蔵のレコード・プレーヤもあるよ♪)。ということになります。

 まあ、こだわらない人はコントロールとパワーが合体した普及価格帯のプリメイン・アンプや、いっそのことAVアンプで充分ですし。
 CDしか聴かん、ネット配信しか聴かん、という人ならアンプ側はボリュームつまみの付いたパワー・アンプだけで済みますけどね(左右の音量バランスを取るためのバランサーつまみも必要と人は言うけど、そこまで左右チグハグな音源というのは、あまり無いと思う。音源以外がチグハグの原因なら、その原因を排除するほうがベターなわけだし)。





 まさか、ここまで長文になるとは……。(;^_^A

 なお、ド素人ゆえ、記述に誤りが多々あるものと思われます。
 お気づきの際は、お知らせいただければありがたいですし。
「こいつ莫迦だな」と腹の中でお笑いいただいてかまいませんです。
 いずれにしても、妖之佑の駄文を鵜呑みにすることだけは、おやめくださいますよう。
 ご興味をお持ちなら、必ず余所様の情報や専門誌・専門書等々でご確認くださいませ。m(_ _)m