上弦 (旧暦 葉月九日)

 マキマキ様・外伝。



 あれから、たゆまぬ努力を重ね重ねて幾星霜。

 などという冗談はさておきまして。
 マキマキ様計画は鈍行ながら、いちおう進んではいるのです。


 昨秋あたりウロウロしていたのは、ゲルマニウム・ラジオでスピーカを鳴らすという目論みでした。
 ですが、入手したスピーカ・ユニットの出力音圧レベルの関係で「現状では難しい」という途中結果となったまま停滞してました。
 ああ、「出力音圧レベル」というのはオーディオ趣味ではお馴染みの用語なのですが、要するに、電気である音声信号を実際の音声つまり空気の振動に変換するスピーカの「能率」「効率」と考えたら、たぶん正解です。単位は「dB(デシベル)」で、数値が大きいほど高効率。
 これは対数なので、ちょっと判り辛いのですが、例えばAスピーカに比べてBスピーカの能率が 3dB 低い場合、Aスピーカと同じ音量で鳴らすためには、Bスピーカには倍の音声電力を送り込む必要があるのだそうです。つまり単純に言ってしまうと、スピーカ能率 3dB の差は、アンプ出力(ワット)の二倍差に相当するということ。
 ザックリ数字で例えますと、「93dB のスピーカ+ 5W のアンプ」と「90dB のスピーカ+ 10W のアンプ」とが同じ音量で鳴るということですね。
 AC電源につなぐオーディオ装置では、たいして重要でもない数値かもしれませんが(ただし、かつては「高効率スピーカのほうが音質が良い」という話もありました)。無電源のゲルマニウム・ラジオでは、このデシベルの差はデカいと思いませんか? なにせ電波のみを電源にするんですから、能率は高ければ高いほど良いに決まってます。
 ゲルマニウム・ラジオでスピーカを鳴らしておられる先達のかたがたのサイトやブログで、この出力音圧レベルに触れた記述が少ないのは不思議です。オーディオと自作ラジオって似た趣味かと思ってましたが、どうやら別のカテゴリなんですね。いや、オーディオ畑の人間なら知ってて当然の知識ですから、出力音圧レベルなんて。
 ただまあ、用語は知らずとも、意味的に「スピーカの能率」が重要だとは理解しておられると思います。でなければゲルマニウム・ラジオで鳴ったりしませんって。
 で、そんな先達のかたがたの情報を参考にさせていただき、今回、強力なメンバーが加入して一気に計画が進みそうな気配なのです♪

 T-710E

 itC なるメーカー(?)の T-710E という製品です(本当は日本メーカーのを買いたかったけど、お値段がね……)。ホーン・スピーカ、あるいはトランペット・スピーカと呼ばれる代物。
 学校校舎に据えられて「校内にいる生徒、早く下校しなさい」と怒鳴るヤツとか。
「毎度お馴染みのチリ紙交換」あらため「不要品の無料回収です」のトラックに取り付けられてるヤツとか。
「前方の白のカ*ーラ、ナンバー****、道路の左側に寄って停車しなさい」と因縁(笑)つけてくるヤツとか。
 とか、とか、とかの用途に使われる物ですね。
 この製品は何を置いても、出力音圧レベルが高いのがウリです。音質なんて完全無視して、とにかく人の声の音域のみを遠くに広く飛ばすことに徹底して特化しています。
 構造が折り返しのホーンになっているだけでなく、ドライバもかなりの高能率。これで製品として 102dB の能率を誇っています。まあ、トランペット・スピーカとしては平均値よりやや少ないくらいですが……そこはほら、財布との関係もあるから(汗)。
 オーディオ全盛期の高級大型スピーカでも良くて 96dB くらいでしたから、その差は歴然。しかも、以前に妖之佑が実験して、がっかりしたユニットは 90dB 。これは期待できそうじゃありませんか♪

 前回よりも態勢をきっちり整える意味で、トランスも多めに用意しました。
 入力トランスに ST-14(500kΩ:1kΩ)と ST-16(300kΩ:1kΩ)。
 出力トランスに ST-32(1.2kΩ:8Ω)と ST-81(1kΩ:8Ω)。
 さらに電源トランス(9V 300mA)も並べて、あれこれ組み合わせを試しました。
 アンテナはシャンテック電子さんのループ・アンテナ・キット(40cm×40cm)を同調式で接続、ラジオは不肖・妖之佑作のマキマキ様0号機(1K60 による倍電圧整流)。

 巷で一定の成果を上げている電源トランスは、妖之佑の環境では残念ながらダメでした。地元で一番大きく入る東海ラジオですら蚊の鳴くよりはるかに小さな音が辛うじて聞き取れる、というレベルです。以前に試した 90dB のユニット並みです。
 山水同士の組み合わせは詳細を省略しまして、結果的には数字から予想できていたとおり、ST-14 と ST-81 のコンビが一番大きく鳴りました。便宜上「500kΩ:8Ω」という変換になりますね。とは言え、大差が出るほどではなく、あえて比較すれば、という程度の違いです。
 ついでに電源トランスと山水の組み合わせもやってみましたが、お話になりませんでした。まーそりゃそーか。
 とりあえずは、マキマキ様3号機(スパイダー・コイル+ 1N60 一個)のセラミック・イヤホンで聴く程度には放送内容が確認できるくらいにスピーカを鳴らしてくれたので、ひとまずの成功と言っていいかなと。
 面白いのは、ST-81 の一次側で、あえて中間タップを使ってみたところ、少し音が大きくなった気がしました。実際には測定器でも使わないと確実なことは言えませんけどね。しょせん妖之佑の耳ですから。(;^_^A
 ついでにと、マキマキ様?号(1SS108 一個)の回路にループ・アンテナを同調コイルとしてつないで試してみたところ、こちらもスピーカが鳴りました。0号機の音よりは小さく、1号機(トイレットペーパー芯コイル+ 1N60 一個)のセラミック・イヤホン並みの体感音量ですが、それでも鳴りました。

 まあ、スピーカが鳴ったとは言え、蚊の鳴く程度に変わりはなく。鳴ると言っても、スピーカから 10cm も離れたらもう聞こえません。まして内容を把握するには耳をしっかりくっつけないとです。「それじゃイヤホンと変わらんだろ」ですって? ええ、そのとおりですとも! 残念ながら実用レベルには届きません(汗)。
 でもでも、マグネチック・スピーカで放送内容を聴き取れたのは事実ですから。ここは前向きに行きましょう。

 ということで、アンテナとアースの改良は最後の最後に置いとくとしまして(マジで一番めんどいのが、こいつら)。
 次なる段階は、ラジオ本体ですね。
 考えているのは二方向。
 一つは、マキマキ様?号機の 1SS108 使用回路を中心にして、ポリ・バリコンに替えてエア・バリコンと、しっかりしたコイル(大口径ループ・アンテナか大型バー・アンテナか)を使う。
 もう一つは、倍電圧の0号機を強化改良する方法。こっちもバリコンをエアにすることと、あとバー・アンテナの大型化ですね。それを今あるループ・アンテナにつなぐ。
 まー、たぶん両方試さないと気が済まないでしょうね(苦笑)。

 それらを試したうえで、最後にはアンテナとアースの充実でしょう。
 ただし、もしも大口径ループ・アンテナが成功すれば、この問題は解消しますね。

 ちなみに、妖之佑の環境にて。
 ループ・アンテナと0号機の組み合わせで、東海ラジオCBCラジオ、NHK第一と聴けていましたが。今回、慎重に二つのバリコン・ダイヤルを動かしたところ、NHK第二も何とか内容を聞き取れる程度に受信できました。
 地元四局すべてが入感したので、ゲルマニウム・ラジオとしては成功したことになります。ということで、0号機の強化作戦のほうが、スピーカ計画には有力かな。

 トランペット・スピーカーで成功しないことには、「Hi-Fi 用スピーカで高音質」なんてとてもじゃないが目指せないからな〜。