社日、最乗寺道了尊大祭 (旧暦 葉月十三日)

 かなり話がズレたので、少しだけ本の内容に触れますと。



 高天原を追放された須佐之男命が八岐大蛇を退治するくだりで。
 櫛名田比売の一家が住む村に害をなす八岐大蛇だけでなく、八岐大蛇を神と崇めるタタラ一族というのが出てきます。連中が上流で好き勝手するため、下流の村では満足に水が使えない。という迷惑な図式。
 このタタラ一族の長が、水木サン描くところの一つ目の妖怪「一本ダタラ」と同じ顔なんですよね。

 このアレンジには、ちゃんとした根拠がありまして。

 柳田國男によれば、山の異形はたいていが一つ目。
 それは、山の異形の正体が半島から渡来した製鉄技術者の一団であり、鉄の温度を読むために片目をつぶったとも、鉄の熱にやられて隻眼になりやすかったとも。それ故、山に出る妖怪や神様は一つ目が多い。とのこと。
 タタラとは、もちろん踏鞴吹き、すなわち「たたら製鉄」のことです。
 よって、タタラ一族の長が一つ目の怪物なのは理屈が通っているのです。
 下流の村が水に困っているのは、上流で製鉄するため川を汚しまくるからでしょう。

 一方、毎年毎年、大暴れして村人たちを苦しめる八岐大蛇を肥河(斐伊川)とその支流だとする説があります。
 肥河が氾濫を繰り返し、しかも上流に居座った渡来人たちが川の水すなわち生活用水を汚し放題。
 途方に暮れた村人たちの前に、ヒーローの登場ということですね。
 須佐之男命の八岐大蛇退治とは、すなわち暴れ川の治水と迷惑集団の制圧を意味するのでしょう。
 八つの甕それぞれに酒を入れて、八岐大蛇を酔い潰した。というのは、支流を含めた八箇所の流れをおとなしくさせた、と解釈できます。何せ、酒を満たした甕を八箇所に設置した夫婦・足名椎命と手名椎命は、大山津見神の子供ですからね。須佐之男命の指揮さえあれば、土木工事などお手の物でしょう。
 また、八岐大蛇の尾から天叢雲剣が出てきたことを根拠に、須佐之男命は渡来人を討伐しなかったと推測できます。天叢雲剣は鉄剣であり、それを須佐之男命が手に入れた、すなわち鉄器の技術を我が物にした。よって製鉄集団は生かされて須佐之男命の軍門に下ったと考えるべきでしょう。
 タタラ一族が八岐大蛇とともに滅んだとする『古代出雲』とは違う解釈になりますが、渡来の製鉄集団がその後も代々山にこもって鉄を作り続けていたことが山の妖怪や天狗伝説、鬼伝説などに繋がることからも、討伐でなく制圧されたとするほうが正しいのではないかと。後々の世、都を悩ませた酒呑童子や土蜘蛛が、これらの末裔とする説もありますし。



 もう一つ。
 大国主命にも触れておきたいです。

 水木サンは作品で「オオクニヌシは個人名ではなく、代々受け継がれた役職名だったのでは?」と言っておられます。
 だからこそ、大国主命には名前がたくさんあった。大己貴命大物主神八千矛神、宇都志国玉神、大国魂神……などなど。
 これは画期的な説かもしれません。
 大国主命が桁違いに多妻なのも、これが真相なのでしょうか。

 しかしながら、生意気ながら妖之佑は別の説を考えています。
 もともと「大国主」という神様はおらず、いたのは大己貴命大物主神八千矛神、宇都志国玉神、大国魂神……などなどであった。これら複数の神々が各地を分担して治めていた。
 ところが、天孫族が襲来し、残念なことに軍事力で叶わぬ出雲族は降伏するしかなかった。
 降伏の手続きに際して、負けた出雲側の代表者が必要だったが、誰にするかで困ってしまう。誰も敗者の代表にはなりたくないだろうからね。
 なので終戦つまりは講和条約の調印にのみ、今で言う法人代表者としての「大国主」を持ち出した。のかな?

 水木サンは「大国主」を役職名としておられますが。
 オイラは「大国主」を代表名と考えました。

 いずれにせよ、國譲り……と言うと聞こえはいいですが、要するに武力で政権を奪われた人格が「大国主」なのですから、そんな大国主命の無念さ口惜しさは、それはもうとんでもなく深く辛いものでしょう。水木サンのおっしゃるとおり。
火の鳥』でも、ニニギは悪役でしたからね。



 て言うか、天孫族のルーツを考えるとね。
 現在、女系天皇に断固反対し女性天皇にも難色を示す右派が根拠にする「Y染色体を守れ」って主張はさあ、実にb…………おっと、これ以上はダメだ。誰かが戸を叩くぞ。