初地蔵 (旧暦 師走十九日)

ゲゲゲの鬼太郎』に欠かせぬ強敵・バックベアード
 この西洋モンスターが、実はよく判らない存在というのは、先日に書きました。
 水木しげるさんは、ご自身の著書の中で「アメリカの妖怪」と明言されていますが、出典を明らかにしていないため残念ながら不確定情報の域を出ません。水木さんは、ときどき妖怪解説文の中で伝承と、ご自身の創作とをごちゃ混ぜにする悪癖をお持ちでしたから油断がなりません。
 Wikipedia の記述によりますと、バックベアードは『鬼太郎』が初出ではなく、それより前に別の書籍に登場しているそうな。なので、あるいは水木さんは、その記事を参考にして西洋妖怪の大ボスを考案されたのかもしれません。

 ところで『ゲゲゲの鬼太郎』(原作)におけるバックベアードは、ブリガドーン現象の中心に棲息するモンスターとなっています。
 では、ブリガドーン現象とは何か? となると寒鰤の大漁……ではなく妖怪(西洋モンスター)にとって住み心地の良い環境を確保した結界のようなもの、と解釈するのが妥当でしょうか。鬼太郎が正義の味方になる前の『墓場の鬼太郎』(アニメでは『墓場鬼太郎』)の該当エピソード(チベットから三つ目の僧侶が来日して一言だけ言って日帰りした話ね♪)が参考になります。
 東京の一部地域が暴風域に覆われ、なぜかその中だけ妖怪たちが堂々と跋扈、人と妖怪が共存するようになる。この話に限っては科学者による人工現象でしたが、本来は妖怪世界の自然現象で、それが人の世界を通過するように移動するもの、常人には単なる暴風としか認識できないもの、らしい。あれだね、『まど☆マギ』の「ワルプルギスの夜」みたいなもんかな。
 で、『ゲゲゲ』ではバックベアードの巣みたく若干の設定変更がなされています。中がモンスターにとって快適環境というのは変わらず。これ、よくよく考えると、バックベアードこそがブリガドーンなる暴風現象を起こしている、となりません? そう思いつつ、あらためて水木さんが描かれたバックベアードの姿を見ますと……。

 ところで。
水木しげる妖怪文庫』(河出文庫)などの水木さんにる妖怪解説本に「一目連」なる存在が紹介されています。
 いちおう二種類の「一目連」が解説されていまして。
 一つは。桑名の一目連という山は暴風雨を起こす。
 一つは。同じく桑名の多度明神の別宮に祀られている一目連という神は暴風雨から村を救ったことがある。
 共通項目としては桑名であることと、暴風雨をコントロールできる存在である、という二点。
 多度明神とは、おそらく多度大社のことと思われます。ここの別宮である一目連神社が多度大社の公式サイトにて紹介されていますから。祭神は有名な天目一箇神

 少し寄り道しまして。
 天目一箇神とは、製鉄や鍛冶に関わる神様で、一つ目が特徴。
 柳田國男によれば、これは山に棲む神に共通する特徴であり、目が一つなのは片目をつぶって鉄の色を見て温度を読むとも、火に近すぎる仕事で片目を病んでしまったとも。要するに大陸・半島から渡来した製鉄・鍛冶職人たちを由来としたもの。
 で、同じく山に出現する妖怪に一つ目や一本足が多い(一本ダタラ、日照り神、山童、一つ目小僧……等々)というのは、水木さんも解説本にてよく触れておられます。ちなみに、山田の中の案山子が一本足なのも同様の理由からと思われます。なので、おそらく正式な案山子は一つ目なのでしょう。
 以上のことから、天目一箇神が一つ目なのは鉄との強い関係からの隻眼であり、暴風雨を操る一目連との関連性は薄いと思われます。

 で、本道に戻りますと。
 水木さんの描く一目連の姿がね、ほぼバックベアードなのですよ。要は天空に浮かぶ一つ目玉の巨大な球体。
 一目連は暴風雨を操る。
 バックベアードブリガドーン現象の中心に棲む(たぶん操る)。
 両者とも、でっかい一つ目で空に浮かぶ。

 妖之佑の結論としまして。
 一目連とは台風であり、その一つ目玉は台風の目である。
 水木さん版のバックベアードは、一目連の西洋版、すなわちハリケーンであろう。
 とさせていただきます。
 少なくとも水木しげるさんの頭の中では、バックベアード熱帯低気圧が妖怪化したものと認識しておられたんだろうと、そう推測いたします。

 余談としまして。
 初出バックベアードのイラストは、どことなく『ウルトラQ』のバルンガに似ている気もします。ひょっとして、バルンガも初出バックベアードに影響を受けたんでしょうか?

 いじょ。