興福寺薪能 (旧暦 弥生丗日)

 世間から遅れること幾星霜(笑)。
 ようやく観てきました、『シン・仮面ライダー』。
 うん、やっぱりガラガラなのは気楽でいい。混んでたら没頭できんから。



 賛否分かれること。
 メタクソ叩かれること。
 理解できます。
 同『シン』シリーズ(?)の『ゴジラ』や『ウルトラマン』以上に、これは叩かれるわー。
 と思いました。
 何より、東映旧特撮へのリスペクトおよび石森萬画へのリスペクトが強すぎて、特に平成令和ライダーしか知らない層にはイミフな展開や演出が多すぎたこと。その層から「これって本当に仮面ライダーなの?」と言われても仕方ないレベル。まあ、これは逆に旧作&萬画を、つまりは元ネタを知っている層には好評となる要素なんですけどね。
シン・ゴジラ』はおろか『シン・ウルトラマン』程度のリアルさもないわりに会話シーンが多いため、取り分け子供さんには退屈すぎるだろう、という点もマイナスかな。PG12 とあるので、そこは差っ引いて考えるべきかもですが、中学生でも退屈だろうな、高校生ならそもそも観んだろうし、とも。
 つまり、この作品は旧特撮や石森萬画の『仮面ライダー』好きに向けたものであり、ご新規さんのことは、そこまで深く考えてない。そう解釈するのが正しいと思うのです。もちろん、映画制作は出資者あってのことなので、最低限、初見の人でも楽しめる構成にはなってますけどね。

 では、オイラの私見は、と申しますと。
 合格点。
 でも、前二作の「シン」ほどではなかった。そこは、もう少しかな。
 戦闘シーンのCGも前二作に比べると雑ですし。あれなら無理に空中戦にしなくても、地上戦でリアルな殺陣を増やすべきじゃね?
 円盤は買うかどうか未定。
 といったあたり。

 なお、ライダーマスクの口が動くのを旧作ファンが批判していると聞きますが。
 むしろ旧作ファンなら喜ぶところじゃないの? 仮面ライダーの初期設定では、クラッシャーは噛む武器でもあったんだぞ。本編で採用されなかっただけで(でも、アクション用のラテックス製マスクのときは、クラッシャーが開いてたこともあるのだ)。
 マスクがバイク同様に変形メカというのは気に入りました。その手があったかー。

 以下は念のため畳んでおきます。


 基本的には、旧特撮版よりは萬画版『仮面ライダー』を下敷きにしている印象です。
 ま、あくまでも基礎工事、土台のみに関してですけどね。

 一方で。
 戦闘員が、怪人ごとにいるとか。
 回想シーンではありますが、本郷を拉致したのがレオタード♀戦闘員だとか。
 旧特撮版も、ちゃんと踏襲しています。

 冒頭、本郷が“謎の女性”に導かれ逃走した先で恩師に再会する流れは、旧『仮面ライダー』よりも『スカイライダー』の展開を思わせますね。
 とは言え、ここはルリ子の設定を大幅に変えたから、仕方ない部分かと。

 クモオーグは、フリーザ様か山本メフィラスを連想させますよ。

 コウモリオーグは、まさに典型的マッドサイエンティストで。
 て言うか、こいつって東映より北米っぽいんだよな。アメコミによく出てきそうなイカレ科学者。
 と思ってて今さらに気づいたんですが。
 そもそもの石森さんによる萬画版『仮面ライダー』って、アメコミを元ネタにして組まれたんじゃね?
 だって、御曹司の主人公が悪と闘う仮面のダークヒーローで、彼の財力を有効活用してサポートするのが執事……これ『バットマン』やん。

 出落ち感満載のサソリオーグに、『刀語錆白兵の影を見た(笑)。
 まさか長澤さんをああ使うとは……。『ウルトラマン』での巨大化と言い、ネタキャラにされてるなあ。

 オーグになるのは変人?
 という、本郷とルリ子の会話が笑えました。
 オーグに個性を与える、というのは旧作の第一クール、所謂“旧本郷編”の姿勢を受けてのものと思われます。
 旧作第一クールに登場した怪人たち十一人中の実に七人が、改造前のものと思われる個性を持っています。この傾向は、一文字に交替した第二クールでも少しだけ受け継がれました。例えば、魔人サボテグロンは強い出世欲・名誉欲を持っていたし、地獄サンダーは超絶怖い上官(ゾル大佐)が着任すると聞いて頭抱えて呻いてた。

 ハチオーグも意外でした。ああ来るとはね。
 にしても、なんで武士道なん? 教えて貯杉先生。

 敵として登場した一文字隼人は、萬画版『仮面ライダー』の一文字よりは、むしろ特撮版『キカイダー』のハカイダー・サブローだと感じます。
 一方、バッタオーグ群生相は、ズラリとバイクで並ぶ様子とかマシンガンで攻撃してくるところとか、ショッカーライダーではなく、まさに萬画版『仮面ライダー』の十二人の仮面ライダーそのもの(萬画版では一文字もこの中の一人。だから『シン』では群生相が十一人なんだな)。

 KKオーグは、旧作のカマキリ男と死神カメレオンを足して二で割った、ゲルショッカー仕様の怪人。
 雑魚怪人のクセに、酷いことしやがって。

 ラスボス、イチローの変身体であるチョウオーグまたは仮面ライダー第0号は。
 羽化した蝶ということからイナズマンイナズマンは繭を作るとか触角に毛があるとか明らかに蛾なんだけど、設定で蝶とされてるから仕方ない)のリスペクトかと思ったけど、そこは公式に否定されているそうなので。
 だとすると、やはりダブルタイフーンと白マフラーからV3、そして「0号」の命名から萬画版『キカイダー』のキカイダーOO、この二つのミックスと考えるのが妥当かな。イチローの名前は、まちがいなく『キカイダー01』や萬画版『キカイダー』のイチローからでしょうし。

 終始、観察者に徹していたKは、外見だけはロボット刑事そのもの(「J」は、ロボット刑事の決定名「K」の一つ前の没名)。人になりたがってたし、ね。
 初登場シーンが、ゾーフィに被ってて怖かったですよ。
「しむらー、うしろーうしろー」

 ラスト。
 一文字がマスクに“居る”本郷と語るシーン。
 あれは萬画版『仮面ライダー』から、どストレートに、まんま取ってます。
 やっぱり萬画版リスペクトが最終目的ですな。

『シン・ウルトラマン』では、旧作のスーツが二度作り直されたのを上手く設定に取り込んでましたけど。
 今作でも、旧作における本郷復帰編でのデザイン変更(所謂「新ライダー」)を巧みにストーリに取り込んでくれました。
 旧作では、線無しライダーが一週間でいきなり二本線ライダーになったことに何ら説明がなかったからなー。唯一、これに触れたのがライダースナックおまけのライダーカードに載った解説文だけだったんだよなー(曰く「からだのなかのきかいがかわった」だと)。昭和だったよなー。
(ずっと後に「本郷は強化を目的にわざと死神博士に捕まって再改造されたうえで脱出。死神博士はこの大失態で左遷」と設定されたけどね)

 立花と滝。あれはあかん。他のキャストで、やってほしかった。
 つか、そもそも公的機関のバックアップを受けるライダーって、それクウガやん。(;^_^A
 まあね。
シン・ゴジラ』より前の、つまり政治家になる前の赤坂。
『シン・ウルトラマン』より前の、つまり公安時代の神永。
 そう解釈すれば、辻褄が合わないわけでもない、か。
 いや、ここまでくれば、もう無理にでも繋げたいわ。
 ああ、もちろん「立花」も「滝」も偽名ですよ。

「ショッカーの敵、そして人類の味方」
「お見せしよう」
「ショッカーに生まれし者はショッカーに還れ」
 などなど旧石森東映特撮の名台詞も出てきて楽しいです(上二つは一文字の台詞から、三つめはプロフェッサー・ギルの台詞から)。
 明らかに、ライダーだけでなく石森ヒーロー全体を意識した映画ですね。よって、もう次なる石森作品の「シン」は無いと読みます。
 せっかくだから、残った群生相六人を前にしての決戦で「本物の力を見せてやろうぜ」と言ってほしかったな。

 ED曲は、これでいいんですよこれで。
 なんで『シン・ウルトラマン』だけ、あんな形にしたんだろうなあ。納得いかんなあ。

 最後に。
 一文字よ。
 旧作リスペクトとは言え、あのカメラは、さすがに時代錯誤だ。
 フィルムとか現像とか、どうすんだよ。