一粒万倍日 (旧暦 卯月八日、灌佛会)

 特殊詐欺の「かけ子」が海外から電話をかけているのは最近では広く知られていますが。
 少し前は、国内発信を一度、海外に送ってから日本に送りなおす、というネットで言うところの「串を通す」のに似た仕組みだったそうですね。我が家に、かかってきた詐欺電話も、それだったとのこと。

 もう数年前になりますか。
 ある日のこと、「愛知県警」から電話がかかってきまして。相手は「県警の**刑事」と名乗りました。この時点で怪しさMAXですね。
 暴を検挙したら事務所から名簿が見つかり我が家の名もあったので口座が危ない。
 という、よくあるパターンでした。
 追って金融庁から電話があるから指示に従うように言って電話は切れました。いや、天下の金融庁が個々人の口座なんていちいち管理するかよ。笑うわー。
 で、すぐに「金融庁」を名乗る輩からかかってきて、「家にある通帳をすべて集めろ」と言ってきやがりました。面倒なので「どこにしまったか判らん」と言ってやったところ、「時間がかかってもいいから探してほしい」と喰い下がる。さすがにやっとれんので探すふりして(固定電話は繋いだまま)、ケータイで市警察に通報しました。先方の判断で協力要請があり、承諾。
 で、「通帳があった」と電話に出たところ今度は「正確な残高を調べるために銀行に行ってほしい」と。「田舎だから時間がかかる」と言うと「なら、あとでかけなおす」と言って切れました。
 そうこうするうちに警察到着。通話を聴くための機器を電話機に繋いで待機。その間、通帳の残高の数字を指示される。
 ふたたび「金融庁」とやらの電話。警察の人に指示されたとおりの“残高”を言うと、「安全のために通帳とカードを預かるので封筒に入れておいて。近くまで来たら、また電話する」と。
 警察の人が用意したダミーを入れた偽の封筒とともに待機。
 で、それっきりでした。私の芝居がクサかったから警戒されたのか?

 警察の人の話ですと。
 一つの地域に電話をかけまくって、その中から金額的に美味しい家々に向かうため、最寄りの大きな駅に「受け子」たちがスタンバイしているはず。ウチが提示した金額は魅力に欠けたのだろう。すでにどこかで被害が発生しているかもしれない。
 とのことでした。

 我が家にとって幸いだった一番目は、相手が「**刑事」と名乗ったことです。「巡査長」とか「警部補」とか名乗らない時点で、怪しい臭いプンプンでしたからね。
 二番目は、“金融庁”を名乗る電話の電話番号がメチャクチャ怪しかったこと。↑にもありますとおり、実際の番号を隠すために中継点を経由しているせいだとのこと。
 三番目には、“金融庁”を名乗る輩が口にした金融庁に入っている国際的機関の名を、即座にネットで調べられたこと。実在する組織名ではあるものの、どう考えても一般市民の個人的口座をどうこうする組織じゃなかった。はっきり言えば、世界中の銀行で作る互助会みたいなもん。
 四番目には、その“金融庁”を名乗る輩が、声や口調からして、二十代……下手すると十代だということ。そうですね。大学に入りたてみたいな、ある意味で初々しい感じだったことです。そんなのが台本棒読み状態なんですから、怪しいなんてもんじゃなかった。
 五番目として、やはり警察が即座に動いてくれたことですね。まあ、防犯というよりも「受け子をとっ捕まえられるかもしれん」からでしょうけど。(;^_^A とにかく、ありがたかったですよ。

 今では手口も変わっているでしょうから、参考になるかどうか判りませんが、いくつか要点を。

 一つめ。県警の刑事を名乗る輩は「警察内部に暴のスパイがいるので、極秘裏に捜査している。スパイに知られると困るので、そちらからは絶対に県警に確認の電話をしないでほしい」と釘をさしてきました。まあ、県警に電話されたらソッコーで嘘がバレますからね。
 二つめ。敵は実在の機関名を名乗ることで信用させる。これは↑でも申しましたとおり、敵と通話しつつ、PCでネット検索をこなせば真偽は判ります。その機関の公式サイトを見れば業務は明かですから。ちなみに、最近の情報を見ますと、金融庁ではなく財務局を名乗るケースが多いようです。
 三つめ。通帳を探す間も「絶対に電話を切らないように」と言ってきました。曰く「一度切ると、同じ担当者に繋がらなくなる」ですと。要は回線を占有して、誰かに相談するのを妨害するためでしょうね。

 幸いにして、私は早くから、その県警を名乗る電話に疑いを抱くことができました。
 ただ、それでも相手が「警察」を名乗るだけで小市民はビビります。疑いつつも「万が一にも本物だったら?」という不安も、もちろんありました。こちらから市警察に電話するまで、この不安は拭えませんでしたね。
 しかも、手口は年々変化するので、どうしても情報が後追いになってしまう。PCウイルスとセキュリティ・ソフトの関係と同じですね。ですから、二度目があったとき、私が騙されずに済むという保証は一切ないわけです。怖い怖い。

 実感したのは。
 どこの電話会社であれ、固定電話での電話番号表示サービスは必須。月々の数百円をケチらないこと。
 ホント、ナンバー・ディスプレイを契約してて良かったですよ。