雛祭 (旧暦 睦月廿日、廿日正月)

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 『渡り鳥とカタツムリ 2』
  高津マコト/クランチコミックス


 待望の第二巻。
 帯の「暮らすように旅をする。」というのは素敵な言葉です。憧れます。

 なのに……。

 不思議だ。
 第一巻に比べて、この第二巻、時間の進みが早いと言うか慌ただしい。
 旅情を感ずる間もなく次から次へとコマが進んでしまう。

 なんでだろ?

 と考えるまでもありませんね。
 第一巻で、主役二人を差し置いて四段ブチ抜きしてたライダー(後ろ姿のみでしたが)。
 あの人物が新レギュラーとして加わったからです。
 ツバメの刺青、ピアスだらけの耳、金髪にピンク、バイク乗り、「俺」っ娘、出張料理人、酒に弱いうえに絡み酒、うめまよが苦手。
 いや盛りすぎでしょ。
 脳筋っぽい彼女、ナツキさんがグイグイ引っ張ってくために、余韻も何もあったもんじゃない。
 第一巻が仕事に疲れた新人社員・雲平くんの心境の変化を丁寧に描いていたこともあって、その落差が大きく出たようですね。

 今回、雲平くんは、それなりに車中泊をこなしていて。
 もちろん、つぐみさんは車中泊ベテランで。
 危なっかしい部分が、どこにもない。だから、スイスイと話が進んでいく。
 それが良いのか悪いのか。
 少なくとも、妖之佑は第二巻にて、旅の魅力を感じ辛く思いました。

 ナツキさんが料理人ということから、ひょっすとると雲平の優れた味覚にもストーリが関わって、雲平が和菓子屋を意識するようなことに、どこかでなっていくのかな。
 などとは妄想しますが。
 いちおうナツキさん、雲平に「夢中になれることを早く見つけろ」とハッパかけてますし。

 つぐみさんは、第一巻の朝香さんご夫妻に相当に影響されたんでしょうね。
 アルビレオ号が再改造されてて、その内容がパピー号の模倣で、楽しいったら♪
 さすがに、屋根ブチ抜く大改造にまでは至らなかったようですが。室内がアトリエでもあるから仕方ないよね。

“望月菓子号”の守護神「すあま」は「寿甘」からの命名と思われ。
 やっぱ雲平くん、無意識下では和菓子屋に未練ありそうやね。


 キャラ設定に文句言うのも野暮だけど、一つだけ言わせてほしい。
 ナツキさんが雲平の名前を「めんどうだから三平にしろ」と言ったことだけは、冗談であっても容認できません。いくら無神経で大雑把な性格だとしても、失礼にも程がある。つか、そんなガサツで料理人が務まるんですかね? そこらに転がってる不潔で威張るばかりの味音痴な料理人ってんなら、アリかもだけど。
 ナツキさんを悪い人、嫌みなキャラとして描く意図がないのなら、あの台詞を言わせるべきではありませんでした。
 名前というのは、その人の根幹にもかかわるものです。例え本人が嫌な名前だと自分で気にしていても、それを他人がバカにしてはならない性質のものです。
 ジェリド・メサは、その御法度を破ってしまったがために、そこまでの順風満帆なエリート出世コースから一気に転落していった。富野監督は、よく判っておられたということですよ。
 この作者さん、ここだけは迂闊でした。編集さんも、なんでNG出さなかったのかな? 当人たちも日常、悪意なく人の名前を茶化してるのかな? だとすると、ひくわー。


 ……気を取りなおしまして。
 例によってネットを介して旅を辿ってみます。


 冒頭、雲平くんが買い物してたのは、道の駅「川口・あんぎょう」。
 川口緑化センター樹里安に併設されているため、道の駅には珍しく園芸販売がある。
 オリジナルの「樹里安アイス」なるものがウリのようで、気になります。
 JA農産物直売所が隣接しているので、雲平くん寝起きの背景にあった朝市は、これかもしれない。

 雲平が手打ちうどんと「ユニコーン白玉のゆめかわレインボーあんみつ」を食べてて、財布を忘れてったレトロな店は「浅見茶屋」。
 朝の下調べで「こんな山の中のスゲーところに」と雲平が言ってたとおり、国道299号線からかなり外れた山奥。本物の古民家を使っているそうで。これは行きたくなる。
 バスサンドが山道歩いてヘトヘトになった末に辿り着いて、伊達さんが「どうしてもですか!」と叫んでも絵になりそうだ♪

 雲平がイモリュック……もとい、黒いライダーに襲撃(笑)されて濃厚チーズケーキタルトを略奪されたのは、道の駅「果樹公園 あしがくぼ」。
「みそポテト」は秩父の名物で、これだけでは場所の特定は無理だった。上毛の焼きまんじゅうみたいな立ち位置なんだろうね。

 つぐみさんと雲平が待ち合わせしていて、ナツキも合流したのは「道の駅こすげ」。
 円い輪っか状の屋根を持つ物産館が特徴的。
 つか、川口から飯能を通り国道をそれて秩父の山奥を抜けて山梨の小菅村? 雲平、どんだけ回り道してんだよ。そりゃ時間かかるわ。

 深城ダム。
 ダムの絵は軽く流されたね。ダムだけに?
 ダム・マニアが怒るぞ。

 三人がサイクリストの一団を眺めていた場所、「ハピハピドリンクショップ」の看板を掲げる自販機の群れ。
 名前こそ変えてあるものの、山梨のあちこちに実在するわ、あれ。

 ニキシー管表示の自販機なんて見たことねーぞ。
 見てみたいぞ。
 つか、ニキシー管が欲しいぞ(前に通販を調べたことあるけど、「5」の表示を「2」のエレメント逆立ちで済ます管ばっかで萎えた)。
 この自販機の並ぶ 24時間店にしろ、衣料品店にしろ、コインランドリーにしろ、モデルは実在しそうだけど、さすがに特定は地元でない限り難しいな。

万治の石仏」は、第一巻に出てたカッパみたくネタ系かと思いきや、歴史ある石佛だそうで。
 そう判ってからあらためて見ると、木喰佛や円空佛みたいな素朴な魅力を感じるように。現金なものです。(;^_^A
 ちなみに、石佛は阿弥陀如来なのだそうです。南無阿弥陀佛。

 諏訪湖近くの「千人風呂」は、あとがきにあるとおり「片倉館」。国指定重要文化財とのこと。
 重文なのに入浴できる天然温泉とは。それは興味あるな。

 寅年と申年に行われる御柱祭で有名な、二社四宮で構成される諏訪大社
 ご存知のとおり、國譲りの闘いで敗北して落ち延びた建御名方神が辿り着いて引きこもった場所。
 上社本宮に建御名方神が、下社の秋宮と春宮に妻である八坂刀売神が、おられる(※ 上社前宮だけは、そもそもは、神道より古い土着信仰に関わるらしい。なので、おそらく前宮こそが諏訪大社の真の姿だと思われ)。
 諏訪湖の名物である厳冬の「御神渡り」は、上社に住む建御名方神が、凍った湖を歩いて妻の家である下社を訪問するときの足音・足跡なんだそうな。
 ところが、ここで他所の者にとってややこしいのが。
 諏訪湖をはさんで、下社が北側に、上社が南側にあるんだな。だから地図で見ると下から上に「下がる」ように、上から下に「上がる」ように見えてしまう。南のほうが北より格上ってのが、感覚的に混乱するんだよね。何か隠れた理由がありそうで……前宮のことと併せて考えても実に興味深い。


 第三巻は、また半年後かな。
 せっかくここまで来たんだし、上社にも行くよね?
 それともスルーして、そのまま北上、日本海