(旧暦 文月十九日)

 さて、ここからは本の内容から外れます。

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 ↑の写真は角川文庫『河童の三平 中』に入っている、貸本第4集の表紙絵です。文庫下巻のカバー絵にも使われています。
 三平が後ろから手をあてて覗き込んでいるのは狸ですが、レギュラーの悪戯者たぬきでないのは明らか。

 実は妖之佑が長年、探しているものなのです。
 と言うより妖之佑の自室に、この絵の立体物が鎮座しておられます。
 焼き物なんですが、気に入って買ったものの、由来などなどが判らず悶々としていたのです(骨董市の人も「知らない」としか)。
 つーか、そもそも「守鶴和尚」だと思って買ったのが、実は違ってるっぽいので、その後が悶々という展開ですね。(;^_^A

 守鶴和尚。
 分福茶釜で有名な群馬の茂林寺
 そこで住職七代に渡って仕えていたのが、ある日うたた寝をしていて小坊主にうっかり狸の正体を見られたため寺を辞したという伝説の名僧(分福茶釜は守鶴の私物で、これを元ネタにしたのが茶釜に化けた狸の御伽話)。
 てっきり、この守鶴を模った置物だと思っていたのが違ったわけです。
 ええ、かつて赤城山に行くついでに、これを確かめるため足を伸ばして茂林寺に参拝しましたよ。で、境内に同じデザインのものなど何一つなく。近くの土産物屋にも文福茶釜(茶釜から頭や手足を出した狸)の形のしかない。
 完全に妖之佑の読み違いでした。orz

『三平』では、友だちのたぬきとは別の巨大狸(名前を貸本版では「刑部狸」、少年サンデー版では「地ぞうダヌキ」)が出てきて大暴れするのですが、こいつはチャンチャンコを羽織っているだけです。褌すらしておらずブ~ラブラ露出してます(笑)。おまけに、このエピソードがあるのは貸本第5集。第4集でなく第5集です。
 つまり本編と関係ない絵をたぶんノリと気分だけで表紙に使ったわけですね、水木翁は。
 若かりし水木サンは、この置物の実物か写真をどこかで見たに違いないのです。妖之佑んチにあるのは、それの仲間、つまり同じ工房で作られた物である可能性が高い。何せ、デザインが一致してますから。
 同じデザインでも微妙に違うのは何度か見かけたことがあります。ネットでも、たまーに見ます。なのでモチーフとしては定番だったのでしょう。とにかく何か元ネタがあったはずなんですよね。

ゲゲゲの鬼太郎』の「妖怪獣」で日本を征服した八百八狸の大将である隠神刑部(刑部狸)の姿が、この置物そのままでした。初登場のコマは『三平』の表紙まんまの軽めの“シャフ度”。もちろん、その後では立ったり歩いたりしてますけどね。
 そもそも、隠神刑部が僧侶の格好をするのは、水木作品オリジナルの要素です。伝説の隠神刑部がお坊さんという記述はどこにもありません。ついでに言えば、ジブリ作品『平成狸合戦ぽんぽこ』の隠神刑部も僧侶姿とは異なる着衣でした。
 そしてまた、境港の水木しげるロードにある隠神刑部狸の像はというと、旅の僧の姿で首に下げた鉦を叩いている寒念佛スタイル。実はこれ『鬼太郎』の「妖怪あしまがり」なんですよ困ったことに。
 あしまがりは讃岐國の妖怪で、通行人の足下にまとわりついて邪魔をする、すねこすりの同類です。そもそも姿形はありませんが、讃岐や阿波では妖怪現象を狸の仕業とするので、水木翁の描いた「あしまがり」の外見は理に適ってはいるのです。

 上州の守鶴和尚と分福茶釜、伊予國松山の隠神刑部、そして木更津は証城寺の狸囃子、これら三つが日本三大狸なのだそうで。
 他にも淡路島の芝右衛門、佐渡島の団三郎などなど大物の狸が全国にいるものの、置物の正体とは違うようで。

 ということで調べれば調べるほど判らなくなります。
 調べた中で、安芸の宮島に在る大聖院の観音堂に「狸僧」という像がありまして、これが似てるっちゃ似てる。でも違う。
 この狸僧は、あんまり古そうじゃないんですよね。なので、これは↑のルーツではなく、むしろ↑のを元にした新しい物かもしれない。知らんけど。

 どなたか、ご存じであればお教え願いたく。
 m(_ _)m