小つち (旧暦 水無月廿八日、荒神祭)

ダンジョン飯』第5巻で本性を垣間見せたエセさわやかくん・カブルー。
 彼の持つ危険性について少し深読みしてみました。

 以下、第5巻のネタバレにも触れますので。


 第2、3巻を見る限り、完全にネコ被ってますね(あれ? だから「カブルー」なの?)。完璧さわやかなイケメン迷宮ビギナー。宝虫に全滅とか、ライオスたちに数段あるいは一桁劣る低レベルさ。
 ところがぎっちょん。第5巻で見せたカブルーの戦闘力は何ぞ? 死体回収屋の仕掛けた幻術を見破り一人ずつ撃破した、その手際。そして取り引きを持ちかけた残りに対する奇襲。↑のビギナーぶりが嘘のような高レベルでしょ。
 一つひとつ見ていこう。一人目、肘へ逆関節気味に一撃と同時に顎を砕く。二人目の銛をかわしざま、右顎か首にパンチ一発。一団のボスの喉を銛で突きつつ腰の短剣を奪う。その短剣で四人目、五人目とも首をかっ切った模様。それだけのことをやっておいての台詞が、人体の構造が皆同じだから「やっぱり人間は楽でいいな」ときたもんだ。
 カブルーにとって殺人は「楽」なこと。つまり、冒険者になる前の経歴が想像できる。兵士? 傭兵? いや何か違うな。
 シュローに、ロクな情報も持っていないクセに「お力になれるかもしれません」と取り入る、その度胸。兵士の素養とは違うね。人をほぼ一撃で無力化する動きの良さ、表情と言葉で初対面の相手ですら懐に飛び込む人心掌握術、こーゆースキル持ちを知ってるぞ。いや、もちろん創作物の中でだけど、知ってるぞ。ほら、某3年E組の生徒たちだよ、その担任だよ。
 そう考えつつ、もういっぺん読みなおしてみよう。死体回収屋どもを殺ったあと、シーサーペントに襲われてるシーンで、カブルーはどうしてた? 「いやどこだよ頸動脈」って困ってたろ。
 あー。こいつ元殺し屋に違いないね。それも、かなり腕の立つ殺し屋。宝虫にすら全滅したのは、単に魔物に慣れていないから。シーサーペントの頸動脈が判らず攻めあぐねてたのと同種の未熟。しかし対人殺傷能力は超一流。しかも、人の命を何とも思っていない。

 つまり。
 何らかのきっかけで殺し屋稼業に見切りをつけ、冒険者として再始動すべく島にやって来た。
 きっかけとは、たぶん自分の人生を振り返らざるを得なくなる出来事があって、このままではダメだとか思ったあたりかな。某タコ生命体みたいなね。
 で心機一転、冒険者になって迷宮を攻略して島民を救う。それが叶えば、殺し屋時代の自分も肯定できる。殺し屋スキルがあればこその攻略だから、と言い訳できる。自分は終始一貫して正義だと胸を張れる。
 だからなんだろーね、裏のないライオスが許せないのは。ライオスの善意が肯定されてしまうと、自分の正義が否定される。それは受け入れられない。だから、ライオスこそが悪でなければならない。と。
 おーおー、歪んでるのー。

 では、そんなカブルーを仲間は、どう見ているのか?
 ↑の「人間は楽でいい」という殺しの台詞にせよ、トーデン兄妹「の化けの皮が剥がれる瞬間を待っていた」にせよ、隠さず口にしていることからすると、彼の経歴と歪んだ性格は、仲間には周知されていると思われ。
 それと、死体回収屋たちを殺ったときの仲間の態度もね、イケイケだったでしょ。カブルーが最後の一人を屠るとき、その断末魔を平然と聞いていたり。死体の後始末(証拠隠滅)も淡々とこなしてたり。こりゃ、残り五人も手慣れてるな。ひょっとすると六人全員が見た目とは裏腹に元は裏社会にいたのかもしれない。

 うわっ、闇パーティーだわ。怖えぇ。
 逃げろー!