鶴岡化けものまつり (旧暦 卯月廿一日)

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 『幸せカナコの殺し屋生活』1
  若林稔弥/星海社コミックス


 とある社畜さんは過労死ののち、三百年にも渡る悠々自適な理想的生活を手に入れましたが。

 こちらの社畜さんは、手遅れになる前に、ちゃんと逃げた。そして転職した。という大正解の選択。
 転職先をまちがえた以外はな(笑)。

 引きこもり不登校ネトゲから知識を得、人の目が怖くて自然と気配を消すスキルを会得し、毎日毎日終電に乗れず深夜を走って帰宅して培われた体力。
 気づけばレベルMAXならぬ、その道の天才になっていた主人公カナコさん。
 社長さんから熱く口説かれては、そりゃ嬉しいですよね。生まれて初めて人から必要とされたんですから。

 まあ言ってもギャグ漫画ですから♪

 たった一ヶ月で、そこそこできるプロの殺し屋になってしまうカナコさんが、なにげに怖いです。
 一人目を殺ってボーダーを踏み越えたのでしょうか、二度目以降は標的の命が軽いこと軽いこと。ちょいとイラついただけで殺意が実行に移るあたり、マジで怖いですカナコさん。

 まあ言ってもギャグ漫画ですから♪

 殺し屋と言いながら、モンスター・クレーマーだのヤリチン大学生だの万引き主婦だの痴漢リーマンだのと、標的の悪人度がセコいったら。
 日常で誰でも遭遇しそうな迷惑人間をカナコさんが殺るという、まさに日常に潜む闇。

 そんな闇を感じさせない軽い作風が素敵ですね。
 普通なら、万引き主婦にも子供がいるだろうし、痴漢リーマンにも奥さんや子供がいるだろうし、そんな遺族は後をどう暮らすのか、お父さんお母さん女房旦那が実は万引きだの痴漢だのとバレた遺族に対する世間のバッシングなども想像すると、カナコさんの罪は重いんですよね実は。
 でも、それを思わせない工夫として、標的には瞳を描かない。その結果、標的は人ではない“人でなし”“人間もどき”と読者が無意識に思ってしまう。なので標的の背後を気にしなくていいワケ。

 まあ言ってもギャグ漫画ですから♪

 ストーリと関係ないところでの、カナコさんの動物使いぶりが、また楽しいです♪
「ムリムリムリムリカタツムリ」なんて、ほんの序の口ですよね。
 ロップイヤーは両手で拒絶の意志を示しますし、オオイヌワシはちゃんと当たり屋を睨んでますし。
 しくじリスに至っては、盗撮スマホをカナコさんより先に捕捉、カナコさんの発砲と同時に散開する始末(笑)。
 おったまゲンゴロウや、ぶっころスフィンクスインパクトも素晴らしいです。

 まあ言ってもギャグ漫画ですから♪

 暴のチンピラと区別つかない、いかにもな外見の刑事に目を付けられて、いよいよ物語が動きそうなところでの二巻に続くは、やられますね。
 つーか、そもそも社長の入社テストがリスキーすぎましたね。あれじゃ、わざわざ紐付けするようなものです。
 刑事によって徐々にカナコさんの裏の顔が剥がされていくのか。はたまた、カナコさんに一目惚れした刑事が逆にカナコさん陣営に鞍替えするのか。予断を許しません。

 まあ言ってもギャグ漫画ですから♪

 個人的にはですね。物語の最後の最後。
 逮捕されて「オロオロオロオロヤマタノオロチ」。
 裁判にかけられて「マジマジマジマジアルマジロ」。
 そして処刑台で「ウソウソウソウソコツメカワウソ」。
 で暗転。
 なんて結末、どうでしょ。

 書店で探しやすいカバー絵もすばらっですね。
 二巻のカバー絵、どうするんだろ?