大雪 (旧暦 神無月十八日)

夢幻魔実也は実は三人おられるのである」

 とは確か『夢幻紳士 怪奇篇』単行本の、あとがきにあったヨウスケさんのお言葉だったと記憶しています(例によって本の山に埋もれてしまい発掘しての確認が困難なのだあ……)。
 しかしながら、その後もマーくんは増殖し続けており、不肖・妖之佑の個人的判断では、これまでのところ四人+1+αだと思われるのです。

 順を追ってみましょう。

 まずはヨウスケさんの言われる「三人」について。
 これは明々白々でありまして。
 一人目はマンガ少年版、二人目は冒険活劇篇、三人目は怪奇篇、となります。簡単です。

 一人目。
 マンガ少年版のマーくんは、自宅である夢幻邸にて少年探偵を営む、少しだけテレパシーが使える程度の能力者。
 大柄な召使いのアルカードが常に控えており、どうやら彼は探偵業務の肉体労働担当を兼務しているらしい気配がある(もがく犯人を無表情のまま静かに抑えてたりするので)。
「ママ」も夢幻邸にいる様子だが、登場は無い。
 そんなマーくんに猟奇事件の調査協力を依頼するのが、警視庁猟奇課の江戸川警部だが、警部はマーくんのことを良く思ってはいない。むしろ嫌悪しているので、マーくんを頼るというよりは利用してやろうという意識。マーくんによる斜め上すぎる推理を侮蔑を込めてバカバカしいと笑い飛ばし、そのタイミングでマーくんが「実はもう捕まえてあるのです」と落とすのがパターン。
 と、ここまでは良いのですが。
 そも、朝日ソノラマの月刊『マンガ少年』にて、『ライヤー教授の午後』『宵闇通りのブン』に続く、ヨウスケさんの連載モノ第三弾(『教授』より前は、ずっと一話完結短編の連載だった。短編、連続モノ含めてマンガ少年連載分は「ヨウスケの奇妙な世界」という一つの作品群)として始まったのが『夢幻紳士』であり、この主人公こそが初代・夢幻魔実也です。
 ところがぎっちょん。ノリノリで快調に展開する連載が突如として中断されるに至ります。理由はマンガ少年の休刊。結果、『夢幻紳士』は全四話という結末に……。
 この直後、ソノラマは月刊『DUO』を新規に刊行、ヨウスケさんも引き続き連載を持ちますが、おそらくは編集方針なのでしょう、『夢幻紳士』継続とはならず、『真琴♡グッドバイ』という怪奇のカケラ皆無なドタバタラブコメギャグ作品が開始されたのでした。
 その後のマーくんは、それぞれ別の雑誌にて「案山子亭」と「亜里子の館」という短編二本の形で単発登場、夢幻紳士の住所(掲載誌)不定時代となります。
「案山子亭」のマーくんは、異国を旅していたり、ジュニア・コルトを扱ったりと、冒険活劇篇のマーくんに近い要素を持ちます。にも関わらず、相手が怪奇系なのでマンガ少年版の要素も継続。個人的には、マンガ少年版と冒険活劇篇を仲介するポジションではないかと。実は「夢幻魔実也」とは名乗っておらず、宿の主に「中国人か?」と問われ日本人であると堂々宣言したことと、宿帳に記した名前が「Mamiya Mugen」であることのみ。
「亜里子の館」は、何となくですが、次の冒険活劇篇に組み入れたほうがいいんじゃないかと思うのです。あくまでも個人的にですが。
 さらに、マンガ少年版の最初の単行本に描き下ろされて以降、単行本の仕様を変えても必ず収録される『絵物語 夢幻紳士・遊鬼塔の怪人』は、老博士が登場することから、むしろ冒険活劇篇に入れるべきだと。
 要するに、ヨウスケさんご本人も混乱しているのです、たぶん。

 二人目。
 後になり『夢幻紳士 冒険活劇篇』と銘打たれた連載作品(唯一のOVA化作品が、これ)の主人公、二代目・夢幻魔実也
 実は第一話「脳交換クラブ」のみ単発掲載で、しかも猟奇な内容はマンガ少年版そのもの。しかしながら、単行本収録では「脳交換クラブ」は必ず冒険活劇篇に分類されます。
 理由としては三つ考えられます。
 一つは、マーくんの宿敵(?)となる老博士の存在。
 二つに、マーくんの女装♪
 そして三つめ、ジュニア・コルトの使用。
 すぐに“空気”となった老博士はともかく(苦笑)、マンガ少年版以外において、女装とコルトは活発な少年探偵マーくんの十八番ですからね(爆)。
 第二話以降、徳間書店の月刊『リュウ』→月刊『キャプテン』にての長期連載となりました。
 マーくんを取り巻くキャラたちは。マンガ少年版に引き続き、アルカードと江戸川警部。新規に、アッコ、マーくんのご両親と叔母、そして老博士。
 当初、マーくんは夢幻邸で探偵依頼を受けていましたし、猟奇事件を起こす老博士のおかげもあり、マンガ少年時代の空気を引き継いでいたのですが、じきに舞台の時代背景を受けての軍国主義社会での陰謀物語に変化していきました。「冒険活劇」と銘打たれた原因ですね。連載開始後すぐに、マーくんは夢幻邸を出て帝都の繁華街に新たに探偵事務所を開きますし。
 マンガ少年版では不明確だったアルカードの実力は、マーくんの命令で表情が鬼のように変わり怪力を発揮するように。トランシルバニア出身とも明記されました。とは言え、賊を返り討ちにした結果、自分も入院するくらいには普通の人です。
 また江戸川警部は、マーくんに好意的な姿勢へと変化しています。何があったのか知らんけど。
 そんなこんなで実のところ、マンガ少年版と冒険活劇篇は世界線が繋がっているとも言えるのですよ。
 ただし、マーくんはテレパシー能力を使っていません。使う武器はコルト(とアルカード)のみ。ここは冒険活劇篇で一貫していましたね。
 そして新規キャラのアッコこと福音温子。冒険活劇篇のヒロインであることは誰も否定できません。彼女の登場によりマーくんの性格が歳相応の男の子になりましたし、作風が活劇に切り替わったとも思います。
 さらにマーくんのご両親。父親は当初、自分の息子すら切り捨てる冷酷非道な犯罪者……だったのが後にはただのボケ担当おっさんに♪ 一方、母親は天然そのもの。
 そして叔母の猫。ヨウスケさんの定番キャラとして「夢幻魔実也」と並ぶのが「猫夫人」であり、複数タイトルに跨がって登場する、ヨウスケさんお気に入りと思われる悪女ですね。こいつも当初は平気でマーくんに毒とか盛るんだけど、どんどんギャグ化してったんだよなあ。
 ということで、冒険活劇篇は、最初期の猟奇系・怪奇系、前期の陰謀・活劇系、そして中後期のドタバタギャグという三つに分けられると思うのでした。中後期ではマーくんもアッコも、某アラレちゃんみたく二頭身になりましたし、↑でも書いたようにマーくんの父親は凶悪キャラからダルマ体型のアホ面おっさんに変わりました。
 さらに重ねて言うなら、最初期だけはマンガ少年版とリンクあるいは交錯している、とも。
 ちなみに、徳間書店アニメージュ・コミックス『夢幻紳士1 冒険編』の冒頭に収録された(と思う。内容、サブタイトルともども記憶が曖昧なので確認したいけど例によって……)読み切り短編「人形地獄」(※ 「人形地獄」は少年マーくん、青年魔実也、実写映画の三作品があるので要注意)では、「久々のコンビ復活じゃないですか」と茶化すマーくんに対して江戸川警部が「やめてくれ」と嫌がるシーンがあったり、マーくんが能力を使うあたり、マンガ少年版から直結している描写が見られます。作風もマンガ少年版に近いです。これは、むしろマンガ少年版の本に入れるべきだったのではないかと個人的には思うのです。
 きっちり最終話&エピローグを描いて明確に完結させたのは、三つの中では、この冒険活劇篇のみ。

 三人目。
 冒険活劇篇と並行して連載されていた怪奇篇。サブタイトルのとおり、猟奇・怪奇な血まみれ作品です。
 主人公である三代目・夢幻魔実也は少年ではなく青年。横溝教授という親しい師がいるので大学生と思われ。酒も莨も女も嗜む、言ってしまえばイケメンでタラシ。確か、ヨウスケさんは大嫌いな人物像と言っておられたような?
 マンガ少年版と同じくテレパシーや催眠術の能力があり、その力は少年マーくんより強いと考えられます。
 ギャグ要素皆無で終始シリアスなのは、冒険活劇篇がドタバタギャグ化していったことの裏返しではないかと。良く言えば、描き分けが徹底していた。
 話数としては、マンガ少年版より多く、冒険活劇篇よりかなり少ない。
 この怪奇篇あたりから、観念劇っぽくもなっていくんだよなあ、ヨウスケ作品は。
 なお、朝日ソノラマの隔月刊『ネムキ』に連載された『夢幻紳士 夢幻外伝篇』の夢幻魔実也を、怪奇編の魔実也とは別人とする解釈が主流のようですが。その違いが、魔実也の下宿が描かれている、下宿屋の娘がヒロインになりそこなったポジションである、その娘のおかげで魔実也が少し人間臭い、という程度なので、個人的には同一人物と思います。『案山子亭』のマーくんがマンガ少年連載のマーくんと同一人物であるのなら、外伝篇の魔実也も怪奇篇と同一人物だと言えるはずです。魔実也の能力は増大してますけどね。たぶん大学卒業後も成長したからでしょ(笑)。

 さて。
 三人をおさらいしましたが。
 妖之佑の考えでは、零人目がいると思うのですよね。
 それは、マンガ少年に掲載された短編『仮面少年』という鬱展開作品の主人公です。
 外見は、マンガ少年版のマーくんが四、五年くらい成長した姿です。そして名前は「麻実也」(屋敷に「夢幻」の表札があったように思うんだけどなあ、記憶が曖昧だなあ、やっぱ部屋の大掃除と片付けしないとだなあ)。
 探偵でも能力者でもなく、普通の高校生です。ただし、母親ともども、かなりのサイコパス……。
 これを、+αとして挙げました。
 言っちまうと、『悪徳学園』の犬神明みたいなもんだと思ってるんだわオイラは。

 さてさて。
 お次は四人目。
 これは“住所”を早川書房に移しての作品群、『夢幻紳士 幻想篇』『夢幻紳士 逢魔篇』『夢幻紳士 迷宮篇』『夢幻紳士 夢幻童話篇』の四つに登場する夢幻魔実也
 幻想篇、逢魔篇、迷宮篇をもって三部作とされているのですが、夢幻童話篇も三部作とリンクしているので、四つまとめて問題ないと考えます。
 この夢幻魔実也は、怪奇篇・外伝篇の魔実也に似ているのですが、実のところ全くの別人です。
 そもそも、この四作品が時空を超えて3D的に相互リンクしているかのような、一読では理解できない程に複雑に絡み合った作品群であり、故に、そこに登場する魔実也が生身の人間であるはずがありません。と言いますか、一部では明確に「本体の影」であるとされていますし。
 もはや、夢幻魔実也は観念的存在へと昇華している。それが、この四作品。

 さてさてさて。
 +1、とした魔実也……と言うか魔実子さん。
『魔実子さんが許さない』の主人公あるいは狂言回しが魔実子さんです。苗字は不明。外見は、まさに青年魔実也の女体化そのもの(笑)。
 明記されていませんが、読めば読むほどに、幻想篇以降の魔実也が状況を鑑みて性転換したと思えてなりません。
 時空を超えた存在であり、実態があるのかないのか、というあたり、よく似ています。意外と世話焼きさんですし、お二人とも。
 とは言え、魔実子さんは女性なので、おそらく、いや確実に青年魔実也とは相性最悪だと思いますね(笑)。両者が顔合わせしたら、もはやバチバチでしょう(爆)。
 未読の『拝む女』という本に魔実子さんらしいキャラが登場しているとのことなので、読んでみたいのです。でも古本がバカ高くて買えんのです(電子だけにせず、さっさと重版せいや KADOKAWA !)。

 さてさてさてさて。
 そんなこんなの中。
 ついに五人目が登場しました。


 
『夢幻紳士 猟奇篇』
 高橋葉介/ハヤカワ・コミックス


 空気感としては、冒険活劇篇にかなり近いです。
 帝都に事務所を構える少年探偵・夢幻魔実也。召使いのアルカードをサポートに、東奔西走の大活躍。
 というあたり、よく似ています。
 しかしながら、アルカードの顔がマンガ少年版とも冒険活劇篇とも違いすぎます。別世界線でも同じキャラは同じ顔が基本なのに、なんで? と思ってたら、途中でその理由が判りました。
 マーくんを取り巻くアルカード以外の人間は、すべて名前からして別人だらけ。
 完全に別世界でした。別世界線ではなく別世界。
 なので五代目・夢幻魔実也と断定できます。
 一冊で完結したので、六人目とか出てくるかもしれませんね。


 余談。
夢幻魔実也」「猫夫人」に続いての、ヨウスケキャラ No.3 は、仕事運と男運の無さで定評のある「那由子」に違いありません。
 短編『腸詰工場の少女』にて初登場で主演、それ以降の各作品にもあれこれと客演。
 苗字が無かったり、三島姓だったり、月島姓だったり、本間姓だったり、夢幻姓だったりですが基本、悲劇担当の薄幸少女。中で最も幸運マシなのは、冒険活劇篇にて『腸詰工場』のセルフパロをやったエピソードの那由子だと思います。
『猟奇篇』でも、しっかり“活躍”しておられます♪