(旧暦 皐月六日)

 通常航法で無人機が火星まで行くのにかかる時間は、乱暴な平均値で半年。光速だと十数分。
 仮にヴェイガンが亜光速航法を使えるとしても、有人船体の質量に対する加速と減速に要する分を加味すれば数週間はかかるでしょう。亜光速でないのなら、まちがいなく数ヶ月はかかるはず(なお、ガンダム世界において超光速航法は存在しえません。存在すれば物語の世界観が激変します)。
 しかも、地球と火星との距離は互いの位置関係により最大で七倍の差が生じます。火星探査機の打ち上げに時期が限られるのは、燃料と時間を少なくすます目的で再接近のタイミングを狙い撃ちするため。つまり、少なくとも通常航法では、お気軽に「ちょっと火星行ってくる」とはならないのです。
 つか、そんなにお気軽なご近所だったら、火星への棄民政策自体、もっと早くから地球社会内に露見してそうですし。
 SF要素の濃いガンダム作品を担当する脚本家には、最低限の理科のお勉強はしてもらわないと困る……と言うか笑います。

 火星の悲惨な生活環境を知らしめるなら、キオではなく若きアセムこそが適任だったでしょう。
 アセム編ラストのアセムとゼハートの握手に、何ら意味がなくなってしまってる……。

 それにしても、大衆は貧しい暮らしを送り風土病で苦しんでもいるというのに。イゼルカント様は豪華な住まいに豪華なお食事……いつの世もどこの国も、トップってこんなものですね。国民を思うなら、もう少し富の分配をするべきかと(三千年も続いた古代エジプトのファラオ政権では、庶民もそれなりに豊かだったというのは昨夜の『NHKスペシャル』でもやってましたっけ)。
 判らんのは、イゼルカント様の言った「愛することをやめた」という部分。つまり、ヴェイガン国民はその悲惨な人生に絶望して感情が希薄になったと言いたいのでしょう。
 ですが、街にはあんなにも感情豊かな連中がいて、生きることに貪欲な追いはぎクンまでいる。そもそもヴェイガン兵士たちは皆、感情豊かですよね。中には激高型までいる始末。
 ヴェイガン国民が感情貧しくなってしまったと言うのなら、フリット編ラストの、あの人形のような兵士たちを、アセム編以降ももっと出すべきだったでしょう。

 まー、身も蓋もなく言ってしまいますとね。
 あれだけの大艦隊を持つくらいなら、コロニー船団を編成して火星圏から離れればいいと思う。そうすれば「マーズ・レイ」とやらの脅威からも解放されます。地球奪還を目指すにしても、火星圏に留まる理由が理解できない。
 過去にはザビ家復興を目論む連中が、一つの小都市国家として小惑星帯で数年を送った実例もあるわけですし。それより数世紀も後の世界なら技術的に楽勝ですよね。



『AGE』は観ていて毎回、本当に勉強になります。
 やってはならない事を実例として、いろいろと見せてくれるわけですからね。
 日野社長は反面教師としては、かなり優秀な部類と言えるでしょう。