朔、煤払い (旧暦 霜月朔日)

ゴジラ-1.0』


 これ、できるなら、太平洋戦争の悲惨な実態を描いたものを読むか観るかしてからのほうが、より世界観が判りやすいと思います。
 ただし、「滅私奉公」とか「一億火の玉」とか「盡忠報国」とかほざき「国民は国家のため」と考える連中による戦争美化モノは絶対ダメです。
 赤紙で酷い目に遭った人たちの記録でないと。
 例えば水木しげるさんの自伝など、かなり良いかと思います。



 とある敗残兵が自分自身を許すまで。
 それをゴジラという大災害を通して描いた。
 乱暴に言ってしまえば、そんな映画ではあります。なので戦争映画の一種であるとも言えます。
「日本は命を軽んずる」「戦死者の九割が餓死や病死」とは、よくぞ言ってくださった。

 太平洋戦争の爪痕を描いたゴジラ映画は、第一作の他は、2001年の所謂『GMK』くらいで。
 で、一作目はともかく、『GMK』は、その設定が複雑怪奇で、頭の悪い自分には制作の意図が理解できなかった。

 もちろん個人的な意見ですが。
 ゴジラ・シリーズで、第一作目、『シン』、2014年の米映画、これら三つだけが骨のある映画、一本筋の通った映画として評価できると思っています。
 今回、そこに一つ加わりました。『-1.0』は歴代の名作に並ぶ力作です。
(補足しますけど、『三大怪獣』とか『モスラ対』とかも面白いんですよ。でも、それは娯楽作品としてのみであり、骨太さは皆無だと言える)
(も一つ補足するけど、平成の所謂“大森ゴジラ”作品群は一切、評価に値しないと、『-1.0』のおかげで確信できました。大森作品は映画としてはともかく、ゴジラの名を継承する作品としては全然ダメ。大金を無駄遣いした二次創作と言うかパチモンですあれらは。ま、1998年の米産イグアナよりは遙かに桁違いにマシですけどね)

 そして、さらに。
『-1.0』は 2014年米版を越えましたね、まちがいなく。
 敗戦と復興を知らないアメリカ人の文化に、この映画が伝わるのか?
 と思いましたが、北米での興行成績も絶好調だそうで。あるいは、9.11 を経験しているからかもしれませんね。それ以前だったら、受け入れられなかったかもな。

『-1.0』を引き合いに『シン』をディスる意見をチラホラ目にしますが。
 そもそも、終戦直後のすべてを失った貧乏日本と、最先端科学に満たされた“現代贅沢日本”と、舞台設定がまったく違うのですから、比較は無意味でしょう。
 状況が違えば展開も違ってあたりまえです。

 それにしても、メカオタミリオタ殺しなブツが多いな♪

 動く陸王、初めて見ましたよ。
 撮影とは言え、あれを運転できるだなんて俳優さんは役得だよなあ。クソが(笑)。

 艦船のシーンも素晴らしい。
 我々は、ときとして忘れてしまうんですよね。ゴジラが基本的には海棲生物であることを。
 それを、この海上シーンの数々が徹底的に頭に叩き込んでくれる。

 切り札が震電というのも、マニアックなことを。
 これ確か、あの松本零士さんですら戦場まんがシリーズで使わなかったはずで。
 つーか、私はあれの名称が「震電」だということすら初めて知りました。はい無知ですともはい。

 典子のうなじと、ラストの1シーンは蛇足だと思いました。
 典子については、あの隻眼な包帯だけでも充分だったんじゃないかな。紙一重の生還であり、実は深刻なほど重症なのはバカでも判る。何しろ放射能汚染されたエリアから生還したのだから(これで、あの三人は本当の家族になれるけど、でもそんな幸せも、おそらくは長く続かない……)。
 ラストは本当に蛇足。近年のクリエイターによく見られる典型的な悪癖です。

 最終的に、特攻を美化しなかったことは称賛に値します。
 あの『ガンダム』でさえ、リュウの特攻を批判的にまでは描きませんでしたからね。

 最後に一言。
 橘さん、やってくれると思ってました。=b

 円盤出たら買うかもしれん。