甲子、一粒万倍日、興福寺文殊会 (旧暦 弥生廿八日)

 
 『まおーえる! ~社畜OLと異世界最強魔王入れ替わり生活~ 4』
  闇儀式カルト/ブリーゼコミックス


 これで完結。
 全四巻でしたか。
 この最終巻のみ近年のコミック本には珍しく二百頁越えと厚く、無理矢理に詰め込んだ感すら……予定どおりと言うよりは打ち切りに近かったのかもしれませんねぇ。ただの想像ですが。

 この作品は、地味っ娘気弱OLのマオさんに魔王が憑依したことから起こる過激系ドタバタがキモです。悪いけど、魔王に憑依したマオさんの魔界スローライフはサブ。
 ジゴク商事、魔王城とも、最悪に近い超絶ブラックマシマシ労働環境からの物語開始であり、魔王になったマオさんは細かな見直しでの環境改善、一方のマオさんになった魔王の修正は劇薬の重ね掛けバフ。そりゃ劇薬のほうが面白いに決まってます(爆)。
 で。
 次々に登場するゴミクズをことごとくねじ伏せる「力こそ正義」というプロットは、すぐにワンパターン化マンネリ化します。これは避けられない宿命。
 そもそもが単発向きのネタなのですよね(作者さんご自身も「超出落ち漫画」とおっしゃってる)。だからこそ、第一巻はインパクトがあった。しかしながら、インパクトは即効性ゆえ、長続きしません。
 みんながみんな『水戸黄門』や『こち亀』みたくは、いかんのよ。

 ただ、この第四巻には変化がありました。魔界側にて、マオさんより先に転生していた同僚の千葉くんがいたという新事実。
 転生者特典とも言える升能力をあれこれ持つ彼のおかげで停滞していたストーリが動き出すのですが、刻既に遅し。けっきょく、千葉くんはマオさんと魔王が元に戻るためのきっかけ役だけで終わってしまった。
 千葉くんの登場がもう少し早ければ(実は前の巻に“あいつ”が転生者だという伏線はあったんですけどね)、そこからの展開は、いろいろと広げられたはずなのに(後日譚が好例)。もったいない。

 勇者というのがクズあるいは脳筋だという事実を明確に描いてくれたことは、面白かったです。
 そうなんだよなー。拾った物すべてポケットに入れるとか、ブツ見つけたら手当たり次第ブチ壊して中身漁るとか、カタギのやるこっちゃない。まともな神経の持ち主に、見ず知らずの家にズケズケ踏み込んで家捜ししてめぼしい物持ち去るとか、できるわけがないのです。

 そして、何事にも心の強さが大事ということ。
 気弱だった山田くんが山田DEATH へと成長したのが判りやすいですが。
 圧倒的強さがあれば精神的余裕が生まれる、というのも真理。
 いつでもあっさり潰せるからこそ、クズ相手ですら穏便に丁重に応対することができる。その気になれば、いつでも潰せるから♪
 一部のベテラン芸人などにも見られる、すぐ相手(ギリで同等、基本的には格下)にブチ切れるのは、己の弱さの証明なんですよね。
 まさに暴力こそ正義(使わずとも)。

 ラストに明かされた、入れ替わりの真相は、はっきり言って蛇足です。断じます。
 そもそもドタバタギャグなんですから、明確な理由など無くても話は成立します。無くても何ら不都合は無い。マオさんと魔王の入れ替わりは偶然、ってだけで充分。
 あの真相によって逆に、千葉くんの転生や、エピローグ、そして後日譚での山田DEATH の転移にも矛盾が生じてしまうのです。
 意表を突く見事な真相ならともかく、あんなのなら入れないほうが、ずっと良い。雑すぎます(とは言うものの、第一巻の冒頭に布石はあるんだよな。つまり最初っから、あれを想定していたかも。でもなー雑なんだよなー)。
 好きな作品だっただけに、どうしても気になるのです。

 マオさんに憑依した魔王が会社やその周辺でムチャクチャやったので、元に戻ってからのマオさんの身辺が心配になりましたが、杞憂でした。
 魔王によって限界突破し、オンシャノシャチョーとの修行によって定着したマオさんの身体スペックは、入れ替わりが解消してもそのままのようです。タブレットを軽く潰してしまう握力と言い、同じく修行で強化された山田DEATH を弾き飛ばす体幹と言い。あれなら引き続き、オンシャノシャチョーとも互角以上に拳を交わせることでしょう♪

 最後に。
 この作品中、最も鋼メンタルなのは魔王でも山田DEATH でもなく、ひょっとすると、無理な値引き目的で毎度毎度ジゴク商事にクレーム入れに来ては事務のOLさん(魔王)にシメられてたメンドゥー社のメガネ野郎かもしれません。ミサイル・キックに始まりチョーク・スリーパー、オクトパス・ホールド、アルゼンチン・バックブリーカーと、あれでよく懲りないもんだ折れないもんだ。単に学習能力が無いだけかもしれんが……。

 お疲れ様っス。