中伏 (旧暦 閏皐月廿九日)

 正直、スプリンガーの大活躍で、もういいや、と思ったんですけどね。
 それまでのあれこれ全部を許せてしまう♪ それほどにスプリンガー話には、やられました(笑)。

 それでもまあ、いちおう駄文など書いてみますか。

 とにかく、虎の穴という組織をどう描きたかったかが判らなかった。
 というか、平成の虎の穴って、けっきょく何だったのか?

タイガーマスクW』は『タイガーマスク』の続編のはずなのに、なぜか虎の穴に関してはリブートまたはリメイクになってしまっていたのが、まずかったかなと。例えるなら、本郷猛と一文字隼人がショッカーを倒した物語の続編は風見志郎がデストロンと闘うはずなのに、敵側がなぜかショッカーの蜘蛛男(しかも弱い)から繰り返すという形になっちまってる。
 新生・虎の穴としては過去のショッカー怪人(レスラー)をなぞらえず、デストロン怪人を出すべきだったと思うワケ。
 この点においては、宇宙プロレス連盟という新たな敵組織を登場させた『タイガーマスク二世』に分がある。

 ぶっちゃけ、敵側の虎はザ・サードだけで良かったんですよ。
 昭和の虎の穴を知っている視聴者からすれば、平成のビッグ、ブラック、キングの三人があまりにも弱すぎた。
 また、平成の虎の穴しか知らない視聴者からすれば、「おいおい、いったい何人タイガーが出てくるんだよ? まるでタイガーのバーゲンセールだ」となってしまう。実際、虎の大安売り状態でしたからね。
 組織の名が「虎の穴」なのだから虎の名を持つレスラーは別格でなければならない。昭和のビッグ、ブラック、キングは言わば大幹部であり、まちがいなく恐ろしい強敵だった。例えるなら、少なくとも初登場時のナッパ、ザーボン、ギニュー並みの脅威ではあった。もちろんタイガー・ザ・グレートはフリーザ級ですよ♪

 それらを知っているが故に、ザ・サードを始めとする平成の虎たちは皆、弱く見えてしまう。虎の穴そのものがヘタレ組織に見えてしまう。
 しかも、負傷したダークがそのまま契約満了できたほどに、ミスXが円満退職できたほどに、組織がホワイト。悪の組織とは程遠いですよね。ジパングプロレスを壊滅させたときの悪辣さは、どこに行ったのやら。正直、ふくわらさんが無理して足抜けしたレベルとも思えん。ミスXのことを考えれば、ふくわらさんも円満退職できたんじゃないのかな?

 けっきょくは、「『W』の虎の穴って何だったの?」となってしまう……。

 比較して。
 昭和の虎の穴を簡単に表現するなら、プロレス界のショッカーあるいは黒幽霊団です。

 見込みのある(ついでに、身寄りがなく行方不明になっても騒ぎにならない)少年を拉致同然にスカウトし、地獄の特訓場に放り込む。特訓とは名ばかりの単なる「振り落とし」を生き抜いた者だけが、まともな戦闘訓練(猛獣と素手で闘うのを「まとも」と言うならね)を経てレスラーとして世に送り出される。ちなみに、脱落した者はガチで死亡する。そういう性質の特訓だったのだよ。喰い物も、闘争心を煽るため満足に与えられず(空腹からのパンの奪い合いが、伊達直人と大門大吾がのちの親友となるきっかけ)、衣食住すべてが劣悪環境。
 虎の穴は表向けの看板を持たず、ただミスターXらマネージャーたちが表の顔として世界各地でレスラーを売り込む。虎の穴出身のレスラーは悪役しか許されず、とにかく観客から憎まれることを要求される。なぜなら悪役のほうがファイト・マネーが良く(『タイガーマスク』世界での話ね)、それは虎の穴への上納金(プロレス関連の全収入の50%! これを滞納して伊達直人は裏切り者となった)にも影響するから。なので、通常での負けは許されないが、反則負けだけは無問題、オールOK。憎まれれば憎まれるほど集客力が上がり、興行的にも外せないレスラーになる道理。
 それと、虎の穴の重要な収益が地下プロレスの興行。地下なので当然、非合法な試合となり、セレブたちから大金を巻き上げられる美味しい仕事のため、地下専門に活躍する虎の穴出身レスラーたちも多い。
 そもそも虎の穴は世界規模の犯罪シンジケートの下部組織であり、成り立ちからして非合法。よって、その存在は秘密とされ、作品世界での情報通と設定されているG馬場さんですら噂の範囲でしか知らず、その実態については何も知らないに等しい(ただし、漫画版では、馬場さんたちが虎の穴に肉迫するんだけどね)。
 虎の穴は打倒タイガーの切り札である赤き死の仮面が敗北したことを受け、それまでの旧態依然としたシゴキ方針から一転、近代化・効率化を図り、魔神像以外の設備すべてを建て直すだけでなく、それまでは拉致していた少年たちを、きちんとした契約によってスカウト、訓練は真っ当なカリキュラムに進化、野蛮な振り落としを廃止、生活環境も改善し好待遇。支配者の一人曰く「これからはムチではなくパンと毛布を与えるのだ」と(高岡拳太郎は、このタイミングで虎の穴に入る)。ただし、非合法組織であることに変わりはなく、脱走者は銃撃される。逃亡に成功しても暗殺される。また、裏切り者処刑の任務に失敗すれば自身が処刑される。ここは変わらない(拳太郎の同期生はほぼ、これらで命を落としている)。ちなみに、タイガー処刑に失敗した赤き死の仮面は、漫画版では魔神像の口(リングになっている)で死刑執行レスラーたちになぶり殺しにされ、アニメ版では奴隷同然の扱いで肉体労働に就かされてた。
 さて。裏切り者の処刑。具体的には、リングの上で殺すことを意味する。試合のうえでの事故という建前を使うわけね。一度で殺すわけではなく、次々と殺し屋レスラーが差し向けられ、同じ箇所を徹底的に攻撃され続ける。頭をやられ続けたレスラーは最後には発狂して走る列車に飛び込んだそうな。引退すれば? との問いには「人はいろいろな事故で亡くなるものだ」と答えておこうか。つまり裏切り者は必ず殺す。そうでないと組織としての規律が守れない。
 ああ、虎の穴のレスラーは足抜け不可だから。加齢や怪我などでの引退後のことは触れられていないものの、現役中に契約満了などという甘いものはないし、体力が衰えていない間に引退などということも無理だと思われ。虎の穴としては投資の回収をしなくてはならないからね。安易に辞めさせてなるものか、ってトコかな。

 どうです。見事にショッカーあるいは黒幽霊団でしょ。
 比べたら、平成の虎の穴って何に例えられますかね? 甘すぎて、見つからないな。

 長々と語りました。
 が、これでお判りいただけるかと思います。
 敵側が激甘なのですから、それに対するナオトやタクマの怒り・復讐心も、どうしてもぬるいものにしか見えなくなってしまう。
 伊達直人や高岡拳太郎の闘いはガチで命かかってましたからね。実際、大門は死んだし。必死さが違う、違いすぎた。

 ひょっとすると新日の意向が影響したのかもですが(オカダら実在の現役レスラーが“ショッカー怪人”と闘うわけにはいかない、的な?)。
 それなら「タイガーマスクをやるなよ」って話になるんですよね。同じく新日の全面協力を得たはずの『二世』は、敵側もブッ飛んでましたし、二世自身も色々な意味で超絶でしたっけ♪
『W』は現実に引きずられた作品だったと言えるのではないかと。そこが残念だと思います。
 だからかな、現実離れした『仮面タイガースプリンガー』は文句なく面白かった。