(旧暦 神無月十三日)

 妖之佑の長年の夢(と言うのも大袈裟ではありますが)の一つに。

 本当のパノラマ写真を撮る。

 というのが、あります。
「本当の」という冠が付く点が重要なのです。

「パノラマ写真なんて昔っからコンパクトでも撮れたじゃん」
 という、そこのあなた!
 まちがってます。

 90年代あたりを中心に不可思議に流行したパノラマ写真は、あくまでも「パノラマもどきのプリント」でしかありませんでした。
 要するに広角で撮った画像の上下を大胆にトリミングして超横長のフレームにしてしまったのが、あの頃の「パノラマ写真」と称するものの正体です。
 カメラの内部を見れば、上下をカットするためのパーツがレンズのすぐ後ろにありますし。
 現像したフィルムを見れば、もったいないほどフィルムの少ししか使ってませんし。
 つまり、普通に撮った写真を大きく引き伸ばして、それの上下をハサミで切り捨てても同じものが出来たのですよ。実に阿呆らしいです。

 あの頃のパノラマ・ブームほど、日本の企業製品の意味不明さを象徴した現象は、なかったかもしれません。
 かつて主流だったレコード・プレーヤの初級機・中級機に必ずと言っていいほど「1〜6、∞」のリピート機能があったのと同様だと思われます。シングルならともかく、LPの片面だけを延々と繰り返して聴く人は希だったと思うのですよね。

 閑話休題

 では、本当のパノラマ写真は、どうやったら撮れるのか?
 もちろん、本当のパノラマ・カメラを使うのです。

 で、これが問題。

 本当のパノラマ・カメラは、国産に限っては、はっきり言って高価です(でした)。
 ブローニーを使うパノンカメラ、ワイドラックス1500、そして 135用のワイドラックスあたりしか国産では存在しません(でした)。
 国外では露西亜と独逸くらいですか。
 今でも新品が手に入りそうなのは、独逸の NOBLEX 。これは樹脂製ボディで、しかも電子式らしいです(ブツの写真のみで、実物を見たことはありません)。
 それと露西亜の HORIZON という製品です。これも樹脂製ボディで、さほどお高くはないものの、なにせ露西亜ですから品質に不安がねぇ……。正規輸入しているところがあるかどうかも、よく判りませんし(なお、同じく露西亜製で古いカメラに Horizont というパノラマ・カメラもあり、こちらは金属製ボディで専用ファインダーもあり質感バッチリです。同じ中古なら、ワイドラックスを買うよりは、こっちが欲しいのです♪)。

 しかも。
 カメラを手に入れても、撮影したフィルムの扱いが、また厄介です。
 現像は、できるでしょう。フィルム自体は普通のものですから。
 問題なのはプリント。これ、正規で受けてくれるフィルム・メーカーは、なかったと思います。なにせ、135、ブローニーとも通常写真の倍ほどのフィルム面を使いますからね。それを焼くための設備が別に必要なのですよ。
 つまり、パノラマ写真の焼き付けを受けてくれるラボを見つけなければなりませんでした。

 ということで、パノラマ写真を撮るには様々な壁が、あるのですよ。
 で、私も、なかなか実行に移せず、そのままフィルムの終焉を迎えてしまいました。

 ところがぎっちょん。
 これは嬉しい誤算でした。

 カメラがデジタル化したことで、逆にパノラマ写真が身近になったのです!

 というわけで、ご覧くださいませ(横スクロール・バーが出ます)。

http://ayanosuke.sakura.ne.jp/photo/pnrm/panorama_01.html

 これはデジタルとは言え、本当のパノラマ写真ですよ。
 いやー嬉しいったら♪

 使用カメラは「フジ FinePix HS10」です。
 写真環境をデジタルに移行した妖之佑、これを望遠撮影のメインにしています。
 が、このカメラは 24-720mm相当という超広域ズーム搭載で、その 24mm相当側では、パノラマ撮影モードがあるのです(後継機である HS20 以降も搭載)。
 もちろん言っときますが、上下をトリミングした「ナンチャッテ」ではありません。
 パノラマ・モードにしてシャッターを押し、そのままカメラをパンするのです。

 そう。
 パンする。
 これこそがパノラマ・カメラに必要な機能なのです。
 フィルム時代のパノラマ・カメラには、シャッター・レリーズに連動してレンズをパンする機能がありました。そうやってレンズを振って得た画像を円く配置したフィルムに感光させたのです。
 例えばタワーなどの展望台に登った人は、そこからの壮大な景色を見るために顔をぐるりと回しますよね。
 カメラに同じ動きをさせ、展望した写真を作るわけです。
 ために特殊な構造を必要とし、それが、さほど大量にはカメラが流通しなかった理由になります。先に書きましたプリントの都合もありましたしね。

 しかし。
 個人的にはパノラマ写真を遠景用にだけするのは、まちがっている。
 と思います。
 いや、むしろ近い風景で積極的に使うべきです。

 というわけで、ご覧あれ。

http://ayanosuke.sakura.ne.jp/photo/pnrm/panorama_02.html

 途中、ツギハギっぽくなっている箇所がありますが、妖之佑のパンが下手クソだからだと思われます(汗)。 
 横着して手持ちですまそうとせず、三脚かモノポッドで支点をきちんと固定してパンすれば、こういう現象は排除できるのではないかと。

 二点透視図法のごとくに写った写真が、位置によってどんどん歪んでいる様は面白いと思いませんか?
 このように歪みが出るのを嫌う人もいますが、個人的には、この歪みすらパノラマ写真の楽しみだと思うのですよ。

 広角単焦点レンズ搭載のパノラマ用デジタル機なんて出たら楽しいのになー。
 と思ったりしています♪


 ちなみに、撮影場所は博物館明治村でございます。
 一枚目の写真、中にチラッと写ったやつが気になりまして、HS10 の本領発揮で捕まえてみました。

 御嶽山

 どうやら御嶽山のようです。
 さすが 720mm相当♪
(ピントが手前の枝に合ってしまったのは痛恨のミス……儂も、まだまだ未熟者じゃて)