上弦 (旧暦 霜月九日)

 端的に言ってしまうと。
 黒澤明監督の『生きる』(第一話のブランコからしてモロ)に藤子・F・不二雄さんの短編『カイケツ小池さん』および『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』(以下『USDマン』)を足した物語。

 とは言え、こんな胸糞アニメを観たのは久々でした。
 ここまで吐き気を憶えたのは『サイコパス』以来かな。さすがノイタミナの選択と言うべきか。

 まー作者の意図するところは判らなくもないんですけどね。
 それでも、あそこまで人々を鬼畜に描く必要があったのかどうか。つか、あの街、米花町並みに危険だろ。普通に歩いてるだけで命を落とす確率が他の地域と桁違いです。
 その反動で、悪人連中が犬屋敷さんなり獅子神なりに全滅させられたとき(および、偉ぶったミヤノが殺られたとき♪)のカタルシスは確かに存在します。が、この古典的な時代劇手法は好みじゃないんですよね。ストレスが溜まるから。

 つか、暴やチンピラ、イジメ集団、ねらーどもはともかくとしても。ついでに、犬屋敷さんを診た医師や、容疑者の段階で未成年者の顔と実名を晒すマスコミもクソゴミでしたが。中でも警察の鬼畜さに反吐が出ました。
 SATを投入して強攻策に出たのって、警察署全滅の前なんですよね。警視庁が記者会見で「売られた喧嘩は買う」宣言したより前なんですよね。て言うか、強攻策に出たために獅子神を怒らせた結果、警察署が全滅させられた流れ。それって、さすがに酷くね? しおんと、おばあちゃんは共犯者かどうか判っていない、「善意の第三者」かもしれない段階。にも関わらず、SATは二人を発砲して制圧したわけで。これはポリスのやりかたではなく、アーミーのやりかた。
 普通に考えれば、警察署が全滅して初めて相手を武装テロリスト並みと認識、完全武装部隊(あるいは、いっそ自衛隊?)の出番のはずです。なのに、普通の民家に押し入るのに、JKと老人に対してあの武力行使……そこまで警察をクソゴミに描きたかったのかな。まーたしかに、一人生き残ったと言うか獅子神に生かされた刑事の捨て台詞は、犬屋敷さんにボコられた「肌の黒い背の高い男」のそれと、まったく同じでしたからね。つまり警察と暴とが同レベルに描かれている。どういう意図なんだろうね。

 作者の意図を理解できない、もう一点が。
 犬屋敷さんを始めとして、作中には余命告知を受けた末期患者と、その病気がらみの話題が、くどいくらい出てきます。観ていて、うんざりするほどに。なんで、もっと病名を散らさないのか不思議でなりませんでした。
 一つ推測するとね。ここは『USDマン』の影響かな? ということ。獅子神を『デスノ』の夜神月と比較する感想が巷にありますが、実のところ二人とも、USDマンの“末裔”だと思うのですよ。要するに「人は圧倒的な力を持つとどうなるか?」というシミュレーション。USDマン、月、そして獅子神は、ほぼ同じ道を辿った。現実の我々も、たぶんそうなる。唯一、犬屋敷さんだけが力に支配されることなく、最後まで心が力を使役しきった。
 で、そうであるなら、この作品中に末期患者が何人も出てくるのは、藤子・F・不二雄さんに対する敬意の顕れなのかもしれません。その意味は『USDマン』を読めば判ります。

 いや、それにしても演出面では、やっぱ不愉快なアニメだわ。
 最後、獅子神に美味しい役どころを与えて風呂敷畳みましたが。あれでは、獅子神に御褒美をあげたようなものでしょ。何かこうもっと、犬屋敷さんとの闘いの流れで結果的に役立ったって形で最期を迎えてもらいたかった。
 なのに見せ場をくれてやるなんて、作者は菩薩のように、お優しいんですね。

 麻理が自分の受賞を雑誌の立ち読みで初めて知った、という不自然さはこの際、置いとくとして(苦笑)。
 娘の受賞に父親が何かしら影響したという流れにしてほしかったですね。でないと、犬屋敷さんが犠牲になったあとのエピローグとして弱いです。
 例えば、あくまで例えばですが。原稿ができたものの麻理には自信が持てなくて放置、それを犬屋敷さんがこっそり応募してしまった。で、父親がいなくなってのちに、麻理は自分の作品が入選したことを知る。みたいなー。

 けなしてばかりも何なんで。
 きちんと確認できなかったのでアレですが。
 犬屋敷さんが受けた余命告知が三ヶ月。
 で、獅子神が逃亡・潜伏していた期間が二ヶ月。その前後を足して三ヶ月になるのなら、機械になった犬屋敷さんの余命は、結果的に同じだったことになります。つまり、同じ長さの余命でありながら、犬屋敷さんは機械になったことで、たいへんに充実した三ヶ月を送ったわけで。
 もしも、この指摘が正しいなら、そこは作者の巧みさだと感心します。

 ときに。
 ガンツは原作者さんの自虐ネタだから脇に置いとくとして。ジャンプ、ワンピ、2ちゃん、どう見ても宮根なミヤノ、小倉、N*Kの武田アナ、トランプ、文春……。実在の名や姿をそのまま出してしまうという怖い物知らずな態度に驚きましたよ。最近の作品には珍しいですよね。
 いや、ぜってー、いちいち許可なんて取ってねーだろ。特にトランプ。

 あーそうそう。もう一つクソゴミ野郎を忘れてたわー。
 事故を起こして慌てて取り繕って逃走する宇宙人どもの思考回路が小市民的すぎて笑う。

 安堂は終始、ヒロインだったなー♪
 はな子も、遠吠えのシーンとか凄く良かったなー♪

 最後に。
 どうせなら、実写映画も木梨なんかより、小日向さんが主演したら良かったのに。
 と思いました。