実は、ドラマ版より前に、ちゃんと原作を読めていたのです。
この作品の存在は実は二次創作、いわゆる同人誌で知りました。五郎さんが、さまざまなアニメの舞台を訪れては、あいかわらずの調子で“一人メシ”を楽しむ内容で。
ですが、その時点ではさほどの興味が、わかなかったのです。
では、なぜ本を手に入れた?
それは↓の作品に理由があります。
『かっこいいスキヤキ』
泉昌之/扶桑社文庫
妖之佑が、かなり昔から探していた作品を収録した短編集です。その短編の作者名もタイトルも判らず闇雲に探していて、そんなある日、偶然から書店の本棚で発見したといういきさつが(苦笑)。
それが、この中に収録されている『夜行』でした。
ネタバレを避けたいので具体的内容については触れませんが。
ただ、この著者名「泉昌之」というのは、原作の久住昌之さんと作画の泉晴紀さんとの、いわばユニット名というところが重要。
そう。『孤独のグルメ』と原作者が同じなのですよ。これでは『孤独のグルメ』を読まないわけには、いきません。
原作者が同じため、そのテイストにも共通点があります。主人公の言動、すなわち「食べ物の組み合わせや食べる順番に対する強いこだわり」です。先に挙げた『夜行』の他に『最後の晩餐』が、そうです。
他にも食べ物以外に対する強いこだわりの話もあり、カバー絵にあるような、外見からするとハードボイルドの世界に生きているらしい渋い中年男が、そのこだわりゆえに空回りし無様を晒すという地雷的自爆展開が基本スタイル(笑)。その意味でも『孤独のグルメ』と芯が似通っています。
ただし、この本、お下劣な部分もあって、決してすべての人が面白く感じるものではないとも言えます。良い意味でも悪い意味でもB級なのです。そこのところは、よしなに。
で、『孤独のグルメ』に戻りまして。
こちらには、お下劣な要素はありません。あくまでも、おとなしく。
また、ドラマ版のようなコミカルさも、ありません。コミカル要素はドラマ版独自の味ですね。
以下に各話ごとの感想を書きます。
ネタバレも含みますので、ご注意を。
リーマンっぽい若干若く見える中年男性が主人公というのは、メジャー作品としては斬新かもしれん(原作者・久住さんの作品では実は、あたりまえの仕様なのだが♪)。まあ、掲載開始の頃はメジャーになるとは思っていなかったのだろう(笑)。
メシを喰う店を探すときも、店に入ってからも、彼は、どうもいちいち人の目を気にするタイプのよう。
それにしても、アーケードの端っこまで行ったときに、なぜ「引き返すか…いやいや同じ顔がウロウロしてたらヘンに見られる…」とまで気にするのかが理解できなかった。
これ、地元の人なら「山谷」という地名で明々白々なんだろうね。
ドヤ街だそうで。
なるほど。それなら仲間意識が強いし他所者が珍しいはずだ。にわか雨を避けてアーケードに入ったネクタイとスーツ姿の主人公に向けられた目が侵入者を見るようなのも、うなずける(店に入ったときも、そうだったね)。
で。
実は、この本の中で一番食べてみたくなったのが、ここの豚肉イタメとナスのおしんこなのだよ。第一話で、いきなりベスト・メニューが出てしまったワケ(笑)。
「ぶた肉と豚汁で豚がだぶってしまった」と注文を後悔する主人公。その姿は他エピソードでも見られ、これは原作者・久住さんがかつて原作を担当なさった短編集『かっこいいスキヤキ』でも見られる様子である。
食事を終えた主人公が店を出たときのシーンも、笑えた。
ちょっと出ただけで明治通り。この別世界感は江戸の頃からあったと思う。表店と裏店の落差ね。
第2話 東京都武蔵野市吉祥寺の廻転寿司
主人公はリーマンではなく個人業者だと判明。
ついでに人生観も判った。要するにハードボイルドを地で行きたいタイプ。なるほど、それが第1話の、やたら人の目を気にする姿勢に出ていたわけか。思えば久住さんの古い短編集『かっこいいスキヤキ』の各作品に出てくる中年男たちも皆、ハードボイルドを気取っていた。
さらについでに下戸だとも判明。仕事が上手く行っており羽振りが良いとみえて、回転しないほうの寿司屋には「いつも行く」そうで……いいなぁ。
実は第2話にして辛口内容。
一皿百三十円で上級ネタを提供するサービス・タイムは、たしかに良心的。その点では良い店。
だが、この話で重要なのは、主人公の注文が店員に通らなかったことだと思う(おそらくは、原作者の不愉快な実体験ではないかと♪)。
しかし見た目のスタイルを気にする主人公は積極的にクレームを入れるタイプではない。そこで隣席に座っているオバサンの出番というワケね♪
「スイマセン! さっきから注文しているんですけど」
と、オバサンまずは軽くジャブ。
「ハーイ 注文は大きい声でよろしくっ!」
この店員の一言にオバサン(=原作者)切れた。
「あたくしノドが悪いんです」
と言い、主人公にも助け船を出してから、
「もう少し聞こえるようにならないかしら」
ここで、ようやく店員が失態に気づく。そう、注文が通らないのをお客のせいにするという大失態。
まっとうな店長、あるいは本部のマネージャーとかがその場にいれば、後で店員全員に大説教の展開だよ、これ。
しかし主人公は素直でない。
もちろんオバサンに礼は言うものの、他人の世話になったことを、まるで恥じているかのよう。さすがハードボイルド志向。正直、あまり良い性格とは言えぬ(苦笑)。
ハードボイルドだからだろうか、喫煙者であることも判明。
お得意様の台詞から、主人公が「井之頭」さんだと明かされる。
第3話で、ようやく名無しの権兵衛さんから昇格とはね(笑)。
浅草界隈は、じっくり歩いてみたい所なのだが、なかなか機会がね。
以前、とあるまぁるいおかたとご一緒したときは暑かったこともあり、たいへんに失礼ぶっこいた(謝意)。
第2話もだが、井之頭さんの主人公スキル発動。
つまり注文が、そのまま通らないという、物語に必須の“躓き”ね(笑)。
しかも連続して二度も躓くあたり、お得意のハードボイルドが空回りしてるし(爆)。
豆かんてんってのは実は食べたことがない。あんみつ、みつ豆は、あるんだけどね。
口に入れた瞬間に「いい豆だ」と判るなんて興味がそそられる。
件の甘味処、今まだあるなら行ってみたい。
ラストの洋食屋も気になるなー。
浅草、また行きたいものである。
第4話 東京都北区赤羽の鰻丼
「会社倒産した」からと言って「自分が酒好きなもんだから じゃあ朝から酒飲める店やろう」って進むその発想。何というバイタリティー。羨ましい。
起業する人って皆、そういうパワー持ってるんだろうね、きっと。
で、やはり主人公スキル発動。最初の注文は虚しく却下される(爆)。
ここでも第1話同様、井之頭さんは常連客っぽい人から訝しむ視線を投げかけられている。まあ、井之頭さんも周囲のお客の身上など怪しんでたりするので、おあいこかな。
それにしても早朝に自身で納品するとか、荷物運びのバイト一人もいないとか。
その徹底したソロ・プレイヤーぶりには感心する。さすがハードボイルド志向。
納品に使った車は連載当時としてもすでに旧型の丸目BMW。3か5か7かは判らんが、輸入車を使うあたりも、さすがハードボイルド。
(個人的にもBMWは丸目でないとあかん)
ちなみに、この話でも見せたように井之頭さんは、たびたび注文の組み合わせや食べる順番などに、こだわりを見せる。
これ、『かっこいいスキヤキ』のテイストそのものなんだよね。
焼きまんじゅう、美味しいよ♪
が。
高崎が本場じゃねーだろ。もっと山の中だろ。
と個人的には言いたい。
まあ上州全体の郷土食と言えばいいのだが。
けど高崎は上毛でも南寄りだからなぁ。山地と平地の境目って感じで。上越新幹線も、たしか高崎駅から北が延々トンネルになってしまうはず。
にしてもアン入りってのは想像つかん。
焼き鳥みたいな味噌ダレと甘いアンコを組み合わせるって無理があるんじゃないのか、あの店……。
井之頭さんは、かつて若手大女優と、おつきあいしていたと。
顔とか二枚目だからね。若い頃は、かなりモテたんだろうね。
で、性格が災いして、どれも上手くいかなかったと。さすがハードボイルド♪
つか。
車がボルボになってる。740 あたりかな? BMWと二台持ってるってこと?
さすがハードボぃ(ry
ちなみにラストに出てきた大きな仏像は高崎白衣大観音。
全高41.8mというからウルトラマンやウルトラセブンより少し背が高い。
内部に人が入れて展望室もあるそうな。山の上に立っておられるので、そこからの景色は、かなりのものだと思われ。
(かつて行く予定だったのがダメになったんだよっ。おのれディケイド)
第6話 東京発新幹線ひかり55号のシュウマイ
発車前から早々と駅弁を喰っているせっかちな乗客をバカにしていた井之頭さん。
そんなハードボイルドが空回り全開バリバリの巻(大笑)。
友人の滝山さんに駅弁の助言を仰いだまでは正解。餅は餅屋だからね。(違っ
問題は、そのあと。
いざ、滝山さん一押しの「シウマイ弁当700円!! これしかない!」を前にして、横の、まさにこれから出張という感じのリーマン風男性コンビの会話に、いきなり決意が揺らぐ井之頭さん(どこがハードボイルドだよ)。ジェットという品を買って大失敗するわけだが。
ハードボイルド志向で冷静に、よぉーく会話を聞いていれば、そのときの自分がジェットを買うべきではないと簡単に判ったものをね。
曰く。
「あとは向こうで水割りセットを買えば万全」
そう。彼らは列車内で喰うために買ったのではない。目的地に着いてから腰を据えて喰うためにジェットを買ったのだ。水割りと言うからには、たぶん宿(ビジネスホテルあたりかな)での晩酌用だね。
滝山さんがジェットのことを知らぬはずがなく。それでもシウマイ弁当を勧めてくれたというのにね。
井之頭さん痛恨の勇み足であった。
湯気と匂いのせいで隣席の乗客(美人だったなー。少なくとも井之頭さんの元カノよりは美人だったなー)に対して気まずい食事をすませた井之頭さん、せめてもの憩いの一服を後席の子連れさんに止められるというオマケ付き。
この連載当時、新幹線って禁煙車両はなかったのだろうか。もしあったのなら、禁煙車両に行かなかった者が子供を理由にとは言え偉そうに「煙草遠慮して」と言うのは筋違いなのだが。
ところで理想的な駅弁とは何だろうね。
そもそも駅弁は、その駅その駅、つまり土地土地を代表する材料で作られた弁当であるべきで。例えば横浜なら焼売、釧路ならタラバガニ、札幌は鮭、富山の鱒、浜松の鰻、明石の蛸……などなど。したがって、かつては駅名から容易に駅弁の中身が特定、あるいはその逆もできたはず。
それが今では一つの駅にいろいろな業者が参入し何種類もの駅弁が存在する。大きな駅では大乱戦状態。はっきり言って「この駅でなくてもいいんじゃね」的な内容も少なくない……と言うか、むしろそっちのほうが多いかもしれん。
と、ここまで言って矛盾するような意見だが、実は理想的駅弁とは普通に地味でオーソドックスな弁当なのではないかと思うのだった。それこそ『かっこいいスキヤキ』収録の『夜行』に出てきたようなヤツ。いわゆる「幕の内弁当」の類ね。これのおかずに、ご当地の物が一つ二つ入っていれば◎ではないかと。
焼き肉を上に敷き詰めたもののように中身が、おかずもメシも一色に統一されるよりは、やはりおかずはカラフルご飯は白いほうがいいと思うのだよ。
これで列車の窓が開けば完璧。今や叶わぬ夢だが……。
ちなみに名古屋にあるリニア・鉄道館では、かつての物を復刻した駅弁が売られている。いささか豪華な内容なのが、かえって少しだけマイナス・ポイントではあるが、かなりいけてる♪
ハードボイルド志向な井之頭さんの天敵がワラワラ棲息する恐怖の地……それが大阪。
苦手な人には、どうしようもないだろうね、あの日常会話に満載されている吉本新喜劇を地でいくボケとツッコミ。
井之頭さんが翻弄されるのも至極当然のこと。
巻末に収録された特別鼎談によると、作画の谷口ジローさんがこの本に収録された作品の中で最も苦労したのが、この屋台の中だそうで。
何にどう苦労したかは本を読んでいただくとして。
たしかに、それを知ってから、あらためて見ると凄いと言わざるを得ない。勉強になります。
それにしても井之頭さん、ノリが悪いなー(笑)。
第8話 京浜工業地帯を経て川崎セメント通りの焼き肉
他に言うことないでしょ。
ただ、喰い過ぎ! としか。
ちなみに、サンチュがサニーレタスのことだとは知らなんだ。
(調べたところ、これは店の怠慢のようですね。似ているけど厳密には別物だそうな)
少し気になったのはチャプチュの描写。
好きずきがあるので、料理名に対してあまりネガティブな表現はしないほうがよろしいかと。
少なくとも、この回を読んでしまうと、チャプチュを試す気にはなれないからね。
(原作者、そーとーチャプチュには良い思い出がないんだろーなー)
車は、やはりボルボ。
二台持ちなのか、BMWから買い換えたのか、BMWは代車だったのか(ディーラーの関係からすると代車説だけはないか)。
名物に旨い物なし。
通は観光地に行っても観光客向けの店には入らないと聞く。
井之頭さん、学生時代も、やっぱり彼女がいて、しかも別れてた(というか、たぶん、あの大女優さんのときと同じく「捨てられた」だね)。おまけに友人の嫁さんになってるとは(苦笑)。
やはり性格に難……おっと誰か来たようだ。
ところで。
観光客寄せに店が鳶を餌付けするのは問題ないんだろうかと小一時間。
第10話 東京都杉並区西荻窪のおまかせ定食
井之頭さんが中年である証拠だね。
「道端の草を食っているよう」なホウレン草の旨さって判るんだよなー(汗)。
わしも歳を取ったものじゃて。
追加でカレーの大盛りを注文したとき、奥の席で箸を使っている白人さんがびっくりしてたが、あの玄米とイワシと野菜を使ったカレーというのが想像つかん。
できることなら喰ってみたいね。
ムラサキサギってのは見たことないな、たぶん。
アオサギとゴイサギは、しょっちゅう見るが。
レトルトのカレー丼というのを喰ったとき、レトルトのカレーうどんと何が違うのだろうかと本気で判らなかった。
どう考えても商品名とパッケージのデザイン変えただけで中身一緒だろ(笑)。
あのチェリオ(まちがっても某奇策士の掛け声ではないっ)独特の、ビバンダムくんみたいなシルエットを持つガラス瓶は写真でしか見たことがないんだよね。だから飲んだこともない。
それが、たまたま先日、実は近所に自販機(残念ながらペットボトル)があることを知り、早速飲んでみた。もちろんメロン味を♪
ファンタに比べて甘みが強い反面、炭酸がきつくないので飲みやすい。ただ、強い甘みのせいか、ファンタよりも腹が張ってくる。
チェリオだけでなくラムネ、コカコーラやファンタ、あるいはペプシにしても、ガラス瓶は今となっては貴重な歴史資料アイテム。
できれば、手に入れたいものだ(変な高値でなく、ね)。
近くの席にいる子連れ母親の腰のあたりをチラ見したり、帰りのバスでいぎたなく居眠りしたり。
ハードボイルドなどどこかに消えてしまった普通の中年男の姿だった。
第12話 東京都板橋区大山町のハンバーグ・ランチ
第2話から久々の辛口エピソード第二弾。
全席カウンターってのは、ごまかしの効かない店舗形態なんだよね。板場にエナメルブラックが登場したりすれば、お客にも知れてしまうから。もちろん鼻の穴などほじれないし、冷蔵庫に入ってピースサインなんてバカもできるはずがない。
その意味では厨房が奥にある店より、はるかに真剣勝負の場。
この作品についての感想ブログなどなどを拝見すると、あの店長は当時、悪い意味で伝説的有名人だったそうで(創作でなく実在したことに、びっくりだ!)。
そりゃそうでしょ。
井之頭さんが席に着いたときの、石鹸の泡付きコップは、店長の対応がほぼ正しい(看板についての小言は余計だったけどね。あそこは単に「看板しまっとけ」だけでいい)。あれは、コップをきちんとすすがなかったバイトの呉さんが悪い。
けど、その後の店長のあれこれ乱暴な言葉の群れ。あまっさえ体罰まで。
忙しいのにバイトとの呼吸がどうしても合わないという店長の苛立ちは理解できるし、部下の指導方針に外野が口を挟む権利もない。
が、そーゆーのは、せめて裏でやってほしい。ハリウッド映画の Blu-ray 初回版特典映像じゃあるまいし、楽屋ネタなんて見せられてもクソ面白くも何ともない。味にも悪影響だ。
あの店長が仕事に一所懸命なのは判る。あるいは、あの歳でようやく手にした「長」の付く仕事なのかもしれない。が、たぶん店長は人を使うスキルを持っていない。ソロ・プレイヤー向きなのだろう。そこが店長にとってもバイトの呉さんにとっても不幸だったと……。
基本的にクレームを付けない井之頭さんが文句を言うのも珍しく、それだけ不愉快さMAXな店だったということ。
ところが血の巡りの悪い店長は、味に文句を付けられたと誤解したのだろうね。逆ギレ(例え「不味い」と言われても客に怒ってはならない。それが客商売というもの)したうえに、絶対やってはいけないこと、客への暴行に及ぶという酷さ。
が、そこで意外な逆襲! 井之頭さんのプライベートが少し垣間見えた。
しかし、すべてに達観していたのは店長に虐げられていた呉さんだったというオチ。
この回の中では一番大人だった。
中国か香港か台湾かは判らないが、こういう人となら対話もできるし理解し合えると思うよ。
なお、Web に点在する情報によると、件の店長はその後、店から消えたそうで。
たぶんクビになったんだろうね。まっとうな経営者なら実態を知ればソッコー対応するはずだ。
味についての言及が一切ないというのは、この作品では異例中の異例。
第13話 東京都新宿区神宮球場のウィンナー・カレー
すまんが、自分も高校野球には興味ない。
昔、従兄弟が本大会に出たことがあったが、それでも興味がわかなかった。(コラコラ
炎天下の滝汗でシャツを脱いだ際、近くで観戦していたジーサンから「いい体」と指摘され「なんかやってたの」と訊かれ、曇った表情で言葉を濁す井之頭さん。
ハードボイルドゆえ、よほどプライバシーに触れてほしくないらしく、世間話のレベルでも拒絶するのが極端だと思う。商人なのだから、もう少し普段から愛想があったほうが仕事にも生かされると思うのだが。
でも、前回との組み合わせで、井之頭さんが、それなりにしっかり格闘術の稽古をしている(していた)のは、はっきりしたね。
ついでに、井之頭さんの年齢も、ある程度の絞り込みができるエピソードだった。
第14話 東京都中央区銀座のハヤシライス(の消滅)とビーフステーキ
老舗が消えて、その跡地にコンビニやケータイの店ができてしまう。
時代の流れとは言え悲しいし情けない。
なんでだろうね。良い店が消えてダメな店は生き残る。
今の日本が、どこか狂っている証拠なのかもしれないとさえ思う。
第15話 東京都内某所の深夜のコンビニ・フーズ
羽振りの良い独身貴族ゆえの、ケジメのつかない散財ぶり。
ちょいと一人分の夜食を買うだけで二千円以上も遣うかフツー。
狙ってるシングル女性が周囲に多々いると見たね。本人は鈍感だろうから物語内での描写もないと(笑)。
ハードボイルドを地で行く井之頭さんとは言え、事務員くらい雇ってもバチは当たらんと思う。
腕利きの名探偵だって秘書の一人くらい雇ってるぞ。
にしても泊まり込むこともある事務所に電子レンジがないとはね。簡単なものですら、自分の喰い物を自分で調理するという発想が皆無だと判る。しかも、買ってきた夜食をデスクトップPC(掲載当時のだからFDだよ)の置いてある事務机と事務椅子で喰うということは一息入れるテーブルや椅子がない証拠。ありゃ小さめの冷蔵庫もないぞたぶん(にも関わらずダンベルなんて物がある! それもデカい!! やはり体育会系だ!!!!)。
まあハードボイルドな私立探偵なら、そうか。
でも探偵はコーヒーくらい自分で煎れるけどなぁ、インスタントでないヤツを。
第16話 東京都豊島区池袋のデパート屋上のさぬきうどん
「讃岐うどん」をきちんと地域のブランドにしようという動きがあったっけか。
他の土地どころか外国企業にまで使われまくってるので、そりゃ地元としては腹も立つわな。
ところで讃岐うどん独特の店舗システムが、いまだに理解できないでいる。こーゆーところで躓くと、味を楽しめないんだよね。
なので、讃岐うどんに限らず初めての店に入るのは、いつも躊躇してしまう。
本当なら店の人がちゃんとエスコートしてくれれば、それでいいはずなのだが。中には「ルールを守らない奴は客じゃない」とばかりに店独自のローカル・ルールを、あたかも法律のように客に押しつけてきて、あまっさえ予習していない客を叱るラーメン屋まであり、それが有名になってたりするから困ったものだ(その手の店をベタ褒めする芸能人を見ると例外なく芸のないバカ揃いなのには失笑を禁じ得ない)。
『美味しんぼ』初期の山岡士郎が言っていたとおり「日本人ってのは変だ」と思う。「客のクセにペコペコする」なんて頭がおかしいとしか思えない。だから「バカな店員が勘違いする」わけで。
おっと。
かなり脱線してしまった。
デパートの屋上は、そーとーご無沙汰してるなー。
今でもペット店とかサボテン屋って、あるんだろうか。
名古屋三越屋上にある最古の観覧車は廃止になったんだよなあ……。
アキバという街に食欲を求めるのは、たしかにまちがっているかもしれない。
メイド喫茶だって、食欲を満たすための店ではないからねえ(連載当時はメイド喫茶なんて、なかったか。はは…)。
井之頭さんはハードボイルド志向だから、家電を買うにも、ちまちまカタログ見たりはしない。フィーリングで選ぶのだ。
お金の遣いかた、少しまちがってる気がしなくもない……。
家電芸人さんが見たら怒るだろうね。いや、喜んでアドバイスしに来るか(笑)。
アキバかあ。
随分と行ってないなあ。行きたいなあ。
第18話 東京都渋谷区渋谷百軒店の大盛り焼きそばと餃子
いきなり「ウチはライスやってないんだ」と言われた井之頭さんの顔と、それを横目で見るお客たちの視線。
痛いね。
「この店に来て酒じゃなくライス頼むなんて、どこの田舎者だ?」と言ってるからね、あの視線。
表に書いといてほしいよ、「ライスはありません」とか。あるいはパッと見て酒が主食の店だと判るようにしてくれればいい。
濃い味付けの焼きそばと餃子。そりゃー酒に合うだろうさ。でも、ご飯にも合うよね。
オイラも井之頭さんと同じく酒の飲めない日本人だからね。あの残念さは、よぉーく判る。
酒呑みは、もっと下戸に優しくあるべきだと思う。
で、この餃子専門店。
第12話と比較するのも面白い。
どちらも全席カウンターの、こぢんまりとした店。
餃子店のほうはオヤジさん独りで切り盛りしている様子。何せカウンターの中も外も狭いからね。人がすれ違うのも無理そうなほど。これじゃ手伝いさんの居る場所はないよ。それでもオヤジさんは、お客全員に目を配って隙がない。しかも歳の功なのだろう、肩に力が入っておらずスイスイと仕事を進めている。
これはハンバーグランチの店長も同じで、オヤジさんよりは若い分、肩に力が入ってパワーで突き進む印象ではあるものの仕事自体はちゃんとできる人なんだよね。あの店長は、やっぱりソロが向いてる。
餃子店のオヤジさんを見て、あらためてそう感じた。
特別編 東京都内某病院のカレイの煮つけ
新装版用の描き下ろし作品。
これだけで文庫版でなく、その倍の価格の新装版を選ぶ価値がある。
この話で、初めて井之頭さんの名前が「五郎」だと明らかになった。フキダシの台詞ではなく、病院の食事に添えられた名札でという、さりげなさだが。
よりにもよって連載終了から十年後の特別編で、やっとフルネームが出たって、どうよ(大笑)。
この話は入院経験があるとないとでは受け取りかたが違うと思う(ちなみにオイラはあるぞ、いちおう)。
実際、入院するとメシが楽しみで仕方ない。しかも旨いんだな♪ 普段より「よく味わっていただこう」という殊勝な気持ちになれるし。
昔はサー、病院側の都合優先で、患者の夕飯が午後三〜四時頃という非道な仕打ちだった。しかも不味くて冷めてて。だから消灯の時間には空腹で仕方なかったことと思う。お気の毒な話だ(当時のドラマなどでは「病院のメシは不味くて喰えない」というのが演出の定番だった)。
それと比べて今はいい。専門業者に外部委託できるようになった影響もあって、時間も味も栄養バランスも、患者のことを第一に考えてくれるから。
普段が元気で粋がっていたソロ・プレイヤーが一転、ぼっちの入院患者になったことで、さすがのハードボイルド井之頭五郎も気弱になったと見える。
入院したいきさつやら、これまで他人には絶対しなかった身の上話まで看護師さんにペラペラと喋るのだからね。環境って人を変えるのだよ。うむ。
つか、周囲のシングル女性が井之頭さんを落とすなら、このタイミングを置いて他にないね。
看護師さんへの打ち明け話で、井之頭さんの筋肉質な体や事務所に転がってた大型ダンベルや、あの店長への逆襲という伏線群が一気に回収されたことになる。十年後の単発描き下ろしで回収って何なんですか(笑)。
バナナと牛乳を口の中で混ぜてバナナジュースにしようなどというのは、頼むからやめてくれ。
入院で退屈してるからって、やりすぎだ(爆)。
この作品、現在もマイペースで不定期連載中とのことで。
早く第二巻が出てほしいものである。
ご静聴ありがとうございました。m(_ _)m