(旧暦 水無月廿三日)

 『ダンジョン飯 5』
 『ダンジョン飯 5』
  九井諒子/ハルタコミックス


 あれ?
 四巻まではビームコミックスだったのが、この五巻はハルタコミックスになってる。ハルタも出世したということか。

 まあ、それはともかく。
 前巻に続いて、ストーリ重視の巻という印象でした。
 特に今巻は、魔物グルメの要素が微少で微少で(涙)。

 ストーリが、しっかり練り込まれているので、もちろん面白いのです。
 面白いのですが、自分が『ダンジョン飯』に求めているのは、まったりドタバタ魔物料理なんですよね。この巻で言えば、コカトリスの回みたいな空気こそが『ダンジョン飯』の真骨頂だと思うのです。マルシルさんのボケ(いや、あれはツッコミか)が絶好調ですし♪
 その意味で、個人的な感想は微妙とならざるを得ない。

 とは言いつつも。
 ストーリの構築が丁寧で読み応えあります。作者さん、本当に上手いなぁ。

 以下はネタバレなので。


 とにもかくにも伏線回収コンボの巻。

 黒エルフの元道化は、どうやら「狂乱の魔術師」らしい。以後、勝手に「狂乱(仮)」と呼称する。
 それで、タンスじーちゃんの調査とも繋がる。迷宮各所に記された古いエルフ文字(しかも酷い癖字)すべてが同一人物によると推理していたから、それはたぶん狂乱(仮)が迷宮を作るために書いたものだと思われ。
 ライオスが生ける絵画の中で道化と遭遇したのは過去へのトラベルではなく、記録データとの接触だったようで。なぜなら狂乱(仮)がライオスに「絵の中をうろついていたな」と言ったから。つまり、生ける絵画の魔法を管理していたから、中に入ったライオスのことも認識したってこと。
 その狂乱(仮)は、デルガル王を探している模様。
 つか、デルガル王はトールマンだろうから、そもそも千年も生きるはずがなく。あー、それで城と城下町すべてを迷宮にして封じたのか。タンスじーちゃんの言う「死んだ者が生き返っているのではない。ここでは死自体が禁じられている」というのも、死を禁ずることでデルガル王と周辺環境を永遠のものにしようとした? 狂乱(仮)の王への思い入れは、かなり強いようだからね。
 マルシルが狂乱(仮)を狙撃した際に「子供……!?」と思ったことから、実は狂乱(仮)本人も時間を止めている可能性が高い。マルシルの年齢は不明だが、さすがに千歳ではないはず。となれば、千年前の黄金城時代からいた狂乱(仮)のほうが年上。にもかかわらずマルシルには狂乱(仮)が子供に見えた。つまり、狂乱(仮)は成長していないことになる。て言うか、狂乱(仮)は道化本人ではなく、道化が自身をコピーして迷宮のシステムとして設置したものかもしれない。オーク族長の妹さんが言った「必要以上に迷宮に干渉すると奴は現れる」ってのが、普段は稼働しておらず必要なときだけ起動するアプリみたいな感じでサー。
 で、狂乱(仮)の身勝手な施術が城と城下にとっては大迷惑以外の何物でもない。何せ、不老不死ではなく、死んでも死ねないで霊として彷徨うわけだからね。霊たちの態度(苦しむファリンを気遣う様子や、狂乱(仮)を見て「ダメだこりゃ」と口ごもる表情、そしてライオスたちに何かと味方してくれるところ)が、そう考える根拠。城と城下の住人たちは、狂乱(仮)を止めてほしがっているに違いない。
 しかも皮肉なことに狂乱(仮)の求めるデルガル王は、迷宮が地上と繋がった際に亡くなってるからね。穴から這い出て島の者たちに「すべてを与えよう」と言ったときには迷宮の外に出ていたわけで。なので呪いで禁じられていた死を王は得ることができた。

 ファリンが狂乱(仮)に従うのは、やはり炎竜と魂が混じったことと、もう一つある。
 マルシルの蘇生術解説によると、ファリンを一瞬だけ迷宮の一部ということにして術を使った。でも、本人は一瞬だけと思ってるが、そもそもマルシルは術の終わりに気絶している。つまり、展開した術をきちんと結べていない可能性が高い。ということは、ファリンは未だ迷宮の一部ということなのだよ。そりゃ狂乱(仮)に操られるわけだ。
 炎竜がほとんどを寝て過ごす習性に反して歩き廻っていたり、通常は現れない五階にいたのは、狂乱(仮)にデルガル王を探すよう命令されていたから。つまり、狂乱(仮)が余計なことをしなければ、ファリンは未消化で普通に蘇生できていた。狂乱(仮)許すまじ!

 二巻、三巻と“さわやかくん”だったカブルーは、実は顔だけでなく腹も黒かった。シュローへの接近なんて詐欺師そのもの。
 宝石と麦に関しては疑うのも仕方ないが(つか麦は実際に頂戴しちまってるしなーライオス)、ずっと前からトーデン兄妹の化けの皮が剥がれる瞬間を待ってた、なんてのは粘着質が過ぎる。嫌だこいつキモい。
 君の期待を裏切って悪いが、ライオスもファリンも裏なんてないからね。単なるお人好しなバカってだけで。ついでに言うと、それ言ってる自分こそ、さわやかだった化けの皮が剥がれてるぞ(大笑)。
 にしてもなー。ライオスが稼ぎに関して偽善者(と言うよりも思慮の浅いお間抜けさん)だというのは、いちおう認めるとしてもね。そこまで嫌悪する理由が判らない。幼児体験でのトラウマでもあるのか?

 狂乱(仮)と言いとカブルーと言い。作者って、バカヤロウの顔にアミ貼るの、わざとやってます?(笑)
 いや、二人とも自分の価値観がすべて、それ以外は許せない、という独善者って点で似た者同士でしょ。

 シュローは東方の、たぶん名家の倅(武者修行ってことは次男あたり?)。
 ナマリは、父親が島の名士で不祥事により失脚。
 マルシルは、学校はじまって以来の才女。ドオン
 チルチャックは、がめついことで悪名高く。
 ライオスのパーティーが有名な理由も、よーく判りました(笑)。

 ホント、伏線回収しまくりの巻でしたね。
 六巻は、また半年後かな?

 そうそう、ライオスに言ってあげたい。
 そんなに落胆するな。おまえが真の『迷宮グルメガイド』(監修・センシ)を書けばいいだけのことさ。