小満 (旧暦 卯月廿一日)

 
 『ゴリせん ~パニックもので真っ先に死ぬタイプの体育教師~』第1~3巻
  酒井大輔/ヤンマガKC


 SNSでウケたのがきっかけでメジャー出版に至る。
 今の定番ではありますが。
 あとがきによると、出版に至った経緯が実に楽しい本末転倒です。
 何にせよ、人気が出るのは良い事ですよ。

 内容は副題で丸判る。
 パニック、ホラー、サイコ、SF、ミステリー、怪談、バトル、昔話、恋愛……等々、各種ジャンルにおけるテンプレ死亡フラグをことごとく無神経にヘシ折るのが、この作品の基本コンセプトです。理屈も何もあったもんじゃありません(爆)。
 それを掌編的ショートショートの分量で次々とやってくれるからテンポが良くて楽しい。

 ただ、それだけじゃない。
 主人公である「ゴリ先」(「ゴリラ先生」の略)は何かと言うと校則校則と口うるさい生徒指導のジャージを着た脳筋な典型的体育教師キャラですが、巷に多々いるテンプレ死亡の教師と違って、実に良い人です。とにかく生徒思いだし、公私ともにクソ真面目だし、自分の非はちゃんと認めて生徒に謝るし、教師として人として満点に近いんじゃないかな。おまけに、たぶんスーパー*イヤ人より頑丈♪
 そして、ヒロイン……を差し置いて、第一話の悪キャラだったイチが、回を進めるにつれどんどん可愛くなるのも、この作品の魅力だと思います(「魔法少女イチワちゃん」は名画だ!)。作者さんも「美少女」と公言しておられますし。

 それにしても、各種ジャンルのフラグ折りが目的にしても。よくもまー、あれだけ“主人公キャラ”と、それに伴う強力な敵キャラたちを集めたものです。もう、ほとんど友引高校と友引町だよ。冒頭学園&町内の“戦力”だけで日本どころか世界……いや銀河系征服もできるんじゃね(笑)。
 作者さん、本当にいろいろな作品を研究なさってるなぁ。
 ブレザーでオールバックのキャラの法則なんて、知らなかったよ。某北高の脇役キャラしか知らねーよ。
「怪しげな道具渡してくる怪しげなキャラクターネーミングの法則」も知らねーよ。
 ホント、詳しいなぁ。

 残念なこともあります。それは絵柄の変遷です。
 第一巻の前半あたりまでは、たどたどしさが見え隠れしますが、本当に丁寧に描かれていて、むしろ好感が持てます。例えるには相手が桁違いに強大すぎですが、あの『こち亀』の記念すべき第一話のような印象です。
 第一巻後半あたりから第二巻は、作画に慣れてきたのか絵柄が安定して、まったく不安なく読めます。ページ数の少なさを考えると、とんでもない早さの上達ぶりだと思います。
 ところが第三巻では、デッサンの崩れたコマがチラホラしています。線も雑で所謂「作画崩壊」の手前状態。それが所々で目立つ。
 想像ですが、作画に慣れたことが逆に、作業のぞんざいさを招いたのではないかと。初心者マークが取れたあたりのドライバーが目視確認を怠るようになる停止線で止まらなくなるウインカーを出さなくなる、そんな気配が崩壊しかけた絵柄から感じ取れます。
 ストーリは相変わらずの絶賛ヘシ折り中で楽しいので、本当にもったいないと思います。
 第四巻での復旧を期待したいです。

 ところーで。
 オカルト研って詩月パイセン以外の部員って、いないのかな。
 やっぱ、パイセンの性格があれこれ濃すぎて、部員が長続きしないのかな。