彼岸明け (旧暦 如月廿二日)

 自衛隊で拳銃の暴発?
 ありえなくね?

https://news.yahoo.co.jp/articles/021cbf56cf62e62cd3445d0f2dc287e9d2c94b64

 って思ったら「9mm機関けん銃」とのこと。
 つまり、マシン・ピストルの暴発事故なのですね。それならまあ納得かな。
 つか、見出しで省略すなっ!

 いや実は恥ずかしながら自衛隊の「機関けん銃」を知りませんで。
 調べたところ(Web って便利♪)、mini UZI のコピー品のようですね。そりゃ暴発もするわ。
 ご存じのとおり、ウジはオープン・ボルト式。つまり、第二次大戦で大暴れしたトンプソンやシュマイザー、そして戦後の北米で人気だったイングラムなどと同じ、ぶっちゃけ旧態依然の構造です。安全面でも保守面でも問題多すぎる。

 んー。文だけで説明って難しいのですが。
 ルパンや銭形などが使っている普通の自動拳銃は、エジェクション・ポートつまり排莢口(発射後の空薬莢を吐き出すところ)が閉じた状態から、射撃のプロセスがスタートします。閉じてる→撃つ→開いて排莢→閉じる→撃つ→開いて排莢……の繰り返し。で、閉じた状態で握って周囲を警戒したりする。
 オープン・ボルトってのは逆に射撃プロセスが、排莢口が開いた状態をスタート地点にしてるんですよね。ほら、映画やアニメで、普通の自動拳銃で全弾撃ち尽くすとスライドやボルトが後退位置で止まってるでしょ。オープン・ボルト式ってのは、あの状態からスタートするんです。つまり、あの開いた状態から引き金を引くとガシャンと前進して弾倉の先頭弾を引っかけて持っていき持ってったついでで撃発が起こる。
 自動拳銃でそれやったのは日野式くらいなものですが。これがセミでなくフルオートとなると、けっこう多い。トンプソン、シュマイザー、グリスガン、ステン、百式機関短銃、ウジ、イングラム……等々。
 なんで多いかと言えば、構造がシンプルだから。製造におけるコストと手間を重視した結果ですね。その反面、実戦では開放状態で持ち歩くので異物が入りやすいという欠点が。しかもセフティが単純な物だから、暴発リスクも他の銃器に比べて高い。素人考えですが、過酷環境(砂漠とか密林とか)では使うのきついと思うのです。
 マウザーM712 、ベレッタ93R 、スチェッキンAPS などのフル⇔セミ切り替え式拳銃は、クローズド・ボルト式ですし。マシン・ピストルでも、旧チェコ・スロバキアスコーピオンがクローズド式です。もちろん自動小銃全般では、こちらの方式がデフォ。コストは高いですが、これらのほうが携行するに安全でしょ。
 イスラエルや旧共産圏はともかく、なんで自衛隊がこんな旧方式を採用したのか理解できません。

 最初に、自衛隊で拳銃の暴発はありえない、と申しました。
 うん。ありえません。「暴発」はね。
 自衛隊の現行拳銃は「9mm拳銃」で、これは SIG/SAUER の P220 を日本国内でライセンス生産した合法コピー品です。なので、暴発はありえません。
 P220 には手動セフティが無いんです。その構造で安全性能を実現、引き金を指で引かない限り撃発しないのです。よって「暴発」は起こらない。起こるのは「誤射」です。つまりは出来の良い銃ということですよ。グロック17 やベレッタ 92F にしなくて大正解だと思います。
 ただなあ、なんで P220 をベースにしたのかが判らん。
 当時、P220 には P226 という改良型があって、220 は弾倉がシングル・カアラム、226 はダブル・カアラム。つまり装填数に倍近い差があります。そもそも自衛隊がガバから 9mm拳銃に変更した理由が、米軍がガバから M9(ベレッタ92F)に変更したことに併せるためです。自衛隊は戦略上の理由で、米軍や NATO と拳銃弾&小銃弾を統一してますからね。だから機種変するしかなかった。
 なら、火力を考えて M9 同様にダブル・カアラムにすべきだったのに、なぜかシングルの 220 ……。あるいは日本人の体型を考えてダブルのグリップでは握り辛いと考えたのかもしれませんが(警察のニューナンブM60 やサクラが、まさにその発想での設計)。でも、モデルガンでの感触ではありますが、P226 って、例えば M59 ほど太くないですからねぇ。問題ないんじゃないのかなぁ。
(あくまでも妖之佑の主観で、なおかつモデルガンでの感覚ですが。P226 とハイパワーが握りやすさで同着一位、少し下がってグロック、かなり下がって M9 、そして越えられない壁の向こうでウロウロしてるのが M59 です。ちなみに、P38 はシングル・カアラムの中ではオートマグの次に握り辛い感じです。そして回転式のコンバット・マグナムやパイソンは、P38 より握り辛いです。M29 ? 訊くなっ)
 拳銃も機関けん銃も、その選択は平和ボケ国家の象徴なのかもしれません。
 と思ってしまいました。

 記事の事故については、「銃器を手にしたら、とにかく最初に装填の有無を確認する」という基本中の基本を怠った本人に弁解の余地はゼロです。
 ただただ猛省していただきたい。

 そのうえで、です。
 そもそも軍隊(あえて、こう呼びますね)における拳銃の重要性って低いのですよ。
 ほぼ唯一の携行火器が拳銃である警察官と違って、兵隊さんは拳銃以外にも機関銃だの小銃だの重機だのランチャーだの大砲だのと使う火器が多種多様です。しかも戦略的にも拳銃を組み込んだ作戦なんて特殊部隊くらいでしょう。たいていの部署では拳銃の役割は念のためのバックアップです。よって訓練もそれなりで、拳銃に割く時間があるなら他の訓練を優先。となるのが道理です。
 北米でも、警官に比べて軍人は拳銃の扱いが上手くない、とされてますよね。まあ、北米で特殊部隊の次に上手いのはコアな射撃マニアでしょうが(笑)。
 だからこそ、軍装品としての拳銃の機種選択は重要なのですよ。素人でも安全に使えるくらいの代物でないと部隊内で事故って、それが最悪、敗北に繋がりかねないから。
 機関けん銃は大型拳銃並みのコンパクトさなのですから、携行における心得も拳銃並みであるべきです。なら機関けん銃の選択も上は、きちんとすべきでした。

 最前線の自衛隊員のかたがたには、いつもお疲れ様です。と謝意を表明したいです。
 問題なのは前線に出ないで書類にハンコ押すだけの威張った連中だね。