(旧暦 弥生十日)

 懐かしいですな。

https://nlab.itmedia.co.jp/research/articles/172174/

 ただ、この作品について語るとき。
 原作とアニメとは分けて考えないと、いけません。
 このアニメの基本姿勢は、いちおう原作準拠なのですが、実際には初代チーフディレクター押井守監督が意欲的に(と言うか手前勝手に)挑戦した部分が大きく、それの影響で、キャラたちも微妙に違っています。

 以下、語りました無駄に長いです。
 開いて読んで、つまらなくても怒らないよーに。


 そも。
 原作の主人公は、もちろん諸星あたるですが。
 アニメは、EDに載るキャストを見ると、あたるを差し置いて、ラムが先頭になっています。つまりラムが主人公。
 そのためか、原作でラムの登場しない話でも、アニメではラムが出ます。
 まあ、だからと言って原作とストーリが激変する、ということではないんですけどね。
 しかも原作自体、初期と、それ以降とではスタンスが変わっていますから。

 高橋留美子さんがまだ大学在学中に始まった『うる星』は完全連載ではなく、短期連載および不定期掲載でした。それが謂わば「1年4組時代」。
 この頃は、あたる&しのぶは相思相愛のカップルであり、そこにラムが横恋慕で過激な邪魔をする。つまり、ラムは完全に引っかき回し役、お邪魔虫に過ぎません。断じてヒロインではなかったのです。これは、あたるとラムが十年後にタイム・スリップしたときの話でも判ります。諸星こけるの母親つまり、あたるの結婚相手はラムではありませんでしたから。
 元々、『うる星』という作品は、あたる&しのぶが、毎回毎回いろいろ入れ替わりに登場する怪物たちに恋路を邪魔される、というのが基本形です。そして第一話の怪物が鬼の父娘だった。ですから第二話では合わせ鏡から出てきた悪魔がメインであり、ラムは登場しません。その時点で本来なら、もう鬼は用済みだったわけです。ところが、トラジマビキニの効果もあってか人気が出たのでしょう(四人組も「ベントラ」唱えるほど切望してましたし♪)。ラムは再登場するだけでなく、重要レギュラーに昇格した。
 このあたりの経緯は、同時期に連載されていた鳥山明さんの『Dr.スランプ』と似ています。あっちの主人公は毎回毎度、自分の珍発明に翻弄される千兵衛さんであって、アラレは第一話の発明品に過ぎなかった。それが「可愛いから」という理由で主役に昇格。

 さて。
 高橋さんが大学を卒業なさって専業となり正式な週刊連載が開始された、謂わば「2年4組時代」に入ると、この人間関係が激変します。と言うか高橋さんが意識的に激変させました。
 面堂終太郎の登場ですね。
 高貴な家柄で大金持ちで文武両道でイケメンで女性に対して(だけ)紳士な面堂は、転校その日に2年4組の(そしてたぶん全校の)女子全員を虜にしました。もちろん、しのぶも例外ではありません。
 この時点で、あたる&しのぶというカップルは完全崩壊です。しのぶの想い人は、基本的に面堂となります。あたるは、もはや幼馴染みに過ぎないのです。
 そして同時に、ラムがヒロインに昇格。以降、熱烈アピールのラムと、ツンデレあたるとのラブコメ物として長期連載されることとなります。
 1年4組のときに示された、あたるがラムと結婚しない、つまりラムがヒロインでない決定的な事実については、後に登場する因幡くんのエピソードで合理的に解決させましたし。ラムのヒロインとしての立ち位置は、もはや揺るぎません。

 あたるが怪物に取り憑かれる「1年4組時代」のパターンから、「2年4組」では話が面堂をトラブル・メーカーとした学園ドタバタ物へと変わったため、物の怪退治担当だった錯乱坊とサクラさんが出てこなくなり、あれだけ毎回あたるにツッコミ入れていた、あたるの両親も出番が無くなります(面堂が委員長に立候補したときの演説にて天誅の想像図としてチラ見えただけ)。サクラさんこそ保健室にて(お色気担当として)現場復帰しましたが、錯乱坊と両親の再登場は、かなり後のことです。
 その間、舞台はほとんど友引高校。高橋さんが週刊連載のスケジュールに慣れるまでは簡略化すべきところは簡略化したということかもしれません。
 ついでですが、2年4組に進級した時点で四人組は別クラスになったのでしょう、姿を消します。以降、二度と登場しません。2年4組で、あたるの相棒として一緒に悪さするのは新キャラ・白井コースケです。

 アニメは、このタイミングで始まっているので、あたる・ラム・しのぶの三角……というか、あたる・ラム・面堂・しのぶの四角関係を前提として制作されたフシがありますね。ちなみに、アニメ版では最初から、つまり鬼ごっこの時点で2年4組です。
 原作で消えた四人組は、アニメ化のタイミングが良かったのか、アニメでは消されずにすみました(ただし、当初は担当声優さんが固定されないモブ扱いだった)。と言うか、パーマとチビはデザインそのものが変わっており(パーマのキャラデはコースケを元にしており、原作のコースケの役処もアニメではパーマが担当する)、原作の四人組とでは構成が違います。もちろん、アニメ版のほうがキャラの描き分けが優れています。原作の四人組にはアダ名すら無かったことと併せて、高橋さんが四人組をそこまで重視していなかった証拠でしょう。
 ついでに、千葉繁さんの怪演によって命を得たメガネも、アニメ版の四人組のキャラ立てに大貢献しましたし♪

 四人組以外で原作とアニメとで大きく違うのは、一つは友引高校です。
 原作では普通の鉄筋コンクリートと思われる、テンプレな校舎ですが。
 アニメでは、なぜか古風な木造モルタル二階建て時計塔の校舎で、窓もサッシではなく観音開きという。
 校長も原作と違い、当初は口髭&蝶ネクタイのお洒落な紳士でした。いつの間にか、原作準拠の眼鏡で禿で緑茶好きな校長に代わっていたのは、異動でもあったんでしょうか?(友引高校は区立)
 そして2年4組の担任は温泉マークではなく、アニメ独自の栗林三十郎という、問題児を抱えた学校を依頼を受けて渡り歩くフリーの雇われスパルタ教師という不思議なキャラでした。こいつの登場回はアニメのオリジナル話で、ぶっちゃけ、つまらなかった。以降、第2クールいっぱいまで、栗林は原作の温泉マークの代役となります。課外活動で、あたるが河童に攫われて沼に沈んだとき、自分のことを「懲戒免職だ」とか「退職金も出ない」とか「妻と腹をすかせた子供と老いた母がいる」とか、あたるの命より自分の生活を心配していたシーンが一番、判りやすいかな。原作の温泉マークは、栗林同様に世帯持ちなんですよね(アニメの温泉マークは「三十四歳、独身」とされており安アパートに独り住まい)。
 栗林の受けが悪いのか、校長を含めて反応が悪かったのか。第3クールから友引高校は、ごまかしの効かない校舎を除き、原作準拠に戻されました。2年4組の担任も温泉マークになりました、つかいきなり温泉マークが出てきて栗林が消えました。この段階で青春大好きな花和先生も着任、原作準拠の姿勢を強調していたような気配もします。ひょっとして小学館サイドから何か言われたのかな?
 もう一つは、友引高校を取り巻く環境。「しのぶさん好きじゃー」な仏滅高校総番こそ原作からのキャラですが、それ以外の周辺校、仏滅女学院などなどの連中はアニメだけの存在です。そして、そこから拡大したと思われるのが、例の立ち喰いのプロたち(せっかくなので、牛丼仮面も、ここに入れてあげよう♪)。押井監督と伊藤さんの悪乗りでしょうね。この設定は、後に『パトレイバー』や『紅い眼鏡』、『立喰師列伝』などで、さらなる広がりを見せます。
 おっと脱線しかけた。

 アニメ版『うる星』は第2クールまでの半年間、三十分二話構成でした。つまり一話が十一分程度。局やスポンサーが“ジャリ番”と考えていたのかもしれませんね。それゆえの窮屈さから、押井監督も迷走していたと思われます。雑で退屈な回も多かったんだよ。
 なので、きっと憂さ晴らしに、たまーに掟破りの三十分一話(全話通しての名作とされる『ときめきの聖夜』とか『スペースお見合い大作戦』とか)を出していたとも思えます。力入ってましたからね。
 それが第3クールからは一話構成となり、いよいよアニメの『うる星』も本格始動というわけです。
 実際、これ以降は傑作が続きます。TVSPからは伊藤和典さんが脚本参加されたのも大きいでしょうね。
『美少女は雨とともに』『レイ復活! 自習大騒動!!』『怪人赤マントあらわる!』『戦りつ! 化石のへき地の謎』『階段に猫がおんねん』『命かけます授業中!』などなど、そしてTVアニメ終了記念企画のランキング視聴者投票で一位に輝いた『君去りし後』も。これらすべて、原作を尊重しながらも巧みなアレンジを加え、良い方向に強化しています。
 こういった流れを受けて一旗あげたのが劇場版一作目『オンリー・ユー』でしょう。この頃のアニメ版の良さがすべて注ぎ込まれていた。聞くところによると、高橋さんも絶賛されていたそうで。
 これ以降も名作ズラリです。
 が、同時に、原作に無いオリジナルの実験的ストーリもチラホラ。『しのぶのシンデレラストーリー』『そして誰もいなくなったっちゃ!?』『恐怖! トロロが攻めてくる!!』などなど。
 中でも『みじめ! 愛とさすらいの母!?』は、劇場版二作目のプロトタイプとも言われるほどの異色作でした。

 そして、その劇場二作目であり、にも関わらず「高橋作品」ではなく「押井作品」であった『ビューティフル☆ドリーマー』(これの評価云々については、また別の機会に)を最後に押井監督は『うる星』を降板、ぴえろも退社。
 押井体制が終わったところから、アニメ版『うる星』の緩やかなる劣化が始まりました。残念ながら。
 それでも、後任チーフとなった、やまざきかずお監督を始め、スタッフの熱意は本物だったのでしょう。何とか盛り上げようというのは感じられた。
 迷作も少なくなかったけど、名作ももちろんあった。押井監督ほどのムチャクチャさは無いものの、充分に楽しめました。押井監督と同時に伊藤和典さんも降板されましたが、それでもこの頃は脚本家陣が充実していたんですよね。カラーが変わっただけでパワーは落ちてない、と言うべきかもしれません。
 製作が、ぴえろからディーンに代わった中での名作と言えば、一連の子ギツネ物でしょうか。アニメ版オリジナルのキャラであるカカシの三四郎くんが大人気となったのは記憶に残っています。

 ただ、それでも、どうしても徐々にパワーダウンもしくはマンネリ化しつつあったのは否定できない。
 それと、やまざき監督や脚本の井上敏樹さんあたりが、どうも押井監督の影を追いかけていた、あるいは押井監督の呪いに縛られていたような気がするんですよね。
 それが感じられる話はいくつもありますが、顕著なのが『退屈シンドローム! 友引町はいずこへ!?』でしょう。原作にある“缶ジュース”の話を大改造してしまい、『トワイライト・ゾーン』や『ウルトラQ』のようなストーリに作り替えて見事…………こけた回です。本人たち、何がやりたかったのか自分でも理解が中途半端だったと思いますよ、あれは。

 このためか、やまざき監督による劇場版『リメンバー・マイ・ラヴ』と『ラム・ザ・フォーエバー』は、ともに微妙な出来で。
 しかもこの二作品、作画や音響が一作目二作目よりダンチで高品質だから始末が悪い(苦笑)。
 三作目『リメンバー・マイ・ラヴ』は、テーマが一貫していたのでストーリは良いのですが、とにかく演出がダルだった。テンポ悪くてね。
 四作目『ラム・ザ・フォーエバー』は監督が三作目に不満だったのか、三作目と同じテーマを自らの脚本でやっちまった。なので、もう何も言いたくないレベル。メガネが愛用の“重モビルスーツ”を着たことだけが評価に値しますかね。(;^_^A

 巷で人気者の因幡くんが出るのは、放送終了から一年くらい経ってリリースされたOVA『'87』。
 原作最終章をアニメ化した『完結編』が劇場公開されたのは、それよりもさらに後のこと(TV終了後も連載は続いてたんだから、あたりまえか)。これは完全に原作準拠で変なことをしていないので、原作ファン向けと言えると思います(ただしオイラは、そこまで感じるものがなかった。原作完結でお腹いっぱいだったからか? TV版と雰囲気が違いすぎたからか?)。
 それ以降も、なぜかOVAが何巻か出ましたが、TV版のスタッフが解散していることもあり、その出来に届くわけもなく。
 なぜか劇場版六作目も作られましたが、もはや内容を憶えてすらいません。TV版の雰囲気が皆無だったからでしょうね、きっと。

 えーと。
 途中から完全にアニメだけの話題になっちまってますが。
 それは原作が完結までずーっとブレずに安定していたからに他なりません(マンネリ化はあったけど、その都度、新キャラ投入で乗り切ってた)。だから触れようがなかった。
 原作が変化したのは唯一、あたるたちが1年4組から2年4組に進級したときだけですし、これは作者サイドが判っていて意図しての舵切り。
 それ以外でのブレが皆無という点でも、高橋留美子さんの力量に感服させられます。

 一方、TV版はTV版で、森山ゆうじ西島克彦土器手司西村純二吉永尚之島田満、土屋斗紀雄、井上敏樹、網野哲郎……等々(以上、敬称略)、その後に活躍する人たちが関わっていたという点でも重要なアニメ作品だった。
 いろいろな面で、その後のアニメ作品群に与えた影響は大きかったと思います(この流れを宮崎駿監督はネチネチ批判しておられましたけどね)。