百鬼夜行

 似ているようで非なるもの。
 僵尸とゾンビ。

 僵尸は昔の中国で言い伝えられてきた、遺体が勝手に動いて生者を襲うもの。日本だと死人憑が近いかもしれません。要は、ほぼ吸血鬼やハリウッド系ゾンビに近いアンデッドですね。
 ちなみに遺体が動くという恐怖現象は世界各国で知られていたらしく、あちこちにかつて屈葬という習慣があったことは、ご存知のとおり。手足を折り曲げて埋葬することで、万が一動き出しても満足に移動できなくする予防策ですね。日本でも土葬の時代、遺体を座らせる姿勢で桶に入れてから埋めていました。棺桶ですね。ちなみに吸血鬼の寝床を棺桶と言うのは、まちがいですから。あれは棺ですから。桶じゃありませんから。

 ゾンビはブードゥー教における宗教的制裁。
 ブードゥーの司祭が有罪と認めた者にゾンビ・パウダーという薬(思考力を奪う劇薬らしい)を処方しゾンビとする。ゾンビとされた者は一切の人権を剥奪され、以降死ぬまでゾンビとして使役されることとなる。つまりは奴隷。

 僵尸は香港映画にて演出に適した特性を与えられ、日本語訳では「キョンシー」という名を貰うこととなる。それが今、漫画やアニメやゲームで知られる一般的なキョンシーの姿。あの腕や脚を張ってピョンピョンするのは死後硬直の影響であり、キョンシーキョンシーであり続ける限り、なぜか硬直したまま。時間経過で硬直が解けてヌルヌル動くキョンシーがあってもいいように思うが、あるいは道士の呪術で腐敗を止めているのかも。
 一方、ロメロ監督を開祖とするハリウッド系ゾンビは、北米が土葬であることから実態が腐敗死体なため、あのヨロヨロフラフラした感じになる。と言うか、ならざるをえない。噛みつかれた者がゾンビ化するのは吸血鬼からのパクリね。

 どっちが怖いかと問われると、どちらも怖いですが。
 ヘルシング教授の知識が対応策となる吸血鬼みたく、腕利きの道士であれば制御できるキョンシーのほうがマシかな。
 ハリウッド系ゾンビに効く必殺技って、ないもんね。あいつら足を折っても手でズルズル追いかけてくるし、ナパームとかで燃やせば墓地に灰が降り注ぎ、むしろ増えちまう。さしもの教会もゾンビに対しては無力。
 ロメロ監督も、とんでもないものを生み出してくれたものです。