初水天宮 (旧暦 師走十一日)

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 『ガンズ n' プライド 01』
  伊藤イット/ヤングガンガンコミックス


 あー。自分、こーゆーのをやりたかったんだな、たぶん。
 と生意気にも思ってしまいました。まあ私にゃ、できる力量がないんですけどね。(;^_^A
 黒髪ロングに前髪パッツンお姫様カットも超ど真ん中♪

 ザックリ言えば、殺し屋、銃器、組織、復讐などの物騒な単語が並ぶガン・アクション作品。
 青年誌掲載なので多少エロい箇所もありますが、露骨なエロにまで至っていないのは好感が持てます。
「ヴィヴィ」と名乗る本名不明の主人公。彼女の武器は「サタデー・ナイト・スペシャル」と俗に呼ばれる大量の粗悪銃。これらを躊躇なく次々使い捨てていくという斬新な戦法が面白い。
 いやまあ、撃っては捨て撃っては捨て、と言うと某保険屋の調査員メリル嬢がハイスタンダード・デリンジャーでやってましたけどね。ただ、あっちには捨てたのをチマチマ拾う回収役さんも、ちゃんといた。という違いが(笑)。
柳生一族の陰謀』(TV版)で、柳生の刺客どもを迎え討つ十兵衛が、これまた安物の刀を大量に隠し置いて使い捨ててましたっけ。相手が大人数だったための策でしたが、時代劇では初だったかもな。ちなみに余談ですが、十兵衛の首を取ったと思いきや最後には十兵衛に斬り捨てられた刺客の卑怯者リーダーは快傑ズバットだったぞ。
 とある一殺五百両の子連れ刺客は愛用の胴太貫(太平の世には貴重品な実戦向けの戦場刀)を初太刀で投げるという奇襲をするし、戦況によっては捨ててしまう。まーなんでか元の鞘に収まりますけどね。自動帰還機能でもついてるんかい?(笑)

 へぼ将棋 王より飛車を かわいがり

 という有名な川柳の真逆を行く戦法が、この作品のキモなのですよね。
 ヴィヴィがためらいなく銃を捨てられるのは、それがゴミ同然のガラクタだからというのが大きく。要は、捨てても次の補給が容易ということ。そんな多種多様なジャンク品の群れをなぜか確実に使いこなすのが彼女の才。その能力ゆえ、組織に狙われている模様。

 ヴィヴィを狙う殺し屋たちを序盤にズラリと紹介してしまう手法は、ちょっと心配だな……と思ってたら、どうやら早々にモブで終わりそうですね連中。
 ひとまず安心しました。

 以下、ちょいとコアな話になりますので、畳んでおきます。
 つまらん戯れ言であり、見当違いなことも言ってるかもですので、先にお断りしておきます。
 開いて読んでから怒らないよーに、お願いするのですよ。











「ヴィヴィ」の自称は、彼女の恩人であるライアンの組織でのコード「No.66」を表すローマ数字「VI VI」を英文字の「ViVi」に見立てて読んだものと思われます。
 ただし、細かなことを言うと「sixty-six」はローマ数字では本来「LXVI」となる。呼ぶときに「No.」が付いているうえに、この番号が組織でのランキングを表していることが明確に描かれているので、「ろくろく」ではなく「ろくじゅうろく」のはず。
 これはもう、識別票をデザインした組織の人間が無教養だったと解釈するしか、ないですかな。

 北米で粗悪銃のことを「Saturday Night Special」と呼ぶのは、安物の銃器が犯罪に使われやすいこと、その犯罪が週末に集中すること、などが理由とされています。
 あくまでも想像となりますが。
 頭の空っぽな連中がサタデー・ナイトにフィーバーしたい。けどフィーバーできるだけのカネがない。ポケットに少しならある。なら、その小銭で質屋や古道具屋で投げ売られている安物銃の中古品を買って、そいつ使って弱そうな奴からカネを巻き上げようぜイェイ♪
 という流れではないかと。
 少し考えれば、いくら低脳でも数百~千ドルもするS&Wやコルトなどの一流品を買って“小遣い稼ぎ”する大バカはなかろう、と判ります。お高い銃を買うそのお金をディスコに持ってけば派手にフィーバーできるわけですからね。強盗と言っても、クズどものそれはタバコ代や酒代を稼ぐ程度の行き当たりばったりであり、計画を立てるような大がかりな強盗とはレベルが違うのですよ。なので“仕事”への投資すなわち使う銃器もビタ銭で買える粗悪品に限られるという方程式。それが「サタデー・ナイト・スペシャル」。

 ヴィヴィの親代わりだったライアンがヴィヴィの才能に気づいたシーンでの独白は、少し引っかかりました。
 某『美味しんぼ』みたいな長ったらしい解説的台詞にならないよう簡素化した結果だとは思いますが、あの台詞では読者が銃の癖と精度をごっちゃにしかねません。
 銃の癖とは。例えば、真ん中を狙っても必ず右に寄ってしまう、というようなことを指します。これは精度とは別のもの。実際、銃の癖は調整可能な照準器を使うことで解決します。あるいは撃ち手が癖を理解したうえで撃てばいい。右に寄る癖を持つ銃なら、真ん中より左に狙えば弾は真ん中に来るということね。
 競技用のカスタム・リボルバーを作る際、こだわる職人さんはシリンダーを厳選するうえに、そのシリンダーのチャンバー(薬莢を装填する穴)一つひとつにナンバリングを刻印します。要するに、六連発リボルバーなら六つの、五連発なら五つの癖を持っているということ。ナンバリングで癖を見極めろと射手に言っているワケ。
 一方の精度は、同じ所を狙って撃った弾がどれだけ一点に集中するか、あるいはバラけるか、というもの。精度が良ければ的に空いた穴は一つに見えるだろうし、精度の悪い銃なら撃った数だけ穴が空く、あるいは一つも穴が空かない。これは銃身の出来に限ったことではなく、引き金から撃針までのプロセスのパーツすべてが影響する。パーツ同士の噛み合いがガタガタだと話にならないってコトね。グリップの形や質も影響するし、それ以前に設計自体がゴミクズという物もあるだろうし。
 つまり、癖が強くても高精度な銃(例えば必ず同じ分だけ右に寄るなら、それは精度的には上物と言える)もあれば、弾道がランダムすぎて宝くじ並みに当たらない代物もある(酷いのだと弾が横に飛ぶそうな……)。サタデー・ナイト・スペシャルは、このランダムに飛んでしまうほうなので、射手の心がけでどうなるものでもないんですよ、本当のところは。
 まあ漫画ですから、ヴィヴィは天然の超高性能手ブレ補正器を備えていると解釈すればいいんだとは思いますけどね。それでも癖と精度の混同は、よろしくない。

 ヴィヴィに共闘を持ちかけたブラック・ハンドが峰不二子も愛用している FN M1910 を使っている点を、雑魚助が「骨董品」とバカにしてますが。あれは消音器を使うためですよ。
 考証の甘い作品だとリボルバーや大型オートに消音器を付けてたりしますが(つか、ほとんどが、このケース)、あれはない。あかん。全然バツ。『ルパン三世』も『シティーハンター』も、この点ではダメダメ。
 リボルバーは、その構造上シリンダーとバレルの間に隙間があるため、消音器はほとんど意味をなさない(例外はナガンM1895)。また大型オートは、たいていショート・リコイル式でバレルが前後する構造なので、消音器を付けると動作に影響しジャムの原因にもなりかねない。消音器が有効な連発銃はシンプル・ブローバックのみなのですよ。だから M1910 なワケ。
 まあ、一番確実に音を消せるのは単発銃での使用ですけどね。イングラムなども激発音は消せるけど、メカの動作音(今は亡き月刊『Gun』誌によると、タイプライターを早打ちするような音だそうな。『アップル・シード』でやってたろ、「チキチキチキ」って)がする分、単発銃に比べると静粛性で不利なんだとか。

 そんなお詳しそうな作者さんですが、やっちまうんですね。筒内破裂を……。
 前にも言いました。ただの金属の塊が銃口や銃身内部に詰まっても、次弾の発射で爆発など起きません。そもそも次弾が発射された時点で、すでに薬莢の火薬は燃えている。拳銃弾に比べて小銃弾は、ゆっくり燃える遅燃性パウダーを使ってはいるが、小銃は拳銃よりずっと頑丈なはずなので、結果トントンだと思う。
 銃身詰まりの結末は、せいぜい銃身が歪むのと、普段より燃焼ガスが勢いよく噴き出て射手が火傷をする程度でしょう。強力な小銃だと銃身がちぎれていってしまうこともありますが、射手側に襲いかかるわけではない。また、火薬不足などによる停弾の場合、運が良いと次弾が押し出してくれることもあるそうですよ。
 銃身というか筒身内部で爆発が起こる事故は、弾頭に火薬を仕込んで命中時に爆発させるタイプを使用したケースに限られます。このタイプの弾であれば、もちろん拳銃でも起こりうる怖~い事故。
 昔、月刊『Gun』誌で、.38spl だったか9mmパラだったかのハロー・ポイント弾の穴に .22ショートあたりの小さな薬莢を逆向きに押し込んだものを撃って「ダムダム弾じゃー」とか爆発させて喜んでたけど、無茶苦茶してたんだな当時のリポーターって。
 通常の金属弾頭使用の状況下、銃口詰まりごときが原因で銃そのものがバラバラに吹っ飛ぶなら、それこそサタデー・ナイト・スペシャルでしょ(笑)。

 ヴィヴィをバルバトスの面々が包囲したとき、銃口を誘導して同士討ちの配置に持って行かれたことを、ブラック・ハンドは「まるでメキシカン・スタンドオフだ」と自虐してました。
 これも問題。
 メキシカン・スタンドオフは複数の敵同士が銃を突きつけ合って動くに動けない膠着状態のことです。日本語で近いものは三竦み。同士討ちとは違います。
 これなー。標的を大勢で取り囲み勝った気でいて実は味方同士で狙い合った同士討ちの配置になってる大馬鹿さを皮肉った専門用語というか俗語があったように記憶してるんですが……何だったかな?

 ついでなので、もう一点、指摘せずにおれない箇所を。(;^_^A
 第3話に登場した、西部劇の早撃ちにこだわるイカレた殺し屋ですが(こーゆー時代錯誤キャラ、大好き♪)。
 彼のテク紹介の部分で、「ファストドロウ」の呼称を用いて早撃ちの解説をしていますが……いろいろと残念。
「銃を抜き 撃鉄を起こし 照準を合わせ 引き金を引く」という四つの動作をコンマ3秒で行う、としています。
 ですが、実際には後半の二つ、「照準を合わせ」と「引き金を引く」は、やっていません。いえ、結果的にはしてるんですが、四動作ではないのです。ついでに言うと、解説されている西部劇のテクは「ファニング」です。絵を見ると左手で撃鉄を起こしていますので、まちがいない。「fast draw」は単純に「早撃ち」を意味する言葉です(妖之佑は「quick draw」と認識してますが)。
 あらためてファニングというテクについて申しますと、「銃を抜き 撃鉄を起こす」だけです。これだけ。これだけだからこそ、コンマ3秒で撃てる。チマチマと狙いつけたり引き金を引いてたら間に合いません。だからこそ、ファニングという特殊な撃ちかたが編み出されたのです。
 基本的には連射に使う技術なのですが、初弾もこれのほうが早いのですよ。
 では、今一度あらためまして。
 利き手で銃を抜き、抜きながら反対の手で撃鉄を起こす。これだけで敵を倒せるのです。
 実は銃を抜く、あるいはグリップを握った時点で引き金を引ききっているのです。そして、ずっと引いたままにする。これがポイント。
 銃を抜ききったところで、狙わずとも自動的に銃口は敵に向いている。この瞬間に起こしきった撃鉄が解放されれば、引き金が引かれたまま(撃鉄のロックが掛からないまま)なので撃鉄は落ちる。つまり発射される。続いて撃鉄を起こし続ければ連射となるワケ。
 自動的に銃口が敵に向いている、ということの補足をしますと。無意識に銃を水平に構えるよう徹底的に訓練するのです。そして、銃を構えるときは真っ正面に向ける癖もつけておく。これが完全にできるようになると、銃を腰だめに抜いた時点で、その銃口は真っ正面の腰の高さを狙っています。つまり向き合った敵の土手っ腹。だから、わざわざ狙う必要がない。気の遠くなるほどの反復練習の積み重ねで得られる技術ですが、これがないと西部劇の世界では闘えない。
 ちなみに、この照準器を見ない狙いかたは、ダブルアクション・リボルバー時代のFBIでも採用されていました。クラウチング・スタイルという構えが、それ。腰だめに水平に構えた銃を肘を中心に寄せることで自分の腹の位置に置く、そうすると銃口は敵の腹を向いている。このまま撃てば、拳銃弾の射程距離の範囲であれば、近くても離れていても相手の腹に命中するという怖い撃ちかたです。
 なぜ日本語の早撃ちが本場では「ファスト・ドロウ」なのかも、これでお判りでしょう。「ドロウ」とは引き抜くということ。ほら、『遊戯王』で次のカードを取るときに言うでしょ。あれですよ。だから「ファスト・ドロウ」を直訳すると「早抜き」。抜いた時点で撃ってるから「ファスト・ドロウ」なのですよ(日本のモデルガン早撃ち愛好家の間では「抜き撃ち」と訳している所もあるらしい)。ダブルアクション・リボルバーでもオートでも、実戦では早く正確にホルスターから抜くことが大事とされていますしね。
 いじょ。



 いろいろ文句も申しましたが。これも好きゆえと解釈していただけると助かります。
 内容は面白いのですから。

 あー、こーゆーの描ける人が羨ましい。