(旧暦 神無月三日)

 平賀源内を「江戸時代のエジソン」と呼び、その手の空想作品に超万能天才科学者キャラとして登場させることに、うんざりしている。
 当然、それをやる作品は駄作としか思えない。つか実際、駄作だし。

 源内は別に発明王ではないし、科学者ですらない。ただ、多少の理系思考回路を持っただけの山師あるいは企画マン。
 例の「本日、土用丑の日」からコピーライターの才ありと考える線もあるが、これもライターというより宣伝屋のほうが近いと思う。
 要は人を上手く丸め込んでカネを出させる名プロデューサー。断じて発明王でも科学者でも技術屋でもない。むしろ“源内髷”とか文芸とか西洋絵画とかの、美的発想のほうが光る。
 発明の方面では。エレキテルこそ有名なものの実際は渡来品を見よう見まねで修理・復元したに過ぎず、静電気の原理をまったく理解していなかったうえ、相手をビリッとさせるのを“治療”と称して料金を巻き上げて、中には火傷をさせた“傷害事件”にまで発展している。火浣布(石綿)を作ったとする説もあるが、これも実用化までには至らず。やはり「町の自称発明家」の域を出ない。

 ただし、トーマス・エジソンの言動を知ったうえで↑の呼びかたをするなら、当たらずとも遠からず、かもしれない。
 エジソンも発明家であると同時に実業家であり、彼がGEを創業したことは有名。そして事業のため、めぼしい技術者たちに手当たり次第、声をかけては「共同開発」の話を持ちかけ、最終的には、そのアイデアを乗っ取る(かのダーウィンも目をつけた研究者たちに次々「共同研究」を誘いかけていたと聞くし、欧米での常套手段なのかな?)。エジソン名義の発明の過半数、ともすれば大半は他者の発案をいじったもの。
 そんなあれこれが源内に似てなくもない。要領が良いんだよね。
 いや、源内はエジソンほど要領良くない。むしろズサンで、いくつかの藩には足を踏み入れられない身だし、投獄までされてるし、最後は獄中死だし。
 エジソンは大成功した経営者。源内は、ときどき小さな成功を挙げる程度の企画マン。
 比較すれば明らかに 源内<<<越えられない壁<<<エジソン となる。
 源内をあえて表現するなら、“超劣化レオナルド・ダ・ヴィンチ”あたりかな。

 チョンマゲ時代の作品に登場させる科学者やエンジニアは源内以外から起用してほしい。
 源内だけは不適格。

 まあ、「日本のエジソン」と言うなら、からくり儀右衛門こと田中久重を置いて他にいないよね。
 極めて優れた技術者であったうえに、芝浦製作所(後の東芝)を創業した実業家でもあるわけだし。