鰻重より鰻丼

 さて。
 土用丑ですが。

 その前に「土用」とは何か。

 ざっくり言いますと、土用とは「季節の変わり目」に相当する期間を意味します。
 そう。あまり知られていないことですが、土用は四季それぞれに、つまり一年に四期間あります。
「土用丑」とか「土用干し」とか、私たちが一般的に「土用」とするのは夏の土用ですね。なので、梅雨から真夏になる切り替わりどき(旧暦での暦のうえでは、夏から秋への移行期間となる)。
 季節の変わり目と言えば体調の崩れやすいときでもある。というわけで、土用の期間は普段以上に健康に気をつけましょう。そんな警告という解釈でいいと思います。
 もう一つありまして。土用は所謂「土属性」の期間でもあるので、この間は土をいじってはならないともされています。土の神様がお怒りになるのだとか。まあ、農業など、そうも言っていられないところもありますし。要は大規模な掘り返しは、やめておけ、というレベルではないかと。比較的身近な話ですと、新築や改築に伴う基礎工事あたりかな。下水工事などのために庭を掘るのも、あかんと思う。墜落現場で見つけて、つい持ち帰ってしまった宇宙人の死体を庭に埋めるのも、たぶんダメ。

 で、本題。
 土用丑の鰻。
 例の山師・平賀源内が始めた、という説が今では定着していますが。実際のところは、源内説も一説にすぎないそうです。
 別の説で、バテやすい夏の土用丑には「う」の付く食べ物を食べて精を付けた、という話もありまして。あるいは源内は、これに乗っかったのかもしれない。
 実際には、鰻も魚ですから、肥え太るのは秋から冬にかけて。当然、旨いのもこの頃。初鰹より戻り鰹のほうが旨いのと同じですね。て言うか、源内説で言うなら、そもそも鰻屋が源内先生に相談したのは「夏場は売れ行きが悪い」からであって、江戸の庶民も「夏の鰻なんて、てぇして旨くねぇや」と知っていたことの証しでもあるのですよね。

 とは言え、食欲減退を起こしやすい夏場に、土用丑を言い訳に鰻を食べてタンパク質や脂質、ビタミンAなどを補給するのが理にかなっているのも事実。
 昔の人々は、この風習のおかげで暑い夏を乗り切ったことでしょう。
 この意味で、「初物七十五日」なる迷信(城島リーダーが頑張ってますよね♪)に比べ、土用丑の鰻は、はるかに合理的風習ではあると思います。山師で詐欺師な源内も、たまには良い事をするようで(笑)。