三隣亡 (旧暦 水無月六日)

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 『幻魔大戦
  平井和正石ノ森章太郎/秋田文庫


 すべては、ここから始まった。

 シリーズ全体の時系列で言えば、後のほうになるそうなんですけどね。
 でも、シリーズ第一作目なので「始まり」には違いない。

 かなり久々に読んだわけですが(東丈って、あんなバカヤロウだったっけ? まるで第一作目『宇宙戦艦ヤマト』の古代進に匹敵する直火型バカだわ)。
 まー、今の視点で見れば、実にオーソドックスだったんですね。
 宇宙のすべての生命を絶とうとする幻魔大王と配下の軍勢。それに対抗するフロイ率いるエスパー軍団。
 滅ぼそうと攻めてくる巨大な敵と、生き抜こうとする人々。この対立は、やはり王道ですね(『009』天使編も、そうだな)。
 幻魔大王を「大宇宙の意に沿わぬ生命体の発生を適切に処理するプログラム」つまり「システム中に沸いたカビを自動的に掃除する装置」と解釈すれば、それこそ光瀬龍さんの『百億の昼と千億の夜』と同じ構図になります。幻魔大王は「シ」もしくは MIROKU 、フロイは転輪王、丈たちは阿修羅王たち、そしてドク・タイガーはナザレの男あたりか。
 実のところ、これ以外の幻魔作品をまともに読んでいませんので、たいしたことは言えません。なので平井さんの意図も、よく判っていません。ただ、小説版『幻魔』執筆期間に平井さんはとある新興宗教にハマって、少しおかしくなったことくらいしか。いやー、このあおりでウルフガイも『人狼天使』という、えらくブッとんだ物になりましたからなー(遠い目)。
 石ノ森さんも石ノ森さんで、独自に漫画の展開をしておられましたが。店頭でコミック本を見つけて「うわっ、ついに続編か!」と喜んで手に取ったものの、ササッと見た限りでは何もつながりが見えず、がっかりしたことを憶えてますよ。

 実際、尻切れすぎましたからねぇ、この一作目。
 たぶん打ち切りだったんでしょう。それに合わせて、何とか辻褄合わせで「完」にまで持って行った。大変だったろうし無念だったでしょうね。
 その後の小説版、漫画版ともに、えらいことになったのは、この反動なのかもしれませんね。これらをしっかり追いかけている人もおられるのですから、感心します。

 これのアニメ化作品である映画『幻魔大戦』が評価、真っ二つでね。
 原作、つまり一作目のコミックを知らない層には高評価。
 原作を知る、そして好きな者にとっては、酷い原作レイプ。だってサー、あの強敵である幻魔が、あんなあっさり倒されるなんて……ありえへんわ。
 りんたろう監督は当時から原作レイパーとして、その手腕を発揮してましたからね(ハーロックとかハーロックとかハーロックとか)。この人の演出姿勢をどう捉えるかでも、映画版の評価は分かれたと思います。

「たら」「れば」を言ってはダメなんでしょうが。
 第一作目が打ち切られず、そのまま進行していたら。
 と思うと、やはり残念でならないのです。

 ところで、この文庫版。
 サンデーコミックス刊行時には割愛された2頁が巻末に収録されています。
 …………て言うかサー。
 せっかくの収録なら、そのまま本編に入れたら、つまり連載時の状態に復元したらよかったんでねーの? なんで、わざわざ巻末に?
 やっぱり秋田書店の編集って、感性が独特で、ついていけませんね(各作品のサンデーコミックスやチャンピオンコミックスの収録状態が、とにかく酷いものだからね)。