(旧暦 皐月十一日)

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 『なんで生きてるかわからない人 和泉澄25歳』全二巻
  あぬ/ゼノンコミックス


 一回、通しで読んで……うーん。
 二回目、ゆっくり読んで……うーん。
 三回目、行ったり来たりを繰り返して時間をかけて……ああ。

 和泉さんが超極端なだけで、無神経なバカ以外、誰にでもある悩みだこれ。
 と、ようやく納得いきました。
 妖之佑自身が同級生一同に見事なまでに置いてけぼり喰らってる側だからよく判りますが。実は、もっともっと広い話なのかもしれない、と。
 だからこそ、和泉さんの周りにいる、明るくて人生楽しんでるような奏ちゃんも、しっかり自分の道を進んでいるように見える川上店長も、それはそれなりにちゃんと悩みを抱えてた。ときどき来る内海マネージャーも、描かれてないだけで、たぶん胸の内は同様だと思う。
 で、そんなお三方は、それぞれ和泉さんの悩みを解決(?)する道の提案を役割としている、ってあたりでしょうか。内海さんは逆に和泉さんを不快にさせちゃいましたけどね。店長の場合は、そもそも和泉さんに伝わりませんけどね(ま、そのうち打ち解けて話とかするかもですが)。

 和泉さんの
「少しずつ真っ暗な未来に進んでいる」
 という漠然とした不安は、奏ちゃんの
「今の私より優れている部分が何もない…ただ劣化した私がいる」
 というストレートな言葉で明確にされます。
 で、その延長線上には店長の業がある。店長は店長で変えてかないと将来きついと思うですよマジで(若いうちはネギマ喰ってりゃ幸せだろうけど、歳取ったらどうすんの? ってコト)。

 内海マネージャーの助言が、和泉さんの悩みのど真ん中を貫いて傷つけてしまいましたが。店長も、そんな和泉さんに同調してましたが。
 別視点で言えば、内海さんの忠告は正当でもあるのですよ。
「今の自分が安全なところにいるから言えるんだ」とムカついている和泉さんに反論させていただきますとね。

 松本零士さんの『男おいどん』にありましたっけ。大山とたまたま目が合ったホームレスの中年男が、
「ああ、俺にもあんな若い頃があった。あの頃に戻れたら……」
 と悲しくも羨ましそうな顔をして心の中でつぶやくんですよ。
 で、大山は大山で、
「おいどんも、あんなふうになるんだろか……」
 と不安になってしまう。

 内海さんは和泉さんよりたった七つ上とまだまだお若いですが、もっと歳上からすれば和泉さんの「25歳」は本当に若い。それこそ「なんとでもなる歳」なんです。たぶん探せば世界線の分岐点が山ほどあるはず(笑)。
 和泉さん自身「できることなら昔に戻りたい」って言ってますよね? 要は年齢層がシフトしているだけで、内海さんの言葉は、和泉さんが思っていることと同じなんですよ。
 それに「私のことたいして知りもしないのに」と怒る和泉さんだって、内海さんの何をどのくらい知っているというのでしょうね? まあ、そこは「言わぬが華」……いや、喧嘩になるから「口は災いの元」でございますが。

 どこかで見かけたか聞いたかしたよな~。
 焦っている自分は実は未来から神様が送ってきてくれた自分なんだよ。
 って話。
 つまり、それこそ自分はたった今、未来から過去に戻って、やり直しのスタート地点に降り立ったところなんだ、ってこと。

 要するに「いつやるのか? 今でしょ」に尽きるんですよね。

 別にバタバタと慌ただしくスタート・ダッシュする必要はないけど。ゆっくり歩み始めてキョロキョロすれば、いいんじゃないのかな。
 そんなお話だったと思います。

 和泉さんは周囲への気配りができて仕事も丁寧だから大丈夫だと思う。
 常連のお客さんたちから「店員さん」でなく「和泉ちゃん」と呼ばれるくらいには慕われてるわけだし。