庚申 (旧暦 卯月十九日)

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 『ダンジョン飯』6、7
  九井諒子/ハルタコミックス


 第5巻も、かなりの山盛りでしたが。
 6巻7巻も、なかなかですね。もはやギャグ漫画とは言わせない。

 ライオスの「すごくかっこいい」という大馬鹿台詞は置いときまして。
 魔物として皆の前に立ちはだかったファリンの強さがハンパなく。まあ炎竜の力に加えて、ファリンの魔法ですからね。そりゃヤバい。さすがのシュロー配下でも歯が立たない。

 そう、シュローの一行。侍と忍者の部隊ということで日本を意識した、ますますもってRPGに出てくる東国って感じですね。扉絵によれば、ライオス一行が最初に炎竜と出くわすまでも、ちゃんと主であるシュローを護衛していたようで。肝心なときに出てこなかったのは、あれか、直前あたりでダンジョンの迷路か何かではぐれた、ってトコかな。まあ、いたとしても、マイヅルさんはシュローしか助けなかっただろうけど。
 で、あれこれあって険悪になったライオスとシュローは青春的殴り合いによって、いちおうの和解。

 ここで意外だったのは、例のカブルーの言動でした。ライオスの化けの皮をはぐ、とか言っときながら、冷静にライオスのことを見ており、しかも怒るシュローを巧みに制する。カブルーがあれこれ気遣いをしなければ、メチャクチャになってましたね。
 カブルーの行動あれこれの根底は、7巻で西のエルフたちと対峙するときに明かされました。
 魔物によって家族と故郷を失った。だから魔物は嫌いだし苦手。悲劇を繰り返さないためにも迷宮はすべて封印すべき。でも、魔物がトラウマな自分では迷宮攻略は無理。なら腕の立つ冒険者の攻略を支援しよう。
 という、かなり真っ当な思考回路なことに、びっくりしました。その過程で変わり者ライオスのことを知り、実はあれこれ相当回数アプローチを繰り返してはスルーされていたという(苦笑)。
 だとすると、仲間に見せたあの邪な表情と「化けの皮」という悪意ある台詞は何だったのかと疑問に思います。作者の中でキャラが固まりきっていなかったのか、あるいは仲間に対しても全部を語らなかったのか。が、今回の事情は心の中の台詞なので、本当のことだと思います。カブルーは自己利益そっちのけで地上を守ろうとしている。今はライオスが支援するに足る存在かどうかを吟味している段階。
 この間、宝石類や麦の件は水に流したようですね。チルがマルシルに「黙ってりゃ判りゃしない」と言うのを離れた所から、カブルー側のハーフフットが聞いてますから、後々もめることになるかもですが。

 さて、ファリンを助ける方法ですが……どうやら、なさそうです。
 7巻で、アセビあらためイヅツミが半人半獣であることにからんで。
 マルシルの説によれば。炎竜に術がかけられていたため、本来なら混じらないはずの人とドラゴンの魂が混じる事態となってしまった、とのこと。
 魂を卵に例えた話からすると、いったん混ざった魂を分離するのは不可能らしい。つまり、ファリンは狂乱の魔術師から解放され正気に戻ったとしても竜の体を自在に操る獣人として生きるしかなさげ。ライオスの夢に出てきたファリンは、このことを言っていたのですね。
 もはやギャグ漫画とは言わせない、ハードな展開となってきました。

 もちろん、本来の魔物食話も健在で。

 夢魔を蛤みたいな貝にしたのは流石ですね。伝承によると蜃気楼は海底に棲む巨大蛤の吐く息だという。蜃気楼→幻→夢、という連想で、この設定になったのでしょう。素晴らしい思いつきですね。
 なお、そんな貝の魔物が実はドラゴンの一種だとしたのは、法螺貝からのものだと思われます。法螺貝が成長すると竜になるという伝承があるのですよ。本当に、よく調べ込んでるなぁ。
 この回の扉絵のマルシルが破壊力ハンパない!

 食べ物ではありませんが、シェイプシフターの話も面白い。
 ライオスたちと一緒に読者も偽物探しできる構造になってますからね。いや本当に丁寧な仕事です。
 あー、あの最初に偽物判定されたマルシルは、たぶんセンシのイメージだと思う。やたら黒魔術を連呼してたからサー♪
 マルシルが怒ってた、ファリン似のライオスは、そんな反面、実はマルシルのイメージでしょう。つまりマルシルはライオスのことを「ファリンのお兄さん」という認識でい続けているんだと思う。
 最後に出てきた本体は、まんま九尾の狐ならぬ九尾の狸。そりゃ幻覚操るの得意だわなー。
 あれ? そう言えば、シェイプシフターの死体は解体して調理せんかったのかな?

「やっぱお前 聞こえてたんじゃねーか」
 は、まんま“見える人あるある”のアレですね。怖い怖い。
 彼らは、やはり黄金城の住人だった人たち。その人々が住まう村で、事の真相が明かされました。
 デルガル王の孫であるヤアドの言うことにゃ……って、孫? 子はどうした? まあ、いいか。
 やはり、あの道化だった黒エルフこそが狂乱の魔術師であり迷宮を作って人々の死を禁じた張本人。その名をシスル。
 ケン助の柄がダンジョンクリーナーの影響で獅子顔になり、それこそが黄金城の守り神である翼獅子。あれは、たぶんクリーナーのせいで変形したんじゃなく本来の形に修復されたんだと思う。だって、そもそもケン助を持っていたのは、まさに翼獅子を象った甲冑だったからね。動く鎧が年月のせいで型崩れでもしてたんでしょ。
 ヤアド、無事だといいのですが……。

 まさかスカイフィッシュを持ってくるとは思いもせんかった、センシの過去エピソード。
 これも上手いよなぁ。チェンジリングなる代物を巧みに使った話で、唸らされました。
 しかし、センシの年齢が判らなくなったな。坑夫時代に三十六歳で青年というよりは少年に近い印象。同じドワーフのナマリが六十歳で、こちらは、いちおうまだ娘さんって年齢だと思われ(カブルーの視線にリンが怒ってたからね)。人間換算すると、坑夫センシは十五、六歳で、ナマリは二十六、七くらいか? そこから強引に導き出すと、今のセンシは中高年で「おっさん」とも「じぃさん」とも言われるようなので、人間換算で六十前後? ドワーフ年齢で百四、五十くらいになるのかな?
 けど、この大雑把な計算だと坑夫組が迷宮を発見して全滅したのが百年ほど昔のことになる。センシは魔物食の研究を十年来やっていると言ってたから、九十年かそれ以上を無目的に迷宮周辺でブラブラ過ごしていたことに……マジか?
 ちょぉっと計算に無理があるのかな。もう少し材料が欲しいところ。
 センシがケルピーを「アンヌ」と呼んでいた理由も、ここで回収。いちいち丁寧ですな。
 チルが世帯持ちだったことにも、びっくりだ。

 一行が、しっかりチェンジリングを踏んで、8巻に続く(笑)。