納めの薬師、針供養 (旧暦 霜月二日)

 例えば、レコード・プレーヤのワウ・フラッタ。

 ええと、ワウ・フラッタというのは要するにプレーヤが起こす回転ムラのことです。音程が狂うような低速域のムラを「ワウ」、ノイズの原因ともなる高速域のムラを「フラッタ」と呼ぶそうです。
 で、このワウ・フラッタの少ないほうが高性能ということになるわけですが。阿呆な妖之佑はカタログ・データを盲信し、テクニクス最強と崇拝してましたよ。だって、他メーカーと比べて数値がダンチだったんだもん。(;^_^A
 無論、テクニクスのプレーヤは高評価を受けていた品であり名機揃い。これは、まちがいのないところ。
 ただ、ワウ・フラッタに限らず、性能値というのは同じ機種であっても測定環境・測定基準によって全然違うものになりうる。で、耐電圧や消費電力などと違い、音響機器としての性能表記は、お上があれこれと五月蠅く言ってこない。なので、同性能の自社品を他メーカー品より高性能だとお客に誤解させるために、他所と違う“物差し”を使うこともありうるわけです(どのメーカーがどうのこうの、とかは言ってませんからね、そこんトコよしなに)。
 ここに気づくまで、年月がかかったものです。(;^_^A
 まあ、もっと言うと、回転ムラが「0.0018%」だろうと「0.01%」だろうと、そんなの人の耳に聴き分けられる差ではない。もっと大事なものが他にあるだろ? ってことです。そこに気づくまでに(以下同文
 そうですね。プレーヤの日本メーカーの両横綱デンオンテクニクスで考えますと、もっとも大きな違いはACモーターかDCモーターか、という一点でしょう。デンオンはACに、テクニクスはDCに、長年こだわってきていて、ここをマニアのかたがたは重視するようですね。あと使い勝手の面でDJさんたちがテクニクス一択なのは、ご存じのとおり(おかげで、SL-1200 シリーズの中古生存率は極端に低い……)。無論、妖之佑の耳にACとDCの違いなんて判るはずもありません。なので、デザインや触れた感覚で選べばいいだけのこと(惚れ込んだカートリッジがあるなら、自重や針圧の面でそれをちゃんと着けられる、という条件確認は忘れるな)。

 ついで話に。ワウ・フラッタに関わるプレーヤのドライブ方式についても少し。
 そもそも電気モーターというのは高速回転するのが本分。高速回転してこそ安定する。
 で、レコード盤の 33回転1/3 とか 45回転とか言うのは、一分間に盤を何回転させるかという数字。なので低速回転に分類されます(レコード盤の演奏を見てりゃ判るか)。
 このままではモーターを使えないため、何かを間に介在させて解決した。アイドラーというゴム車輪や、ゴムベルト、あるいは繋ぎ目のない輪状態の糸。これらをはさむことで、細いモーター軸と、直径三十センチ以上あるターンテーブルとの円周差を減速に利用する。
 これに対してテクニクスが世に送り出したのがダイレクト・ドライヴ方式。モーター軸をターンテーブルの軸にしてしまうという、当時のテクニクスが重んじていた「シンプル・イズ・ベスト」な思想に基づくものですね。この実現のために低速で安定した回転を生み出すモーターを開発した。海外の老舗たちは、テクニクスの仕事を笑い飛ばしていたそうですね。「できるわけがない」と。で、SP-10 の実力を知って恐れおののき、ありもしない風評を流してDD方式を叩き潰そうとした。欧米人・基督教徒の常套手段です。
 それもあってなのかどうか、欧米のプレーヤ・メーカーは未だにDDのプレーヤを出してませんよね。逆に一時期は日本製のほとんどがDDになった。おかげで世界中にもDD方式は認められたと思われます。
 しかし皮肉なことに、そんな日本のオーディオ・マニアのかたがたが「DDは音が悪い」と、ずっと言っておられるという不思議な事実。そんな人たちは、ガラードのアイドラー・ドライヴや、トーレンスのベルト・ドライヴ、あるいは日本ならマイクロの糸ドライヴを使っていた。
 単にマニアの思い込み・自己満足なら、それはそれでいいんですが、当時のオーディオ誌の記事を見ると、意外と演奏家さん(プロ、アマチュア問わず)に、そーゆー意見があるというのが無視できない。実際に楽器を奏でる人の耳は、聴くだけの人よりずっと確かですからね。
 いちおう言われている理屈としては、モーターとターンテーブルの間にゴム等々をはさむことでモーターの微細な振動が吸収される、らしい。反面、ゴムが介在するために立ち上がりがDDに比べて、どうしても鈍くなるし、たわみによる回転ムラもありうる。ついでにゴムのパーツは劣化が早いからメンテがいちいち面倒。
 まあ、自分がプレーヤに SL-1200 を選んだのは↑の欠点を排除できるから、でもあったんですけどね。だって、定期的にゴムベルト発注なんて、めんどくさい。
 でも今、スペック値がすべてではない、という考えになってベルトやアイドラーにも興味が沸いてますよ。粗大ゴミで拾ったベルト式のプレーヤは、あるんですけどね。まあ安物なので、SL-1200 と比較しても無意味でしょうし、そもそも妖之佑の耳で聴き比べなんて、下戸に利き酒させるより無駄(爆)。
 そう言えば、かつて GT-2000 という超弩級なのに比較的お値打ちなDDプレーヤを出していたヤマハが来年発売する予定の GT-5000 は何とベルト・ドライヴなんだそうですね。これはマニアが喜びそうです。トーレンスがバカ高くなっていることに比べれば、定価六十万円は特に高くはないですし。