(旧暦 長月六日)

 録りっぱだったのを、ようやく一気観しました。



 うん。さすがに三期ともなると、そろそろ視聴者めいめいで腹をくくる頃合いということですね。

 一期のときは、いわゆる異世界転生物として見ていれば、それでよかった。
「いきなり崇められて凄く偉いふりしなくちゃいけなかったり、行ったこともない所でやったこともない仕事をいくつもやらなくちゃいけない」立場のモモンガさんの七転八倒と起死回生の逆転劇を愉しめば、よかった。クレマンティーヌをいたぶり殺すのもカタストロフだし、ホニョペニョコとの決戦なんてモロにクライマックス♪

 二期になり、何の落ち度もないリザードマンの村に一方的に侵略戦争をしかけるあたりから、視聴者の戸惑いも沸いてくる。
 そして同じく二期のゲヘナ。これはもう、邪悪なる組織の非道なる所業でしかない。罪なき一万人の平民すべてを実験体や素材として利用。その挙げ句が「苦痛なき死を」で慈悲に代えてしまう自分勝手さ。
 この時点で、アインズは鈴木悟でもモモンガでもなく、アインズなんですよね。

 そしての三期。
 大きく分けてカルネ村の件と、大墳墓攻略の件と、そして大虐殺。

 一期でカルネ村を助けたモモンガさんには、恩人たっち・みーさんの意志を受け継ぐ気持ちがあった。お得意のアドリブ後付設定で守護者たちに言い訳をしてますが、本音では人としての情で村を助けた。
 しかし、三期でのカルネ村に対する姿勢は利用価値の有無のみで決まる。もはや、たっち・みーさんの心意気など頭の隅っこにもないですね。ネムを四人目の庇護対象に加えたのも良心や慈愛云々でなく、単にネムがナザリックのあれこれを凄く褒めてくれたから。つまりは、帝愛の兵藤会長が上機嫌になるレベルのものでしかない。何かあれば、またすぐに対象から外すくらいに軽いものですよ。

 大墳墓に立ち入ったワーカーたちを返り討ちにした件も、一期の「漆黒の剣」やズーラーノーンに関わった件とで雲泥の差。
 あのときも、モモンさんは「利用するつもりだったパーティを全滅させられて不愉快」という言い訳をクレマンティーヌに言ってますが、その実、彼らに情を持っていたことはまちがいない。この情が、二期のツアレの件で生きるわけですし。
 事あるごとに人を虫けら呼ばわりするナーベさんに拳骨を落とすのも、人に偽装しているという理由付けはあるものの、実際には自分も人である自覚が残っていたからに他ならないわけで(同じ頃、ナーベさんに人間種の評価を尋ねて、その辛辣さに凹んでましたしー)。
 しかし、大墳墓を釣り餌にしてのワーカー一網打尽は、発案者がデミさんということもあり、ゲヘナと同レベルの邪悪さ。アインズが気乗りしなかったのは、大切なナザリックに部外者どもを立ち入らせたくなかった、ただそれだけ。なので、自分でおびき寄せておきながら、フォーサイトを前に激怒するアインズは、自ら言うとおり「わがまま」なのですよ。その挙げ句に、捕らえた(回収した)ワーカー全員を最大限に利用して、それを「狩り殺した者の責任」であり「供養」と言ってしまう。人の立場からすれば「冗談じゃねえ!」ですな。
 まあ、ワーカーたちについては、そもそも新発見のダンジョンに一切の予備知識なしに乗り込む危険性という観点から、どう見ても自業自得であり、同情する気も、さほど沸きませんがね。

 そしての大虐殺は論外か。
 勢力図を確定させるための力の誇示という意味で必要とは言え……ねぇ。
 多少なりとも気持ちが救われるのは、犠牲者がすべて軍属である、という一点。まあ、王国では一般兵は兼業というのがちと辛い部分でもあるのですが。それでも非武装市民でないだけ、この大虐殺はゲヘナとは比べものにならないくらいマシではある。
 マシではあるけど、非道だし邪悪。少なくとも人類視点で言えば、アインズとそれが率いるナザリックは悪そのもの。

 なので。
 視聴者も腹くくる頃合いなんですよ。

 ナザリック側、つまりは悪の側に付いて世界征服の達成を見守るか。例えるなら『仮面ライダー』をショッカーを応援して観るような、ね。
 さもなくば、勝ち目の見えない絶望的な闘いに挑み何とか生存しようともがく人類の苦悩を応援しつつ観るか。実際、皇帝なんかは人類の将来まで考えていて、まさに正義。
 この二択しかないんですよね。
 一番やってはいけない精神衛生上よろしくない観かたは、アインズ様の「だからどのときだよー!?」などの自虐ギャグやら、守護者たちののほほんとした日常(アルベドさんが実は乙HiME のローブを装着できる身だったとか、大浴場のふざけた仕掛けとか)を楽しみながらも「アルシェだけは助かってくれ」と願う姿勢。これはダメです。エントマがアルシェの声を使って死体の利用状況を報告するあたりで、もう心が持ちません。
 だからさ、連邦とジオンの両方に共感して『ガンダム』観るみたいには、いかんのよ。

 例えば、カルネ村だけを切り取ると観るのも楽なんですけどね(ただし、背後関係を考えずに観る、という条件付き)。
 気の良いゴブリンたちは魅力的ですし。
 姐さん→村長→族長→将軍閣下 と大出世するエンリも、一期の頃を思えば幸せですし。
 二つめの笛で召喚された五千のゴブリン軍勢(軍楽隊までいるとは構成の完成度が半端ない!)は、二期終盤のモモンさん着地並みに盛り上がりましたし。いやまあ「エンリ将軍閣下が配下」の連呼は下手すると噴きますがね(笑)。
 あの第一王子は見事なテンプレ準拠の愚か者として、それこそ別の異世界クリボーフルボッコされた王子と同じくらいに自分の配役を果たしてますし。

 でもまあ、全部観ちまうと、腹の収まり処が悪い。
 だからこそ、観る際の自分の立ち位置を決めたほうがいい。

 何だかんだと言いましたが、それもこれも四期があれば、の話ですけどね。



 ところで。
『ぷれぷれぷれあです』が気になって仕方ないんだが……(爆)。